30話 奏とデュエット


「奏~! 俺とデュエットしようぜ」


 クロとの決闘の翌朝である。え、遊んでばっかだけど侵入者来ないのかよって? 勿論来るとも。でも、山に住む魔物がやって来るくらいで人間の侵入者はまだ来ないのだ。故に以前設置した魔物渦から定期召喚されるPOPモンスターだけでどうにでもなってしまうのだ。俺たちが遊んでばっかなのは、それが理由である。

 ちなみに現在、我が家の迷路エリアに徘徊している魔物達は全部で300体。

 ゴブリン種、コボルト種、オーク種、バット種、スネーク種がそれぞれ60体ずつである。キレイなジャ○アン化した魔物達もいるけど、彼らは戦闘員にはなれないので俺たちの生活空間で共に従者として暮らしているのだ。

 きちんと労働力として活躍しており、リーリエ達もとても助かっているようだ。 

「え、突然どうしたの? 勿論良いけど」



 首を傾げる奏。

 本気で戸惑っているらしい。宇宙猫状態とまではいかないが、はてな顔をしている。



「いやな? 昨日クロと初デートしただろ。でも奏とはまだ初デートしてないなって思って。すっ飛ばしちゃっただろ? だからさ、デュエットしようぜ!」



 そう。俺と奏はなんだかんだ、まだ初デートすらしていない。俺達は人類の敵対者だから、いわゆるデートは出来ない。

 俺が変装すれば奏は大丈夫だろって? それが、そうもいかない。容姿は人間の頃と変わりないが、俺が魔王化した影響で眷属の皆は半悪魔ハーフデーモンとなったのだ。ただそこに居るだけで人間には害となる瘴気を、常にまき散らしてしまう。これは抑えることが出来ないものなのだ。

 故にデートがしたいなら、ダンジョンの中か人類圏に近付かずにしなくてはならないのである。そこで思いついたのが、デュエット。

 俺は前世、アコースティックギターをかき鳴らしながら弾き語りしてた時期があったのだ。歌唱と演奏の熟練度が結構高いのは、それが理由である。

 小5の頃にハマって親に買ってもらい練習してたら、当時まだ小2だった紗耶香が目を輝かせて『おにいちゃんすごーい!!』って喜んでくれた。

 だから、それ以来ガチで練習しまくって、毎日毎日紗耶香のために弾き語りをしてた。ちなみに芸術の熟練度も紗耶香のおかげである。俺の落書きを見た紗耶香が喜んでくれたから。それ以来、紗耶香の似顔絵を描きまくったのだ。紗耶香人形も作ったっけな。家事全般の裁縫技術はそれで身に着けた。

 あっ……そうだ。今度皆の人形作ろう。フィギュアとかに挑戦してみるのも面白いかもな。DPショップで調べてみよ。あれ? ゴースト系の魔物とかスカウト出来たら、そこに入り込んでもらうのアリだな。ん~む、墓地とかどっかにないかな。



「ぁ……気付いて、たんだ? えへっ。うん! 歌お!! La~」

「あっ! ちょ、ちょ待ってぇな!!」



 考え事してたら奏が歌い始めてしまった。可愛いし、喜んでくれたのはマジで嬉しいけど……違うのだ。



「え、どうかしたの? 歌おーよ」

「どうせやるなら、皆の前で披露しようぜ! 俺が弾き語りで、奏が歌う!」

「あっ、そっか! そういえば創哉って演奏も出来るんだっけ。いいね! うん。そうしよ! そういうの大好き!!」



 にぱっと笑う奏。可愛い。



「はは! 奏、昨日ノリノリだったもんな」

「うん。私、お祭り騒ぎって大好きなの。見てることしか出来なかったから、ずっと参加してみたいって思ってたんだ」



 思いを馳せるように、遠くを見つめる奏。



「そっか……よし!! いっちょ皆の度肝抜いてやろうぜ! どんちゃん騒ぎにしよう!!! 最近飯作るのリーリエ達メイド部隊に任せてたけど、今日は俺が作る! 奏が最っ高に楽しめるような祭りにしてやっからよ!!」



 ニヤリと笑いながら、奏の両肩にそれぞれ手を置く。



「ふふ! うん。楽しみ! じゃあ、私も料理手伝おっかな。ね、良いでしょ?」



 すると奏はそう問いかけてきた。



「勿論!! って、そっか! そういや言ったな前に。おし! 一緒に作ろうぜ!」

「うん!」



 



◇◇◇







「つー訳で、今日は宴だ!! 皆好きに食って飲んで、俺たちの歌を聞いてくれよな! 飛び入り参加も歓迎だ。ただし2曲目からな? 1曲目は俺たちだけで歌う。ってことで、カンパーイ!!」



チン!!



