12話 『村』襲撃-2
助けた幼女たちの案内で、次の建物への最短距離を突っ走る。
「ハロー、ドクズ共! 突撃隣の殺し屋さんじゃあ!! とりあえず寝てろ!!」
扉を蹴破り端的に挨拶、そして奇襲して気絶させ幼女を救助、からの事情説明。そんな行為を繰り返すこと4度。
今や幼女たちは全部で18人になっていた。
「そろそろキツイな。後でお姉ちゃん呼ぶ時まで、どっかに隠れといてもらえるかい? 流石にこの人数でぞろぞろ動いてちゃ危ないからね」
俺が皆にそう言うと、皆は頷いてくれた。
「ありがとう」
「でも、お兄ちゃん。隠れるって何処に隠れればいいの? 危なくないの?」
代表して一人が聞いてきた。
「それは安心してくれ。お兄ちゃん実は魔法が使える殺し屋さんなんだ。だから、君達がどっかの建物に入ってくれれば、絶対に安全になるように出来る。まぁ出入口が絶対に開かなくなる魔法だから、君達自身も出られなくなっちゃうんだけど……襲われることはないよ」
そう説明すると、幼女たちはそっかと言って頷き頭を下げた。
どうやらそれで良いらしい。
「よし、んじゃあ……その建物なら、中に人はいないようだね。そこに隠れていると良いよ」
俺がそう言うと皆頷き、素早く指定した建物、ログハウスに入っていく。
最後の一人が入ったことを確認すると、ログハウスへ購入した特殊効果を付与する。そう、これこそが幼女たちに説明した魔法『中に居る者が○○するまで絶対に出入り出来ない部屋化』である。今回の場合、条件は設定してない。つまり自分達からは絶対出られないし誰も入れない。これはそういう特殊効果なので、どんな攻撃をしたって無駄だ。ルールに守られている。
だが問題はない。何故なら俺は
ちなみにこの特殊効果は、この村を囲う塀にもかけている。これこそが保険の正体である。
「さぁて、行くか」
全力で走る。
先程から嫌な予感が増してきているからだ。それに、道すがら幼女たちに聞いたのだ。『お姉ちゃんに一番懐いてた娘が、反乱を起こして捕まった』と。
恐らく俺の感じている嫌な予感の正体こそが、コレなのだろう。
「邪魔すんで~!」
幼女たちから貰った情報の場所へ辿り着くやいなや、ドアを蹴破る。
だが、そこには何もいなかった。
「いない、か……間違えたか? それとも逃げ出したか……」
呟きながら、考える。直感もここだと告げている。気配もする。反吐が出るくらいの悪意も感じる。だからここで間違いはない。
だが、別の部屋へ行く道が見当たらない。
その時、電流が走ったように閃く。
「そうか……! 隠し扉!!」
思いつくや否や、『解析』を発動し部屋を調べる。
「そこか!!」
何の変哲もない壁に見えるが、その先に道が続いていると分かる。
躊躇いなく壁へ突進する。衝撃など何も無く、普通に通ることが出来た。どうやら忍者屋敷のようなからくり扉的なのではなく、幻だったらしい。
薄暗くなっていく。
だんだんと、光が弱まっていく。光源は定期的にある壁掛けの燭台のみ。しかしそれと反比例するように、悪意が強くなっていく。
「っ!?」
気の触れたような高笑いと、バシンという乾いた音が聞こえてくる。恐らく鞭だろう。そして更に歩を進めると、ある臭いが強烈に香ってくる。
「っ! ……やべぇ!」
その正体は、血。
アンモニアの香りも混じっていた。相当にヤバい状態だ。鞭というのは凶悪な武器だ。容易く人が死ぬ。もしかしたら、もう……。いや! 俺が勝手に諦めてどうする!!
