25話 覚醒

「さて、と……んじゃちょっくら行ってくるかね。俺という存在を、人類に意識させてくるわ」



 束の間の平穏に、自ら終わりを告げる。 

 

「いよいよっちゅう訳や。隠れ潜むのは、やめにするんやな?」



 クロが不敵に笑いながら、問いかけてくる。



「あぁ。奏と子供たちには変わらずダンジョンで留守番をしていてもらうが、俺とクロで出る。クロムウェルを領民の前で分かりやすく拷問して、俺の怒りを人類に思い知らせる。俺の怒りを買えばどうなるのか、念入りに刻みつける。……一度行えばもう後戻りは出来ない。さっきの続きを聞こう。答えは出たか?」



 食事中に、俺は今後の方針を簡単に話した。

 考えておいてくれとだけ言って一旦保留にしておいた質問の答えを、今こそ聞こうということだ。



「私の居場所は、ずっと創哉の隣だから。例えどんなことになっても。だから私は創哉がそうするって言うなら、それに従うよ。皆は、どう? まだ人間社会に心残りがある娘はいる?」



 奏が立ち上がり、俺の隣に立って皆に問いかける。

 すると皆はそれぞれ顔を見合わせ一つ頷くと、立ち上がった。



「私達はあの村で使い潰されるか、一生慰み者として生きていたであろう身。それを創哉様が救ってくださいました」

「なら私達の命は、創哉様の物なのです!! だから」

『どうか私達も創哉様の行く道についていかせてくださいませ!!』



 皆が一斉に答える。

 その瞬間、



――個体名『神崎創哉』に向けられる忠誠心が一定量を大幅に超過したことを確認しました

――称号スキル『王の器』を獲得しました



 天啓が響く。



「王の器、か。ひひっ……! このタイミングでソレを得るとはのぅ、やっぱあんたは持っとる人やわ」



 俺を含め皆が突然の天啓に混乱していると、一人訳知り顔でクロが笑う。



「何か、知ってるのか? クロ」

「ひひっ……おぉ、知っとるで。その称号はのぅ、覚醒の前兆やで。仕事としての、呼び名としての王が、種族としての真なる王に変わる前兆。ひっひっひ! ひーひっひっひっひ!!! あぁ、楽しみやぁ~。あんたが、どんな王になるのか。どんな道を行くのか。それを、うちは隣でずっと見続けたい……」



 まただ。また、あの顔だ。らしくもない儚げな笑み。寂しそうな目。

 腹が立つ。まるで自分は傍に居られなくなるとでも言いたげな顔に見えて。それをさせているのが恐らく、俺の煮え切らない態度であると分かって。

 小さく、だけど深くため息をつく。もう捨ててやる。俺の個人的なこだわりなんて。こいつらが悲しむくらいなら、俺の個人的な都合なんて、どうだっていい。



「何言ってやがんだ黒夜叉ぁ! 見続けたいも何も、テメェはずっと俺の隣に居るんだよ! 寂しそうな目ぇしやがって。もう手放す気なんかさらさらねぇから覚悟しろや!!」

「っ!? そ、それって……」

「あぁそうだよ!!! 全部終わってから考えるなんて誤魔化したけど、あの時点でもう答えは決まってたようなもんなんだよ。クソッ! はぁ……だからよ、そんな顔もうすんな。良いな?」

「……ほ、ホンマにええんか? あんなに、こだわっとったのに」

「良いんだよもうそんなこと!!! っつー訳で、散々お前だけを愛したいなんて言っておいて最低な限りだが、こいつも嫁にしたい。良いか? 奏」

「ふふ……やっと決心したんだ。うん勿論!! それに、創哉は最低なんかじゃないよ。ちゃんと私に相談して、堂々と俺の嫁にする宣言したんだから!! 浮気とは全然違うよ」

「そうか、良かった。……さぁ~て、行くかクロ!! 俺の隣で、テメェの目でしっかり見とけや!! 俺の王道って奴をよ!!!」



 ニヤリと笑って、クロに手を差し伸べる。 

 

