13話 え、どうしよ……。

「おぉ? そっちも終わったようやなぁ主。話聞く感じ、そいつがこの村のリーダーらしいで。かるぅく壁ぶん殴って聞いたら、皆喜んで話してくれたわ。色々とのぅ」


 クロが出迎えてくれた。

 返り血の一滴も浴びていない。俺がぶっ飛ばして放置してきたのも含めた村中のオッサン共、総勢30人ほどが縛られて一塊になって震えている様子を見るに、どうやら情報収集もしてくれていたようだ。 

 めちゃくちゃ有能じゃないか、こいつ。戦闘狂と思いきやクレバーな奴だ。


「って、おぉ!? めっちゃ血塗れやないか!! 主もそいつも。そのボンクラが血ぃ垂れ流してて怪我しても即再生する筈の主が血塗れっちゅうことは、ははっ! 派手にやったようやなぁ。そのお姫様も身内になっとるようやし」 

「まぁな……。って、気付いたのか?」

「あったりまえやがな! うち等はそれぞれパスで繋がっとるんやで? 主からそれぞれってだけやない。眷属同士も繋がりうとる。気付かん方がイカレとるで」

「そ、そうか……イカレ、かぁ……」

「ま! んなこと、どうでもええ……そ・れ・よ・り! はぁぁぁぁああ~♡ ホンマ、うっとりしてまうわぁ♡ 返り血塗れで殺意剥き出しの目ぇした主、やっぱめっちゃ好っきやで~!」


 イカレ発言に動揺していると、突然クロが抱き着いて俺の胸板に頬をすりすりしてきた。


「なっ、クロ!?」

「別にええやろ~? これくらい! 奏ちゃんがいるっちゅうても、我慢するのは襲うことだけや。そこまで遠慮はせえへんで。うち等は同じ眷属同士や、主を親とした姉妹みたいなもんなんやからのぅ」

「……それは、そうかもしれんが。だったら奏本人としっかり話せ。お前のせいで奏が悲しんだら、幾らお前でもぶん殴る」

「ひひっ……それはそれでええかものぅ。主の本気の殺気をまた浴びれるんなら」「……ふん。仕置きにならんか。面倒な奴だ」 

「ひっひっひっ! それがうち、黒夜叉っちゅう女じゃ。ま! 安心せえ主。奏ちゃんとはき~っちり話つけとくさかい」

「そうか。ならば構わん。だがいい加減離れろ」

「いけずやなぁ、しゃ~ない! んなら、さくっとオッサン共ブチ殺して帰ろうや主。奏ちゃん呼んだってぇな」

「あぁ」


 クロの言葉に頷き奏を召喚すると、助けた娘たちが隠れているログハウスにかけた特殊効果を解除し、皆を呼び出す。

 感動の再会だ。皆奏に泣きながら抱きつき喜び合っている。微笑ましい気持ちで暫くそれを見守っていたが、流石にそろそろ話を進めよう。 


「んんっ! そろそろ良いか? 始めるぞ……さて、皆。俺はここに来る前はこいつらを殺すつもりだった。しかし、少し考えが変わった。だから意見を聞こう。正直俺としては、こいつらをここで殺しちまうのは生温いと思っている。死ねば、苦痛はそこで終わってしまう。俺の家には魔法の温泉というどんな傷も病気も一瞬で癒すものがある。監禁でもして拷問にかけ、死にそうになったら癒す。それを永遠に繰り返す。そうすれば俺らの飯の種にもなるし、恨みも存分に晴らせるだろう。俺としてはこれが理想だ。けど、君達がこいつらにはここで死んで欲しいと願うなら話は別だ。もう一瞬たりとも存在していて欲しくないのなら、すぐに殺す。自分の手で殺したいと思うのなら、それも良いだろう。どうしたい?」


 正直、こんな歳の娘たちに話すこととしては明らかにアウトなどす黒い考えだ。

 だがこの娘たちには、それだけのことを望む権利がある。それだけのことをされてきた。

 故に問う。俺はもうこの娘たちを子供として見ていないのだ。現代の下手な大学生なんぞより、よっぽど大人だ。しっかりとした芯を持っている。

 憎悪に満ちた、どす黒い芯だが。それでも、その憎悪さえ晴らせれば奏も含めてこの娘たちは立派な人間になれる。そう信じている。

 悲しみを知る人は、平和をより尊ぶ。それと同じだ。この娘たちは必ず大きく化ける。だからこそ、俺はここで殺しを選んで欲しくない。

 下手人が俺であろうと、殺しの引き金を引いたのが自分であるという自覚が彼女たちには芽生えてしまうだろう。人殺しを経験したも同然だ。

 それは出来れば避けたい。聖人を殺そうがクズを殺そうが、人殺しは人殺し。この世界で、地球の法則は野暮かもしれない。それでも一度人を殺してしまえば堂々と日の当たる世界を生きることは出来ない筈だ。

 同情されるだろう、憐れまれるだろう、殺して当然だと、君達は悪くないと慰めてくれるだろう。だがそれでも、殺しを経験したことのない者達は彼女らを何処かで恐れる。いつかその牙が自分達へ向くかも知れないと遠ざける。

 コアに刷り込まれた知識に、人間の街へ入る時罪歴という概念をチェックされるらしいことを知った。それは魔道具によってチェックされ、如何なる能力でも誤魔化しは効かない真実を見抜く魔道具。だから一度でも人を殺せば罪歴にしかと刻まれ、永遠に人殺しの経歴を背負って生きることになる。だが、殺しさえしなければどんな暴行を働いても罪歴には刻まれない。

 故に避けたいのだ。出来ることなら。


「……私は、創哉の意見に賛成かな。死んで欲しいって気持ちは勿論ある。創哉が許してくれるなら自分の手で殺してやりたい。でも……確かに、今後のことを考えれば少なくとも貴方達は手を下さない方が良いわ」

「どうして!? なんでお姉ちゃん達は良くて私達はダメなの!?」

「今後も人里で生きていくつもりなら、罪歴を刻むのは良くないわ」

「それじゃ説明になってないよ! お姉ちゃんもお兄ちゃんも、そっちの鬼のお姉ちゃんも罪歴を刻んだらマズいのは同じでしょ?」

「私達は良いのよ。人里で生きないから」

「え? それって、どういうこと……?」

「このお兄ちゃんはね? 迷宮主ダンジョンマスターなの。そして私とあの鬼のお姉ちゃんは彼の眷属。だから今後人間社会で生きることはないの」


 その言葉に、皆一瞬動揺する。

 だがすぐに落ち着きを取り戻すと、光を放ちながらこう言い返してきた。


『だったら私達もお兄ちゃんの眷属にして!!』


――眷属化が開始

――魂の繋がりパスの接続に成功しました


 天啓が響く。


「マジか……」


 え、なんか眷属21人になっちゃったんだけど。

 これどうやって食わせればええの……? 領地は山一帯まで広がったけど、生活区域は洞窟だけだぜ? だって。いや、この村で暮らすよって言うなら良いけど、流石に良くない思い出だって多いだろうしなぁ。





 え、どうしよ……。

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