17話 黒幕の正体

「当然です!! 私は、実家の跡取りとして誇りを持って仕事をしてたんです。まだ幼かった私が作った服を、皆さん喜んで買ってくださいました。まだ言っていませんでしたけど、私は皆と違って親に売られた訳じゃないんです。とある貴族に目を付けられて、それを拒んだらあの村に送られたんです……」

「っ……!!」


 貴族に目を付けられて、拒んだら村行きになった……。

 確定だ。そいつが、あの村の出資者。ペドの巣窟の黒幕だ。


「リーリエ、そいつのこと……もっと覚えてるか?」

「へ?」

「その貴族が村の出資者だ。捕らえる」

「捕らえ、って……無理ですよ! あの貴族はかの辺境伯! この国一番の軍事力を持ってます!! 本格的に敵対したら、一体どれだけの戦力を持ち出されるか分かりませんっ……!! 私たちのことはもう良いんです! 十分すぎる恩を受けました。どうかお辞め下さい!! 私達は、貴方が死ぬのを見たくない……。何よりお姉ちゃんが悲しみます!! お姉ちゃんのことを愛しているのなら、どうかご再考くださいっ!」


 蒼褪あおざめた顔で、縋りつくように俺に再考を促すリーリエ。

 そうか、相手はそれほどの相手か。くだらん木端貴族か、ボンクラ王子辺りを予想していただけに意外だ。


「安心しろ、リーリエ。大丈夫だ。すぐに攻めるつもりはない。それに俺達はどの道敵対するぞ? 遅いか早いか、だ。なんせ俺は迷宮主ダンジョンマスターで、お前達はその眷属になったんだからな。……後悔したか?」


 ニヤリと笑いながらそう聞くと、リーリエは一瞬潤んだ目を見開き、くしゃりと笑って目尻から溢れんとする雫を拭った。


「ふっ、あはは……! そっか、そうでしたね! 私は、私達は迷宮ダンジョンの住人になったんでした」

「あぁ、その通りだ。初めから敵は一つの国どころの話じゃない。身内以外の全生命だ。なら、最初から敵対するつもりで準備を整えた方が良い。そうだろ」

「そう、ですね……。分かりました。そういうことなら」


 それから、リーリエは話し始めた。

 その説明で分かったことを簡単にまとめると、


1…村の黒幕である辺境伯の名はオスカー・クロムウェル、38歳。リーリエが村に来たのが8歳の頃だったらしい為、現在は40歳。若かりし頃の呼び名は『獅子騎士ライオネル


2…貴族の階級は上から大公、公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵であるためクロムウェルは上から4番目の階級である


3…クロムウェル辺境伯は20年前まで年上趣味で、あるマダム系風俗嬢にぞっこんとなり大金と大量の時間をつぎ込み、じわじわと仲良くなっていきようやく結婚まで漕ぎつけたと思った結果が、結婚詐欺だった為にペドフィリアになった。故に貴族であるにも関わらず未だ嫁も愛人もいなければ、子供もいない。ちなみに件のマダム風俗嬢はクロムウェルによってレイプされてから殺されたらしい


4…クロムウェル辺境伯領はその規模こそ小さいが、非常に優秀な騎士や国家魔法士、聖職者を何千と抱えていて、国を守る要となる領である


5…クロムウェル辺境伯領は万里の長城のような設計になっており、この山の南方に位置し、魔物からの進行を食い止める役割を担っている


6…クロムウェル辺境伯領はその位置の関係から、ダンジョン攻略を狙う冒険者の拠点となっており、無数の冒険者を抱えている


 この6点となる。

 

「なるほどな、ありがとう。助かったよリーリエ」


 とりあえず思うことは、年上に裏切られたからってペドになんなよってことだ。どうせ無垢な子供を調教して、自分に従順な理想の嫁にしようとかって、光源氏みたいなことを考えたのだろう。真実を知れば『村』の起源は実に簡単だった。性奴隷として売り飛ばした奴も数知れないんだろうが、そもそもの目的はクロムウェルの嫁作りだ。『村』での生活で心折れて人形化した娘を拾うってカタチにすれば、容易くコロッと行くだろうからな。『自分はあいつらとは関係ない。君を助けに来たんだ』とでも言って、なんかしら甘い言葉でも囁けば自分に従順かつ夜の技を一通り習得した女の完成だ。実際、奏やこの娘たちがそうなっている。勿論俺はそんなゴミみたいなことをするつもりはないし、奏という希望があったおかげなのかこの娘たちも、誰一人として人形化などしていない。けれど、何か一歩違えば……。

 いいや、もう過ぎたことだ。ありもしない想定など、するだけ無駄だ。自分がイラつくだけだ。辞めよう。落ち着くんだ。stay coolステイクール.