「おらぁ!!」
現れた鉄格子を『硬気功』と『魔力放出』で強化した蹴りで破る。
行けそうな気がしたからやってみたが、やはり出来たな。
「あ……? 何モンだテメェ。どうやってこの部屋に」
男がぶつくさ何か言っているが、どうでも良い。耳に入らない。
俺の視界に映っていたのは、一つのことのみ。
それは、背を血みどろにした少女の姿。
焼けたような痕、皮膚は破れ、肉はぽろぽろと崩れ、背骨が見えている。
しかも顔にも痣がある。美しかったであろう顔は歪められ、腫れ、歯が何本も折れている。床を見てみれば、歯の欠片らしきものが飛び散っている。
鞭で打たれるだけでなく、何度も顔を執拗に殴られたのだろう。
「これが、これが人間のやることか……? こんな、こんな小さな娘を捕まえて、利用して、嬲って、ふざけるな!! ふざけるなよこのクズ野郎!!!」
男の顔面を思いきり殴る。歯が飛び散る。地面にたたきつけられた男の顔面を思いきり踏みつける。血が噴き出す。怒りのあまり奏にとどめを刺す瞬間を見せるという約束が、頭から抜けていたのだ。
まだまだ怒りは収まらないが、ある程度の溜飲が下がったことで冷静になる。
素早く少女に駆け寄り、胸に耳を押し当てる。セクハラとか、そんなモンを気にしてる場合じゃない。あとで謝ればいい。
「……クソッ!!!」
呼吸音もなければ、心臓の鼓動音もない。彼女は……もう。
「いや、まだだ!!」
こんなとこで諦めてどうする!!! まだ何もしてない。完全に死んだと決まった訳じゃない。心臓マッサージだ。復活の余地はある!!
丁寧に、迅速に処置をする。前世、真面目に講習を受けておいて良かった。
「あっ……はぁっ……!」
「よし!!!」
息を吹き返してくれた。どうやら間に合ったようだ。
「しっかりしろ!! 俺が見えるか!?」
「な、に……? そ、こに、だ、れか、いる、のか……?」
途切れ途切れの言葉。この分では、俺のことがしっかりと見えているのかも怪しいな。だがそれでも、ちゃんと聞こえるよう声を張り上げる。
「あぁ! 君を助けに来た! 君達がお姉ちゃんと呼んで慕っていた娘に頼まれて来たんだ!!」
「……あ、ぁ。ねえ、さん。ねえ、さん。ごめん、な、さい。ねえ、さん、の、かわ、りに、みん、なを、たす、けると、ちか、った、のに。ごめん、なさい。ごめん、なさ、い」
か細い声で、涙をボロボロと流しながらここに居ない奏に謝る少女。
「っ……! 大丈夫だ安心しろ!! 皆は俺が助けた!!」
「ほん、とうか……!? は、はぁ……づっ! な、なら、に、げて! も、もう、わ、はぁ……たし、は、むり、だから、に、げてっ……!」
どうする。どうすればいい!? 『領地内転移』は俺と眷属のみが対象だ。
この娘を今すぐ温泉に浸からせてやりたいが、それは出来ない。だからこそ助けた娘たちも、奏の待つダンジョンへ転移させられなかった。
「クソッ! 何か、何か方法は……!?」
思考を重ねる。
そして、閃く。
「君の姉さんは生きている! 俺の眷属として!! 生きたいか!? また姉さんと共に暮らしたいか!? ならば願え!! 俺の眷属になりたいって願え!!」
眷属化の説明には、こう書いてあった。『契約した対象を眷属にする。承諾さえ得られていれば肉体の生死を問わず転生させることが可能』と。
そして、その承諾とは条件のこと。俺はその条件を心の底からの願いだと読んでいる。本当に合っているかは分からない。けれど、今の俺に出来ることはこれしかない。頼む。頼む!!! どうか、どうか上手く行ってくれ!! 頼む!
「い゛ぎだい゛!!!」
その瞬間、クロや奏と同じように少女が光を放ち始めた。
――眷属化が開始
――
天啓が響く。
「よし……どうやら、上手く行ったようだな。良かった」
俺はそう言って安らかな顔をして眠る少女を片手で抱えると、夥しい量の血を垂れ流しながら気絶している男の足をもう片方の手で引きずりながら、建物から出ていったのだった。
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