24話 嵐の前の静けさ

 夜闇の中をひた走る。

 そして的の部屋に辿り着くと音もなく潜入し、よだれを垂らしながら無防備に眠りこけるその首を取り回しがききやすいようナイフほどのサイズ感に調整した魔力の刃で切断する。

 またある時には、廊下を寝惚け眼で歩く的を遠距離から魔力弾で狙撃。

 またある時には、もはやお気に入りの特殊効果である『中に居る者が○○するまで絶対に出入り出来ない部屋化』でトイレの中に閉じ込めて狙撃。

 またある時には、隠れて宴会を開いている馬鹿がいたのでリーリエの『毒婦の鋼糸グローブ』を領地内転移で即座に借りてきて酒の中や料理に猛毒を仕込んで毒殺、麻痺殺。勘が良かったのか手を出さなかった奴は鋼糸による拘束からの斬殺。

 またある時には、ビビりらしく夜の城を怯えながら巡回していた如何にもな新人くんは、俺が殺意を高めてちょっと近付いただけで、絶命した。アレには不覚にも少々呆気にとられた。

 そんな作業を何度繰り返しただろうか。肩透かしな程順調に、事は済んだ。

 そう、もう的は全員仕留め終わった。呆気ないほど簡単に。俺の存在に気付き眠りから覚めて反撃してくるような者は一人もいなかった。

 これが本当に噂の? だがあのオスカーは、影武者でも何でもなく事実オスカー本人だった。解析の結果にも出ているから間違いはない。

 全ては終わった筈なのだ。それなのに、一向に胸騒ぎは収まらない。今回の襲撃とは関係のない予感だとでも言うのだろうか?



――人間の群れを討伐しました

――経験値を184897獲得しました

――レベル25に上昇しました

――称号スキル『転生者』の効果が発動。パラメータ成長値が上昇しました

――称号スキル『闇に潜む者』を獲得しました

――称号スキル『殺人者マンイーター』を獲得しました

――戦闘スキル『状態異常付与』を獲得しました

――武技『束縛』を獲得しました

――狙撃の熟練度がカンストしました

――短剣の熟練度がカンストしました

――条件を達成。複数のスキルを統合し、ユニークスキル『暗殺者』を獲得しました



 天啓が響く。

 800人ほど殺したから、経験値の高さには納得が行く。けれど……まさかユニークスキルを獲得出来るとはな。



「……まぁいい。帰るか」



 次の段階へ進むための準備をしなければ。







◇◇◇







「おかえり、創哉」



 我が家ダンジョンへ戻ると、優しい笑みを浮かべて抱きしめる態勢のまま待ち構えている奏が出迎えてくれた。



「あぁ、ただいま奏」



 それを素直に受け入れ、俺の方から抱き返して額を合わせて軽く唇を重ねる。



「……良かった。無事で。本当に」



 心の底からの安堵。

 張りつめていた胸を撫で下ろすように、奏は深く息をついた。



「それは、俺の方こそだ。あっちに居る間も、ずっと心配していた。何も無かったか? 侵入者とか」

「侵入者は来たよ。ゴブリンとかオークとかが何回か。でも、私達で十分対処出来たから。怪我人も居ないよ」 

「そうか……良かった。ありがとう。それと、出発前のこと……ごめんな。奏なりに気を配ってのことだったのに」

「え、いやいや創哉が謝ることなんかないよ! 私の方こそ……ごめん。創哉の私だけを愛したいって気持ちは凄く嬉しいの!! でも、やっぱり私は……クロの想いにも応えてあげて欲しいんだ。そりゃ創哉が本気で何とも思ってないなら、こんなことは言わない。でも……」

「あぁ、分かってる。向こうでクロにも言った。クロムウェル関連のことが全部終わったら、きちんと考えるって」

「……そっか。うん! そうしてあげて。良かったぁ~。へへ……」



 まるで一安心、とでも言いたげな雰囲気を醸し出す奏。

 クロとの関係がこじれなかった事への安堵かと一瞬思ったが、どうにも様子が違うように思える。



「そんなに安心することか? あいつの性格的に考えて、そこまでこじれるとは思えないんだけどな」

「ん~、それは創哉が楽観的過ぎかなぁ。恋は盲目って言うでしょ? ヤンデレって言うんだっけ。もう会わないような関係性ならともかく、クロはこれからも創哉の隣に在り続ける。片想いを抱えたまま別の女の子とイチャイチャしてるとこ見せつけられるって、かなりしんどいよ。その内どうにかなっちゃう可能性も考えられると思う。少なくとも私じゃ耐えられないかなぁ。完全に脈なしだと分かれば諦められるけど、自分のこと女として見てることだけはハッキリ分かるんだもん」



 それは……そうなのかもしれない。



「それにさ、ぶっちゃけたこと言うとね? 私だけじゃちょっと、夜の方がしんどいんだよ。創哉って、なんていうか、その、底なしだからさ……ははは」 



 困ったように目を逸らしながら笑う奏。

 

「ちょっ!? お、俺は確かに無尽蔵だけど……えっ、しんどかったのか!? もっと早く言ってくれよ!! そしたら……!!」

「創哉に我慢なんてさせたくないの!! それに私も、シてる時はその、すっごく良くて、しんどいなんてちっとも思わないの。でも……その、朝目が覚めるとちょっと、腰が痛くて……温泉に入ると、治っちゃうんだけどさ」

「そ、そうだったのか……」



 奏が俺を求めてくれるのが嬉しくて、ついノせられるがままに何ラウンドも何ラウンドも続けてしまっていたが、それがまさか奏の負担になっていたとは。

 温泉よ、ありがとう……!! あの時今じゃないとか思ってマジで悪かった。来てくれてありがとう!!

 だが、これは確かに由々しき問題だな。すぐに治るとはいえ奏の腰が傷んでしまうなんて。奏は我慢して欲しくないと言ってくれているが、もっと自重するべきだろうか……?



「今、自重しなきゃとか考えてるでしょ」

「えっ」

「もー!!! だから遠慮しないでって言ってるじゃん!! 私もシてる時はしんどくなんてないの!! 変に自重された方がヤだからね!!?」

「うっ……わ、分かったよ。これからも今まで通りで、な?」

「うん。宜しい! それじゃあ、まだまだ色々やることはあるだろうけど、ひとまず皆でご飯でも食べよ?」

「あぁ、そうだな」



 嫌な予感は、相も変わらず消えない。

 むしろ……少しずつ少しずつ、強まっているようにも感じる。それは俺を脅かす何かが近付いてきていることを予感させた。

 だけどまだ弱い。ならば今は、この幸せを享受しよう。















今話の最終ステータス 

======================

名前:神崎創哉 16歳 男 レベル:25

種族:人間  

クラス:迷宮主ダンジョンマスター

 

CBP:3000/3000

筋力:900

耐久:330

敏捷:620

魔力:1550

器用:1250



能力:クラススキル『迷宮の支配者』

   …DPショップ,領地拡大,領域改変,領地内転移

    虚ろなる身体,万能翻訳,眷属化,解析



   ユニークスキル『暗殺者』

   …暗器百般,生体解剖,弱点看破,影渡り,状態異常付与



   称号スキル

   『転生者』『超シスコン』

   

   エクストラスキル

   『悪意感知』『直感』『家事全般』

   

   戦闘スキル

   『闘気術』『魔力放出』



   常用スキル

   『殺意の魔圧』



   武技

   『圏境』『硬気功』



熟練度:芸術5,歌唱6,演奏6,格闘3

耐性:飲食不要,疲労無効,不老,痛み耐性Lv8,熱変動耐性Lv3 

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