28話 第1回ダンジョン決闘会

「んなこと分かってんよ。……今ちょいと10000DPガチャを30連分回してみたんだが、面白い陣地を獲得出来てな。『コロシアム』っていう陣地なんだが、どうもその中でなら眷属と主でも本気の決闘が出来るらしい。……やろうぜ黒夜叉。これが俺の選んだ、お前との初デートだ」



 俺が憤怒の魔王サタンと呼ばれるようになった翌日である。 

 800人殺しによる獲得DPと、クズ共の拷問による定期収益、それから更にクロムウェルを見せしめにしたことによって領民たちは強烈な恐怖を抱きながら生活しているらしく感情収益も手に入っている。

 おかげで今、我が懐事情は非常に潤っている。

 所持DP、なんと200万。その内、領民からの感情収益が4割を占めている。大規模な領地だけあって母数が多く、一人一人から得られるDPは僅かでもまとめると膨大になるのだ。だが、この収益は長くは続かないだろう。

 人々は奮起し、準備を整え俺のもとへ攻め込んでくる筈だ。ならばそれまでの間俺に出来ること。それは当然、迎え撃つ準備だ。

 コロシアムをゲットするために、30万DP使用した。だから現在の所持DPは170万。それでもまだまだ出来ることは多い。

 今回、俺はあと70万をダンジョンの改築や軍備の強化に費やし、その後……例の究極ガチャを引くつもりだ。アレは所持DPを全て消費するが、100万DPで引ける上にゴッズランクが確定で引ける。何が来るかなど分からないが、名に恥じぬ性能を持っていることだろう。……楽しみだ。



「ひひっ、ひっひっひ! ひーっひっひっひ! やっぱ、あんたは最高や! 初デート、存分に楽しもな。創哉はん」



 嬉しそうに目を見開いて好戦的に笑うクロ。あの時、クロの想いを受け入れた時は花が咲き誇ったかのような乙女な顔をしていたが……こういう顔も、やはり似合うな。



「おうよ」







◇◇◇







 薄暗い通路。その伸びた先には、落ちた鉄製の格子戸がある。

 そこから、白色光にも似た明かりが入り込んでいた。

 俺はその広く高い通路を歩く。通路に掲げられた松明たいまつの炎の揺らめきが陰影を作り、影が踊るように揺らめく。

 格子戸の隙間から場内を覗き見る。

 そこにあったのは、何層にもなっている客席が中央の空間を取り囲む場所。



 そう、円形闘技場コロシアム



 施設本体の大きさは東京ドームくらい。戦闘エリアは東京ドームのグラウンドより少し小さく、10000㎡ちょっとだ。

 とんでもない大きさだが、一応分類上は『陣地』に入る。つまり更に上の『城』は更に大きいということになる。ぶっちゃけ想像がつかない。目的のものを手に入れられたのだ。自分の運に感謝だな。良かった良かった。

 DPショップにはなかったのか? いや、ある。けれど物凄く高い。最初は俺も普通に購入しようとしていたのだ。けれど500万DPも消費するから無理だった。

 もう安物の『城』なら買えるDPですよねソレ!? って思ったけど、何度見ても分類上は『陣地』。恐らく『城』に分類されるためには高さが必要なのだろう。

 この円形闘技場コロシアムは横に広いだけで、高さは13mくらいで3階建て程度しかない。それも全ては観客席が上に上に重なっているためであり、天井は存在せず野ざらしだ。しかし雨天時も問題ない。何故なら魔法の結界によって空間を隔離しているからだ。その為、戦闘エリア内から観客席に飛び火することはないし、逆また然り。更に野ざらしに見える部分から侵入を試みても、障壁によって弾かれてしまうのだ。



 そんな円形闘技場コロシアムを、俺は洞窟の外に設置した。いわば、学校で言う所の体育館だな。まぁその例えで言うと我が校ダンジョンは今の所グラウンドが一番広いんだけど。

 何せ山一帯に加えクロムウェルの領地も丸ごと加わったからな。領地の広さだけで言えばおよそ3万ヘクタール。平米数に直せば3億㎡で、東京ドーム6000個超えの広さだ。

 ちなみに俺たちの生活区域である洞窟(地上)は、まだ800㎡くらい。ちなみに地下空間は増築などしてないので買った当初のまま。けど拷問部屋自体は200人近くも増えたので流石に増築して、現在は地下空間の40%が拷問部屋となっている。



