16話 それは意外にもあっさりと

「あ、お兄ちゃん!! 待ってました。奏お姉ちゃん呼んできてくれてありがとう。お兄ちゃん、今皆に完成した服を着てもらってたんですよ! クロお姉ちゃんも、もう着替え終わってます! あとはお兄ちゃんだけです!」


 ころころと笑うリーリエ。


「リーリエの服は、まだ出来てないのか?」

「出来てますよ。まぁ良いじゃないですか! ほら」


 そう言って、リーリエが服を差し出してくる。

 キレイに小さく畳まれているため全容は分からないが、なんかオシャレな感じのシックな黒色が見えるので、カッコよさげな雰囲気を感じる。それに何やら魔力を感じるので防具としても、活躍してくれるだろう。

 他の娘たちの姿が見えないが、岩壁を一枚挟んだ向こう側にいるようだ。まぁ今着替えている最中なのだろう。クロ、どうなってるかな。あいつのことだから、結構露出を激しめにしているかもしれん。

 いや、もしかしたらリーリエ達の圧に負けて大人しい清楚な感じになっているかもな……ちょっと、いや、結構見るの楽しみかも。

 

「おう、ありがとなリーリエ。大事に着させてもらう」


 そう言って、リーリエが差し出してきた服を受け取ろうとする。


「ん? り、リーリエ? どうして放してくれないんだ?」


 そんな風に問いかけると、リーリエはイイ笑顔を浮かべる。奏は離れた所で頬を掻いて苦笑している。何か事情を知っているらしい。


「お兄ちゃん? 私達はとっても感謝してるんです。だから、私達に出来る最大でお礼がしたい! それに私達はお兄ちゃんの眷属になったんです。それって要は従者のことですよね?」

「お、おう……別にお礼なんか、俺があのクズ共にムカついたからボコしただけだし……眷属に関しては、まぁ大体そんな感じ、だと思うぞ」

「そうですよね? 良かった。ねぇお兄ちゃん、私達眷属になる時知ったんです。お兄ちゃんがすっごいメイドさん好きなんだって!! 紗耶香ちゃんのメイド服姿妄想してましたよね? それだけじゃなかったですけど……ひとまず、それを叶えてあげようと思うんです。皆出て来て!! お仕事の時間だよ!」

『はーい!!』


 岩壁の向こうから、元気よく返事をして皆が出てくる。

 その衣装は統一してメイドさん。ミニスカではなく、清楚な本家スタイルである。彼女らの衣装からも魔力を感じる。まぁ、俺のが一番強力なようだが。

 そんなことを考えている内に、瞬く間に俺はペドメイドさん集団に完全包囲されてしまった。


「ちょ、おい? な、何をするつもりなので御座います?」

「主のお着替えは、メイドの仕事です!!」


 ペドメイドさん集団に目を奪われている内に、いつの間にかリーリエもメイド服に着替えていた。実にイイ笑顔だ。


「皆、やっちゃいますよ~!!」


 わー!! と怒涛の勢いで俺に群がってくる、新たにリーリエを加えたペドメイドさん集団。当然反抗できる訳もなく、俺はあれよあれよという間に着替えさせられてしまった。その途中ヤンチャな娘がエッチな悪戯してきたりもしたが、藪蛇をつつきたくないのでスルーさせてもらった。俺には奏が居るのだ。

 そもそも、奏に手を出したことでYESロリータGOタッチになってしまった俺だが流石にペドは守備範囲にない。

 向こうからどれだけ言い寄られようと、息子が欠片も反応しないのだからそういう関係になりようもないしな。


「おお~!! やっぱり私の見立ては間違ってなかったです! すっごくカッコいいですよ創哉様!!」


 目をキラキラさせて、両手を合わせてうんうんと何度も頷くリーリエ。

 見れば他の娘たちも同じような感じになっている。メイド服に着替えてモードを切り替えたのか、皆先程までは俺をお兄ちゃんと呼んでいたのに、今は創哉様と呼んでいる。……まぁ、悪くない気分ですよ? えぇ。メイド好きだし、脳内で紗耶香に着せて遊んでたとも。でもね? 俺の癖の最たるものはシスコンなので、お兄ちゃんって呼んでくれた方が嬉しいのよ? まぁ奏は癖とか、そういう領域を遥かに超えた場所に居るから、なんて呼んでくれても良いけど。


「ほらほら! スタンドミラーはもう移してきてますから。見てみてください!」


 促されるまま、俺はスタンドミラーの前に立つ。

 そこに立っていたのは白いロングパンツに黒のワイシャツ、その上から黒のジャケットを羽織った俺の姿だった。


「お、おぉ……かっけぇ、けど……なんかヤーさんみたいだな」

「あはは! 確かにそうかもですね。でも創哉様はそんなのよりもっと素敵だし、もっと偉大な御方になるのです!! とってもお似合いですよ! ん~でもやっぱり銀のネックレスを加えたいですね……。銀の腕時計なんかも欲しいかも。あとは黒の革靴ですね!!」

「君のイメージ図どんどんヤーさんっぽくなるね……まぁいいけどさ。なに、俺の記憶見てそういうスタイル気に入っちゃったの?」

「はい!! とっても素敵なファッションスタイルです! どのパーツもここらでは見たことのない形式の衣装だったので、再現に少し手間取りましたが、上手く出来て良かったです!! でも悔しいですね。私ではネックレスも靴も、腕時計も作れません……」


 心底悔しそうに、リーリエは歯を噛みしめ拳を強く握りしめて、俯きながら震えだす。


「リーリエ……お前は本当に、ファッションを極めたいと思っているんだな」

「当然です!! 私は、実家の跡取りとして誇りを持って仕事をしてたんです。まだ幼かった私が作った服を、皆さん喜んで買ってくださいました。まだ言っていませんでしたけど、私は皆と違って親に売られた訳じゃないんです。とある貴族に目を付けられて、それを拒んだらあの村に送られたんです……」

「っ……!!」


 俺が求めていた情報。

 それは意外な人物から、予想だにしないタイミングで実にあっさりと打ち明けられたのだった。

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