「ふぅ……」


 よし、落ち着いた。改めて聞いた情報から思考を重ねる。

 そう間を置くことなく、結構危ない状況だと理解する。そんなのがすぐ近くにあるんじゃ、ここが冒険者共に見つけられるのも時間の問題だろう。そう遠くない内に敵はやってくる。

 きっちり全滅させることが出来れば、多少第2波を遅らせることは出来る。だが帰ってこないことを不審がり、捜索隊を出すだろう。木端冒険者ならそこまでのことはしないだろうけど、全滅させたのがいわゆるベテラン冒険者なら、その程度のことはする筈だ。ベテランを殺せば、次は更なる実力者、それも消せば……ってことを繰り返せば、やがてトップ冒険者が来る。

 なら全滅させなければ良い? それも違う。全滅させなければ、情報の出回りが早くなる。ダンジョンは冒険者にとって飯の種だ。こちらが下手に出て宝を渡すから見逃してくれと穏便に帰らせる。なんてことは出来ない。よしんば帰らせることが出来ても、今度はもっと良い宝を渡せと間違いなく要求してくる。それを繰り返し続ければ当然破産だ。そもそも舐められるのムカつくし、色んな意味で無理のある作戦だ。

 故に俺のとるべき作戦は、全力戦争。そもそも、奏やこの娘たちをあんなクソッたれな環境に追い込みやがったクズ共の黒幕がいる国だぞ。そんな奴らを相手に媚びへつらうなんて、死んでも御免だ。もしかしたら宝じゃなくてうちの娘たちを差し出せ、なんて言われるかもしれない。そうしたら理性を保っていられるか正直自信がない。殺すなんて生温い、なんて考えるより先に殺してしまうかもしれない。

 そりゃ相手から降参してきたのなら、そいつらがうちの娘たちに手を出していないのなら、見逃しても良い。だがそうでないなら、殺し尽くす。

 当然クロムウェルは拷問部屋送りだ。直属の部下辺りもどうせ村の関係者だろう。一応確認して、黒だったらぶち込む。白だったら殺す。 

 何にせよクロムウェルは、殺してくれって縋りつかせる。絶対に。その為にも更にエグイ拷問を考えないとな。現状で一つ、例の拷問方法を更にエグくする案があるけど、もっと色々必要だ。それ用の魔物とかも、手に入れたいものだ。あぁ、その様子を見せつければ手出ししてくる奴もいなくなるかもな。

 俺の身内に手を出せば、死ぬより恐ろしい目に合うのだと思い知らせる。死は救済だと思わせる。それくらいの苛烈さをアピールすれば、余程の馬鹿でもなければ手を出しては来ないだろう。変わらずダンジョン攻略に挑んでは来るだろうが、少しは子供たちへの攻撃に対する予防になる。

 俺という存在は確実に人類の敵対者として定義されるだろう。迷宮主ダンジョンマスターという、飯の種としての一面がある存在ではなく。

 あぁ上等だ。この娘たちを守る為ならばその程度の悪名、喜んで受け入れようじゃないか。そもそも、俺からすれば身内以外は全生命敵なんだしな。今更だ。


「決めたぞ、リーリエ」

「はい? どうかなされたのですか? 創哉様」

「例の拷問方法、もっとエグくする」


 そう言うや否や、俺は今拷問部屋で作業中であろうクロに思念を飛ばす。


《クロ、聞こえるな》

《おぉ? なんや主。どないしたんや》

《拷問方法、ちょっと変えてくれ》

《あん? そういう訳にはいかんで。うちも、このやり方には納得しとる。主もあの娘らも賛成しとったやろ。今更甘くなんかでけへんで》

《そうじゃない。更にエグくする》

《何やと? 更に。詳しく聞かせてぇな主》

《無論だ。今の状態だと、クズ共は相手をうちの娘たちだと錯覚しながらレイプし合う訳だろ。それじゃ甘いとは思わんか? 実際はオッサン同士でも、頭の中では性癖ドストライクの相手なんだからな。喜んじまう》