《さぁやってまいりました! 第1回ダンジョン決闘会!! この度、進行を勤めさせていただきます神崎奏です! では両者、ご入場くださあぁぁい!!》



 突如として聞こえてきた声に驚く。

 確かに、奏のユニークスキル『歌姫』ならばマイクがなくともこれくらいの声を出すことは可能だろう。 

 けれど……あの娘は何をしてるんだ? というか、そもそも俺とクロが決闘するなんて伝えた覚えがないんだけどな。まぁ……あの時近くに居たっぽいし、聞き耳立ててたのかね。



《まず入場してきたのはぁぁ~? 最近人間たちの間で『地獄の怨鬼』と呼ばれるようになった、我らが姉貴分! 黒夜叉ぁぁぁ~~!! その剛腕が火を噴くのか!? それとも妖術によるトリッキーな戦法をとるのでしょうか!? 私にはまだ予想もつきません!!!》



――クロ姉様頑張って~! 

――頑張って~、クロねえ~!

――キャーキャー!!!



 観客たちの黄色い声援が轟く。

 居場所分かるから居るのは知ってたけど、他の娘たちもノリノリなのね。

 ってかなんか、やたらそれっぽい進行するな奏。俺別に格闘技のテレビ番組とか見たことないんだけどな……竜の玉のお話のアナウンサーから学んだのか?

 まぁいい。こういうノリは大好きだ!! ふふっ、全力でノッてやろうじゃないか。

 目の前にあった格子戸がガラッ! と勢いよく上がる。

 

《続いて入場するは我らが主、神崎創哉!! 魔王として生まれ変わり大きく伸びたその実力の底は、私では到底理解が及びません!! って、お~っとぉ!? 神崎創哉選手! ご機嫌に踊りながらの入場です!!》



――カッコいいのですぅ兄様~!! 

――お兄ちゃん頑張って~!   

――キャーキャー!!!



 入場してみると観客席に居たのは、いつものメイド服姿のリーリエ達ではなく思い思いの格好をした、私服姿のリーリエ達だった。

 メイド服じゃないからモードも切り替えているようで、俺のことを以前のように兄と呼んでくれている。元々やる気は高かったけど、ちょっと……いや、かなりやる気が漲ってきたな。こりゃ負ける訳には行かねぇぜ。



「なんや、えらいことになっとるのぅ。創哉はん」

「はは……だな。けど悪くねぇ、だろ?」



 ニヤリと笑って問いかける。



「ひひっ! せやな」



 同じくニヤリと笑い、肯定するクロ。



「負けねぇぞ? クロ。奏と可愛い妹たちが見てんだ」

「ひひっ! それは、うちもやで? 創哉はん。うちにとっても、あの娘たちはかわええ妹分。あの娘たちの前で無様な姿は見せられへん。あん時強ぉなったんは、あんただけやない。うちもや……」

「そら楽しみやな」

「ひひっ! また移っとるで」

「はっ、良いんだよ。こまけぇこたぁ、さっさとやろうぜ。死ぬことはねぇんだからな。お互い遠慮はなしだ」

「おぉ」



 そう、死ぬことはない。

 これこそが、この円形闘技場コロシアム内では眷属と主でも本気の決闘が出来る理由だ。攻撃を受ければ普通に傷つくし、痛い。でも死なない。

 迷宮核ダンジョンコアが砕ければ死ぬんだから危ないのでは? それも関係がないのだここなら。ここの中での俺は、再生能力もない上に疲れる。代わりに平常時の俺なら常に心配しなくてはならない迷宮核ダンジョンコアへのダメージ移動を心配しなくて良い。

 侵入者が砕けば普通に死ぬから心配はしなくちゃならないが、俺がダメージを受けてもコアには行かない。だから問題ないのだ。



《さぁ、両者準備は宜しいですか!?》



 観客席にいる奏に視線を向けて、頷く。



《それでは……始めてくださああああいっ!!!》



 今この瞬間、戦いの幕が切って落とされた――!!!

 

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