 わいわいがやがや。

 近くの者とグラスを軽くぶつけ合い、一気。キレイなジャ○アンな魔物達とクロ以外は18歳未満しかいないため酒ではない。この世界では14で女の子は成人だから奏だけは良いのかもしれないけど、身体に悪いと思うし何より奏自身が特に興味なさそうだったので他の娘たちと同じ、100%フルーツジュースだ。これに関してはDPショップで購入した地球製品ではなく、山に実っている果実を使った。ピノリアの実とか言う黄色に赤い縞模様の入ったひょうたんみたいな見た目の果実で、中身は赤い。味のイメージとしてはオレンジとグレープフルーツが混ざり合った感じで、なかなかに美味い。



 キレイなジャ○アンな魔物達はモルツやら麒麟やら神泡やらのビール類を適当に飲んでいて、クロは日本酒を飲んでいる。しかも鬼殺し。縁起でもねぇから辞めろよって言ったんだが、聞く耳を持ってくれなかった。どうやらハマったらしい。

 なんでも、このカッと来る感じがたまらないのだとか。今度からは俺の分だけじゃなくて、クロの分も激辛カレー作らなきゃだな。



 今回歌うのは、地球で流行ったラブソング。特に結婚式で大人気だった奴で、日本のジャスト1時なロックバンドの一曲。

 弾き語りにも合うし、何より俺が奏に伝えたい想いそのものだ。もはやこれ以外にないと決めていた。今回のデュエットを思いつかなくても、確実に歌ってやりたいと思っていた曲なのだ。

 

「ワン、ツー」



 合図を出し、ジャカジャカとアコースティックギターをかき鳴らす。

 出だしの部分の英語の部分は、俺が単独で歌う。 

 

「「愛してるよ~」」



 こうして、俺と奏のデュエットが始まった。







◇◇◇







「よっしゃ。縁もたけなわだが、そろそろお開きとしようか! 寝ちまった奴も結構いるしな。起きてる奴は寝てる奴らを寝室まで連れてってやれ」



 朝から始めた宴だったが、深夜まで続き大盛り上がりに終わった。

 上手く行って、ホント良かった。何より奏が凄く楽しそうだったからな。内心でそんな風にホッとしていると、ペドメイド集団の一人が話しかけてきた。

 

「あ、あの! 創哉様」



 片眼が隠れた、紫髪をボブカットにした赤目の娘だ。



「うん? シンシアか。控えめな君が自分から話しかけてくるとは、珍しいな。なんか用か?」



 目線を合わせるため片膝をつく。



「そ、その……奏お姉ちゃんとのお二人でのデュエット、本当に素敵でしたっ!」



 恐る恐ると言った感じで、ビクビクとしながら目をぎゅっとつむり深く頭を下げるシンシア。



「ふふ、ありがとう。そう思って貰えたなら、良かったよ。さぁ、シンシアももう寝なさい。もう夜遅いからね」

「あっ、その、ちょっと待ってくださいっ!」

「うん? まだ何かあるのか」

「は、はい。その……創哉様は、セイレーンをご存知でしたよね?」



 セイレーン……確か、歌が上手い海に住む魔物だったか。上半身が人間の女で下半身が魚、いわゆる人魚的な存在だったと記憶している。

 この世界ではどうなのか知らんけど。コアからの刷り込みには、そこらの知識はなかったのだ。



「うん。一応知ってるぞ?」

「ですよね。その、それでですね! お二人のデュエットなら、セイレーンを堕とせると思うんです!! 彼女たちは、歌が上手い愛し合う男女が大好物なので」

「えっ、そうなの?」

「はい!」



 自信を持って頷くシンシア。

 本当に珍しい。彼女は基本ビクビクしてて、いつも大人しい娘なのに。



「確証があるんだな。どうしてだ? 何か理由があるのか」

「あ、はい! そういえば、まだ言っておりませんでしたね。その、私のひいおばあ様から聞いたんです」

「ほぅ、ひいおばあ様から。するってーと、その人は昔冒険者かなんかだったのか?」

「い、いえ! そうではないんです。その、ひいおばあ様は魔女です。私達は魔王崇拝者の一派だったんです。だから、昔は魔物であるセイレーンさんとも会う機会があったようでして」

「ゔぇ!?」



 え、え……? 魔女? 魔王崇拝者の一派? シンシアが?