「……ひひっ、ひひひ!! おぉ、しっかり見させてもらうで!! 創哉はん!」



 実に嬉しそうに、まるで今この一瞬で沢山の花が咲き誇ったかのような満面の笑みを浮かべて俺の手をとるクロ。

 創哉はん、か。主呼びも、それはそれで良かったけど……これも、イイな。

 奏の創哉って呼び方とは、また違う感じがして少しこそばゆくなる。



「んじゃ、行ってくる!」

「うち等がらん間も、気ぃ付けるんやで!!」



 2人でそう言い残すと、転移でクロムウェルを拷問部屋から引っ張り出し、すぐさまクロムウェル領に向かう。







◇◇◇

 





 昨日の一晩で実質このクロムウェル辺境伯領が墜ちたことに今頃気付いた領民たちは、城塞の前にごった返していた。

 生き残った、一人の騎士に事情を聞くためだ。

 そう。俺が昨夜たった一人見逃すと決めた騎士、セオルド。俺達が入領する時に世話になった、あの平民上がりのオッサン門番だ。

 だが可哀想に。彼に事情など分かるはずもない。何故なら彼はクロムウェルの家臣ではあるが城住まいではなく、領内に別で奥さんとまだ4歳と5歳の娘2人が待つ自宅があるからだ。見逃すと決めた最大の理由はこれだ。

 世話になったからってのも勿論ある。だけど彼は、クロムウェルの『村』運営に一切関与していなかった。それに関する情報を全く知らなかった。

 理由を考えてみたが恐らく、たった一人の『平民上がり・・・・・』だったからなんだろうな。

 事情を説明しろと領民に詰められるも、訳が分からず困惑しているオッサンがいい加減哀れになったので俺は『圏境』を解くことで、クロは妖術を解くことで、極妻風状態のクロと共に姿を現す。



「あっ、お前さんらは!! 無事だったんだな。良かった!」

「えぇ。何やら大変そうですね? 門番の親父さん」

「あぁ実はそうなんだよ。昨夜城の方で何かあったらしいんだが、おっちゃんは何も分からないんだ。でもおっちゃん、一応家臣だもんだから」

「それは困りましたね。でもご安心ください門番の親父さん。その件のことなら俺達、力になってあげられますよ」

「本当か!? 何か、知ってるのかい?」

「えぇ。なにせ――」



 クロに目配せし、妖術を完全に解除させる。

 その瞬間極妻風の人間だったクロは、いつもの極妻風鬼人に変わる。

 続けて俺もユニークスキル『暗殺者』の能力の一つ、影渡りによって生まれる影の回廊とでも呼ぶべき空間に隠していたクロムウェルを、皆によく見えるよう陽の光のもとに引っ張り出す。

 その姿は無様そのもので、全裸にひん剥かれた上で鋼糸で両手両足を拘束され、猿轡と目隠しをされており、でっぷりと膨れた腹と脂肪に埋もれて粗末そのものなイチモツが風に揺れる。



「俺達こそが、昨夜の襲撃犯なんですから」



 それを聞くと、オッサンは目を見開き馬鹿なと呟く。



「騙していて悪かったな。騎士セオルド。お前には世話になった。それに殺す理由もなかった。だから生かした」

「な、何を……何を言ってるんだ!? 坊主……いや、貴様は何のために、あんなことをッ!?」



 一通り見てきたのだろう。死体はもう全部DPに変わっちまったが、血痕や破壊の痕は幾らでも残っているからな。



「……俺は、あそこに見える山に住まう迷宮主ダンジョンマスターだ。既にこの地も、俺の領地となった。……先日、このクズが運営していたとある村を滅ぼした。そこはセオルド、お前の娘さん達のような年頃の娘を攫っては調教し、いずれクロムウェルの嫁にする為の監獄だった」



 オッサンが目に見えて狼狽える。自分の仕えていた主が、自分の愛娘たちと同じ年頃の幼女を食い物にするようなドクズだったと知ったのだから、当然だな。

 ちなみに領民たちは、俺とクロが現れた時から顔を青白くして震えるのみだ。俺の『殺意の魔圧』と、クロの『威圧』。このダブルパンチで動くことすら出来ないようだ。見た目的に冒険者らしき者も百人ちょっと紛れているが、案外大したことないようだ。