《……言われてみれば、そうやな。すまん。考えが足らんかったわ》

《構わん。そこでだ。一定の周期で妖術を解く。おっぱじめてイイ感じに盛り上がった所で、それぞれに相手がオッサンであると理解させるんだ。そしてまた妖術をかけ、再び催眠に堕とす。そしてまた盛り上がったら解く。そうすれば、いつまでも永遠に、奴らに新鮮な嫌悪を味合わせることが出来る。身体のみを操りオッサン同士で永遠にってのも考えたが……それじゃあ、やがて慣れる。DPの獲得方法の一つに感情をコアに吸収させるって方法がある。このやり方がクズ共にとって一番エグくて、俺たちにとって一番得をするんだ》


 そこまで言うと、クロは暫く返答して来なかった。

 なんだ? と思っていると、


《ひーっひっひっひっひ!!!! エッグいのぉ~!! お~、こわっ! うち、ますます主に惚れてもうた!! もし奏ちゃんから許可得られたら、うちのこと抱いてくれへんかぁ!?》 


 テンション爆上げでそんなことを言ってきた。


《ダメに決まっているだろう。第一、俺はお前のことを右腕として、頼れる眷属として信頼してはいるが、女として見ていない。もし万が一、奏が許可を出したとしても抱くなんてことはない。どうしてもと言うのなら、奏の説得は勿論、俺を振り向かせてみることだ。奏が頷くとは思えんがな》

《ひひっ……! いけずやなぁ。ええで。その挑戦受けてたったる。奏ちゃんの説得して、主にうちの女を見つけたるで》

《ふん、好きにしろ。ただし仕事に影響が出たら、この話は無しだ。その程度の奴だったと見限る》

《あったりまえや……あんま、うちを舐めへんことやな。あ・る・じ♡ ひっひっひ!! おっ?》


 それを最後に、クロの思念は届かなくなった。

 何かに気付いたような感じだったし、早速俺が伝えた方法を実践してくれているのかもしれない。

 感情吸収によるDPの獲得は、随時だったな……。そう思って、DPが増えてないかとダンジョンの項目をタップしてみる。


 するとそこには、所持DP:4000という表記があった。

 

「クク……早速やってくれたようだな。凄まじい成果だ。やはり、あいつは仕事の出来る女だな」


 仲間としては普通に高評価なんだが……惜しいなぁ、ホント。別にクロから好意を向けられていることが嫌な訳ではない。

 だが先程クロに言ったように、俺はあいつを女として見ていない。そもそも俺には奏がいるんだから、求められたからと容易く抱く筈もない。

 俺はそこまで軽い男ではないのだ。いやまぁ、ハーレムものにほんの少しも憧れを抱かなかったか? と言われれば否と答えざるを得ないけど。それでも、ハーレムものというのは女同士の仲が非常に良い。互いに公認なのだ。だからそういうものだと認められるし、憧れる。

 けれど浮気はダメだ。アレだけはクズだ。他の女に移るのなら、隠れて浮気ではなく堂々と正面切って関係を断ってからにすべきなのだ。


「さっき仰っていた拷問方法の変更のことですか?」

「あぁ、その通りだリーリエ。詳しくは後でクロに聞くと良い。おかげで4000DPも手に入った。ふむ、そうだな……今日はちょっと豪華に行くか! 皆、クロも呼んで食堂に行って待っててくれ。俺がご馳走してやる」

「ええ!? そ、そんな! ご飯を作るのもメイドの仕事ですよ創哉様!! 例え私達の腕が不安なのだとしても、奏お姉ちゃんにやってもらうべきです!! 奏お姉ちゃんは、創哉様の奥様なんですから!!」

「あ? あ~、奏。料理経験は?」

「ゔっ、ない……です。全然」

「それなら、やっぱ今回は俺に作らせてくれ。あー、でも奏? 今度教えるからさ。一緒に料理しよな?」

「うっ、うん!! 私、頑張るね!! えへへ///」

「ひひっ! よーし!! やるぞ~!!」


 DPショップには、地球の商品も売っている。相当割高だが、別に良いだろう。この世界の魔物肉で料理を作っても良いが、今日はご馳走にすると決めたのだ。どうせなら作り慣れている日本の家庭料理を作りたい。

 だから今回は魔物肉はパスだ。それに醤油とかソースとか、そういう調味料系だって当然欲しいしな!! いずれはこっちの素材で再現とかも考えてるけど、とりあえずはDPショップに頼っちゃおう!! 


 久しぶりに楽しくなってきたぞ~~~~!!!

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