「ま、マジで?」

「はい。大マジです」

「で、でもその割には、その……シンシアさんったら魔力も低めだし、薬学に通じてそうなスキルもなくないです……?」

「あっ、はい。私はその……魔女としての知識を教わる前に村に行ってしまったので。それに、魔女はひいおばあ様が最後の代だったんです。私達は魔王崇拝者の中でも、サタニスト……憤怒の魔王を信仰する一族でして。現在創哉様が襲名した憤怒の魔王サタンの座にかつて居た先代様が、200年ほど前に亡くなられて。だからひいおばあ様が、サタン様が御存命だった頃に僅かでもお仕えしたことのある最後の代なんです」 

「ほ~、なるほどね」



 そうか。だから魔女としての血が薄れて、魔力を低く持って生まれてしまったのか。まぁ、それでも前にクロムウェルを公開拷問した時に居た魔法使いっぽい冒険者より魔力は高いけど。



「にしても、それじゃ凄い偶然じゃないか」

「はい。そうなんです!! だから私、今凄く幸せなんです! もう不可能だと思っていた一族のお役目を果たすことが出来るっ! しかもその御方は、私達の命の恩人。これってもう運命ですよねっ!? ですから、これからもずっと、お仕えさせてくださいませ。創哉様」



 床に両ひざをつき口の前辺りで手を組んで祈るように、縋るように、俺にかしずくシンシア。



「わざわざ言われなくても、離してやる気なんかない。でも、俺のことはお兄ちゃんって呼んでくれた方が嬉しいんだけどなぁ。兄様、お兄様、兄上、兄者! あぁ素晴らしきかな妹!! あ、やべっ。そんなこと考えてたら妹分が足りなくなってきた。その……シンシアさん、お願いします!」



 グッ! と両腕に力を籠めて目を閉じ思いを馳せながら語り、妹分が足りなくなってきたのでシンシアに手をパンっと合わせて頭を下げて頼み込む。



「あ、ははは……。えっと、これで……いーい? お兄ちゃん」

「イイッ!! 困り顔目隠れ妹イイッ!! 最高!」



 やっぱ、妹ってイイよな。妹としていっちゃん愛してるのは当然今でも紗耶香だし、それは永遠に変わらないけど。でもそれはそれとして、やっぱ妹という概念が素晴らしいよねっ!!! 



「ありがとうシンシア。これで、また暫くは頑張れそうだ。皆、メイド服着てる間は意地でもお兄ちゃんって呼んでくれないからなぁ~。そういやシンシアはどうして呼んでくれたんだ? メイド服なのに」

「あはは……必死でしたから。断れませんよ。メイドとしても、サタニストとしても」

「そっか」

「はい。まぁとにかくそういうことなので、心臓の方は私達で守っておきますので創哉様は奏お姉ちゃんと一緒に、北方の海にいるセイレーンを口説きに行ってください。彼女たちは必ず役に立ちます。それに……お祭り楽しそうでしたけど、やっぱりデートはお二人だけで楽しんでこそだと思いますのでっ! それでは、お先に失礼させていただきます」



 そう言ってシンシアは、一礼して俺の前から去った。

 

「かぁ~……言われちまったか。ま、そうだよなぁ」



 途中から薄々気付いていた事実を言われ、自分の不甲斐なさを感じ入った俺はがりがりと頭を掻く。



「セイレーン、か。どんな奴なんだろうな」



 まだ見ぬ新たな仲間候補に思いを馳せながら、俺はすぅすぅと寝息を立てて眠りこける奏を抱き上げて、寝室へと向かったのだった。







――歌唱の熟練度がカンストしました

――演奏の熟練度がカンストしました

――エクストラスキル『唱奏思念伝達』を獲得しました

――条件を達成しました。複数のスキルを統合し、ユニークスキル『吟遊詩人』を獲得しました





今話の最終ステータス 

======================

名前:神崎創哉 16歳 男 レベル:25

種族:魔王  

クラス:迷宮主ダンジョンマスター



CBP:3000/3000

筋力:4500

耐久:1650

敏捷:3100

魔力:7750

器用:6250



能力:クラススキル『迷宮の支配者』

   …DPショップ,領地拡大,領域改変,領地内転移

    虚ろなる身体,万能翻訳,眷属化,解析



   ユニークスキル『暗殺者』

   …暗器百般,生体解剖,弱点看破,影渡り,状態異常付与



   ユニークスキル『武芸者』

   …武芸百般,闘気術,超加速



   ユニークスキル『吟遊詩人』

   …唱奏思念伝達,地獄耳,絶対音感,声域拡張



   称号スキル

   『転生者』『超シスコン』『憤怒の魔王サタン



   エクストラスキル

   『悪意感知』『直感』『家事全般』



   常用スキル

   『魔王死気』



熟練度:芸術5

耐性:飲食不要,疲労無効,不老,痛み耐性Lv8,熱変動耐性Lv3 

======================



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る