11話 『村』襲撃-1
ほの暗い一室に、バシンと叩き付けるような渇いた音が響く。
「ふっ、ふっ!」
影が何かを振りかぶる。
拘束された、もう一つの小さな影に向かって。
「生意気な目だ……あの出来損ないを思い出す。クク、そうか。お前は特にあの出来損ないに懐いていたんだったなぁ? だがいいのか。俺に逆らえば、あの出来損ないと同じ末路を辿ることになるぞ。死にたくはないだろう?」
「……ふざけるな、姉さんは出来損ないなんかじゃない。優しかった。私達の太陽だった。その姉さんを、あんな風にズタボロにしたのはお前らだろうがッ!!!」
「クックック……あぁ、そうとも。大きく育ってしまったからなぁ。アレではあの御方のお気に入りにはなれん。俺達も不愉快だしなぁ。あんな巨女。それなのに子供を孕みやがった。だから嬲ってやったのさ。中にいるガキを殺すために」
「この、下衆がっ……!!」
「クク……なんとでも言え。どうせお前達には何も出来ん」
「殺してやる。殺してやるぞ……絶対にッ!!」
「クックック……生意気な口だ。黙らせてやろう」
バシン、バシンと何度も叩き付けるような音が響く。
その度に声にならない悲鳴が、部屋に轟く。
「貴族の娘を、この俺が……クク、ククク、ハァーッハッハッハッ!! どんな気分だァ!? 見下してきた平民に嬲られるというのは!! ええ!? そら、そらそら! そらッ!!」
「ぐっ、く…うう。死、ね。死ね!! 死ねぇ!!!! この、幼女趣味のクズ共があ!!」
「お前もあいつに似てデカくなってきちまった! どうせ売れねぇ!! だからよぉ、あんま生意気言ってると、勢い余って殺しちまうかもしんねぇぞォッ!? まぁ? 俺の足を舐めて『貴方様だけの性奴隷になりますから、許してください』とでも言えば、考えてやらんでもねぇがなァッ!? ハーッハッハッハッハ!!!」
高笑いしながら先程にも増して苛烈に振る影。
そのあまりの苦痛に喘ぎ、声を出せない小さな影。されど、
――姉さん、貴女の想いは私が継ぎます。必ずこいつらを殺し尽くして、皆に自由を、与えてみせますから。だから、だから。どうか。
その目だけは変わらず眼前の大きな影を
◇◇◇
「急ぐぞ、クロ。なにか嫌な予感がする」
「おぉ。……んじゃ、段取り通り囚われのお姫様ぁ助けるんは、主に任せたでぇ。うちはアホンダラ共をボコしてくる。奏ちゃんは、とどめの瞬間さえ見れればええんやったよな?」
「あぁ、そうだ。こっちは任せておけ。だが俺の分もとっておけよ? クロ」
「さぁてのぅ~? うちだけで終わってまうかもなぁ?」
二手に分かれて村へ突入する段取りのため、俺から離れて行こうとするクロの背に向け、一言。
「クロ、黒夜叉。油断するなよ。一人も残すな。良いな?」
「っ! ……おぉ、分かっとる。主も精々気ぃ付けるんやでぇ」
今度こそ去っていくクロ。
その背中を暫し見送った後、俺も前を向く。
既に『村』は、目と鼻の先だ。
ここまでは領地内転移でひとっ跳びで来た。だがここから先は自分の足で向かう。クズ共を一匹たりとも逃がさない為だ。
万一の保険も用意してある。実は、ダンジョンの改装が済んだ後に余ったDPの全額を支払って、とある特殊効果を購入したのだ。
クロの実力なら、アレは活躍しないかもしれん。だがまぁ、一応だ。
「さて、と。んじゃ俺も行きますか」
そう独りごちると、早速『圏境』を発動して『村』に堂々と入口から侵入する。
『村』の反対側から、怒号やら轟音やらが聞こえてくる。どうやらクロもおっぱじめているらしい。流石に素早いな。
まぁそりゃあそうだ。あいつの敏捷値は900。それに対して俺は200。これだけ離れていれば、俺がのんびり歩いて侵入する間に『村』の反対側まで辿り着き大立ち回りを始める程度は出来るだろう。
遠くの方で土煙が巻き上がっているのが見て取れる。上手くやっているらしい。おかげで警備が薄い薄い。
そう、作戦は非常に簡単だ。
クロがド派手に大立ち回りして注意を引き付け、その間に超絶忍びモードの俺がお姫様方を華麗に救出する。たったそれだけ。
その後はクソ共をひとまとめに拘束して、奏を呼んだら漏れなくぶっ殺す。それだけである。
「邪魔すんで~!」
それなりに多くの人の気配がする建物のドアを蹴破る。
「な、何者だ貴様!?」
「警備は何をしている!?」
そこに居たのは、禿げたオッサンやらデブのオッサンやら。テーブルにはカードが見える。金のコインやら銀のコインやらがそれぞれに積まれている所を見るに、賭博をしていたらしいな。
しかし、そんなことはどうでも良い。重要なのは奴らの足元に首輪とリードをされた幼女がいるということだ。
「俺が何者か? いいぜ、冥途の土産に教えてやるよ。つい最近テメェらが捨てた女に頼まれて、テメェらを殺しに来た殺し屋だぁ!!」
手始めに賭博をしていたテーブルを壊さないよう蹴り上げる。
そして、奴らが動揺している内に浮いたテーブルを掴んでぶん回し、奴らをまとめてぶん殴る。
意識のある奴は……いない。天啓が響いてこないし、ちゃんと手加減は出来ていたようだな。良かった良かった。
「さてと、無事だね? お兄さんは神崎創哉って言うんだ。君達を助けに来た」
『……お姉ちゃんの頼みで来たって、本当?』
不安そうに聞いてくる幼女たち。
まだ7、8歳って所か? ここで救助出来た女の子たちは5人。皆小さいのにやたらときわどい衣装を着ている。
それにしても……出会った頃の奏よりちゃんと喋れるんだな。いやまぁ、そりゃそうか。辛い目に合ってる時間が長いほど、まともに喋れなくなってくるもんだ。
きっと、そういうことなのだろう。
「あぁ、本当だよ。君達のお姉ちゃんは生きている。俺のもとで。だから、今は俺を信じてくれるかい? その後どうするかは、全部終わってから考えよう。ね?」
「……あのお姉ちゃんが、信じたなら」
「きっと悪い人じゃ」
「ない」
「よね?」
「うん。きっと」
5人が頷き合う。
『お願いします!』
声を合わせ、深く頭を下げる幼女たち。
「あぁ、分かった。ごめんね? 君達を助けるためとは言え、怖かっただろう?」
そう聞くと、皆一様に首を横に振る。
「怖くなんかなかったよ!」
「お兄ちゃんカッコよかった!!」
「お兄ちゃん殺し屋なんでしょ? なんでおじさん達殺さないの? まだ生きてるよ」
「きっと後でもっと苦しめてから殺すんだよ!」
うわぁ……怖っ。ホントに幼女かよ。いや、幼女だからこそ、か? 無邪気に嬉しそうに気絶しているオッサン共をゲシゲシ蹴ってる。
まぁ、それだけのことをこいつらはやってきた。俺も許す気はないし、別に良いか。この娘たちの将来がちょっと不安だけど……まぁ、いいか。奏と違ってそこまで深入りする気はない。全部終わった後で俺の身の上を説明し、それでこの娘たちが俺の身内になることを選ぶのなら、その時にある程度の倫理観を教えよう。
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