 続けざまに、淡々と語る。



「そこの女の子たちは、こいつの好みから外れそうなら村の醜いオッサン共の慰み者にされ、終いには魔物の巣窟である山に捨てられた。俺のその捨てられた娘を拾い復讐の代弁者として村を滅ぼした。そして、そこで助けた女の子たちの一人に黒幕がこいつであると教えられた。……俺たちは怒っている。今日は、それをしっかりとお前ら人間に教えてやりたくてなぁッ!!!」



 クロムウェルの顔面を思い切り踏みつける。

 例え死にかけても、問題はない。その為に温泉の湯を800人殺しで溜まったDPを使って購入した、1000本はくだらない数の空の瓶に入れて持ってきてある。これも影の回廊に仕舞ってあるので、何時でも取り出せるのだ。



「始めるぞ。公開拷問のお時間だ。……よく見ておけ、人間共ッ!!!! そして俺たちの怒りを買うことの愚かさを、その愚行の果てを思い知れッ!!」



 拷問部屋から持ち出してきたハンマーで両手両足の指を一本一本叩き潰した。その度に死にかけるので温泉の湯をぶっかけて強制的に回復させる。今度は四肢を斬り落とした。少しでも苦しむよう、錆ついたのこぎりで。

 再び強制的に回復させる。ペンチで爪を剥がす。回復。金的を蹴り潰す。回復。イチモツを錆ついたのこぎりで切断する。回復。ひたすら状態異常で苦しめる。回復。ひたすらボコ殴りにする。回復。ひたすら切り刻む。回復。回復。回復。回復。回復。回復。回復。回復。回復。回復。回復。回復。回復。回復。

 一体どれだけの回数、クロムウェルを様々な手段で半殺しにしては回復させただろうか。昼に来たのに、世界は既に闇夜に包まれていた。

 その間、俺達を止める者はいなかった。

 オッサンも、もしかしたら自分の愛娘がそのような目に遭っていたのかもしれないと思うと、怒りが込み上げたのだろう。固唾を飲んで見守るのみだった。 

 そうして気が付いた時には、俺たちへ向けられる視線は畏怖に満ちていた。人々は口々にこう呟く。憤怒の魔王と、地獄の怨鬼が現れた。



――個体名『神崎創哉』に向けられる畏怖が一定量を大幅に超過したことを確認しました

――称号スキル『王の器』が覚醒します

――個体名『神崎創哉』を、魔王種へ転生させます

――主の魔王種への覚醒により、眷属が一段階悪魔デーモン化します

――魔王種への覚醒により、眷属の再転生が可能になりました

――魔王種への覚醒により、全パラメータが極大上昇します

――魔王種への覚醒により、スキル『殺意の魔圧』が『魔王死気』に変化しました

――称号スキル『憤怒の魔王サタン』を獲得しました

――格闘の熟練度がカンストしました

――殴打武器の熟練度がカンストしました

――剣術の熟練度がカンストしました

――条件を達成しました。複数のスキルを統合し、ユニークスキル『武芸者』を獲得しました



 天啓が響く。

 俺はこの日、名実ともに憤怒の魔王サタンとなった。















今話の最終ステータス 

======================

名前:神崎創哉 16歳 男 レベル:25

種族:魔王  

クラス:迷宮主ダンジョンマスター

 

CBP:3000/3000

筋力:4500

耐久:1650

敏捷:3100

魔力:7750

器用:6250



能力:クラススキル『迷宮の支配者』

   …DPショップ,領地拡大,領域改変,領地内転移

    虚ろなる身体,万能翻訳,眷属化,解析



   ユニークスキル『暗殺者』

   …暗器百般,生体解剖,弱点看破,影渡り,状態異常付与



   ユニークスキル『武芸者』

   …武芸百般,闘気術,超加速



   称号スキル

   『転生者』『超シスコン』『憤怒の魔王サタン

   

   エクストラスキル

   『悪意感知』『直感』『家事全般』



   常用スキル

   『魔王死気』



熟練度:芸術5,歌唱6,演奏6

耐性:飲食不要,疲労無効,不老,痛み耐性Lv8,熱変動耐性Lv3 

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