9話 卒業-3

「出来るだけ、優しくするから。痛かったら、遠慮なく言うんだぞ。すぐに、やめる。自分がどれだけ良くなってても、すぐにやめる。約束する」

「……うん。ありがとう」


 とはいえ、いきなり入れるのはマズいだろう。まずは前準備、の方が良いよな。何を読んだって、何を見たって、レイプものでもない限りいきなり入れたりはしない。なら、そうするべきなんだろう。

 詳しい原理は知らないが、確か痛みを和らげる効果があるのだ。あれ? でも奏はもう処女じゃない。散々使い倒されている。なら必要は……いやいや、だからっていきなり入れたら、それこそクズ共の仲間入りだ。

 優しくするって決めたんだから、しっかりと入念に、だ。


 改めて彼女の身体を見る。

 その曲線を描く輪郭に、透き通るような白い肌。今のクロには及ばずとも十分顔が半分くらいは埋まるほどの双丘。


「……そんなに、見ないで。大した身体じゃないから、恥ずかしいよ」


 奏の拗ねたような声で我に返る。全く……奏を傷つけまいと、優しくすると決めたばかりなのに。愛しい人の身体となると、その全てをつい見回してしまう辺り自分もただの馬鹿な男の一人なのだと再認識する。


「そんなこと訳あるか。お世辞でも何でもなく、本当にキレイだ。鏡を見た時自分でも言ってたじゃないか」

「それはっ……! でも、やっぱり私は、汚れてるんだもん。クロみたいに大きくもないし」

「そんな風に自分を卑下するな。汚れてると思うなら、それをまるっきり塗り替えるくらい俺の色に染め上げてやる。そうすればもう、気にならないだろ? それに、クロのは大きすぎだ。俺の手には奏のがピッタリだよ」


 そう言って、軽く胸を触る。

 すると奏は反射的になのか、小さく喘ぐ。 


「ほら、ピッタリだろ?」

「ふふ、うん。そうだね。良かった」

「……俺が怖くはないか?」


 奏は俺のもう片方の手に自分の手を重ね、目を細めて呟く。


「うん。全然」

「そうか、良かった……。安心した」


 再び唇を奪う。軽く、触るだけのキス。


「こうやって毎度毎度馬乗りにされて、私はおじさん達に尽くした。あの時は早く終われ早く終われって、そればかり思ってた。なのに、今は怖くない所か安心出来るの。創哉と肌を合わせていると、心が安らぐのが分かる。どうしてだろう」

「さてな。俺には多分好きな人が相手だからなんじゃねぇか、ってくらいしか言えない。奏みたいな経験してないからな」

「ふふ、うん。そうだね。愛って、凄い。きっと私は、私の身体は無意識に分かってるんだ。貴方は決して私を傷つけないって」


 奏は両手を俺の首に回して、囁いた。


「ねぇ、ちゅーしよ?」


 その声で火が点いた。

 先程よりも深く、もっと長く。奏の舌に自分のそれを巻き付け、すすり、何度も何度も口付けを交わす。どちらからともなく、自然と。

 奏の耳を舌先でなぞる。すると彼女は、細長く声を出してくれる。感じてくれているのだと認識出来ると、今度は耳を甘噛みした。彼女は感じる度に、俺の両肩に爪を立てる。それが自分の手で彼女を感じさせたのだという実感となり、痛いのに嬉しいのだ。俺はこんな人間だっただろうか? 思わず苦笑する。

 耳から口を離すと、今度は耳から鎖骨の辺りまでゆっくりと触れるか触れないかくらいで舐めた後、右胸の先端を口で含み吸った。


「――ッ!!!」


 奏が言葉にならない声を上げると同時、一層強く爪を立てる。その痛みが俺にとっては心地いい。更なる反応を求めて、俺は交互に胸の先端を吸い、舌先で転がした。その度に彼女は想像以上の反応を返してくれる。それが嬉しくて、心地よくて、止められない。

 もっと、もっと奏の良くなった姿を見たい。その爪で俺の肩を抉っても良い。どうせすぐに治るのだから。それよりも、更なる反応を。

 俺はいよいよ、自分の中指を奏の秘所に宛がった。

 すると、驚くことにもう濡れているどころか開いている。だが、これよりもっと驚くことになるとはこの時思いもしなかった。


「な? ……なに!?」


 彼女が驚いた顔で俺を見つめている。


「ど、どうした!? 勝手に触れたのが嫌だったか!?」


 何も言わずに彼女の秘所に触れたせいで怒ったのかと思ったのだが、どうも様子が可笑しい。そうではないような気がする。


「う、ううん! それは嫌じゃないの。気にしないで」

「じゃ、じゃあ何が……」


 答えが分からず、問いかける。


「だ、だって私、まだ何も塗ってないよ……? どうして」


 数秒の遅れを経て俺は理解した。奏はこれまで濡れる・・・という体験をしたことがないのだと。思春期を迎えていれば男だろうと女だろうと、知っていて当然のことすら知らずに、毎日毎日その身体を酷使させられてきたのだと。

 彼女の顔を窺いながら、再び中指を秘所に宛がい、そのまま彼女の内まで指をゆっくりと進める。彼女はその感覚を事実として理解しがたいらしい。


「……この液体は、私の中から流れ出しているの?」


 何も言わず俺はただ頷いた。

 彼女はそれを見て、恥ずかしそうに微笑む。


「そっかぁ……。貴方からキスされた時から、なにか変だなって思ってたの。だって奥の方が熱くて蕩けそうな感覚がして。こんなの初めてだったから、まさか自分がこうやって創哉を自然に受け入れる用意をしてたなんて、夢にも思わなかった。お兄ちゃんよりずっと経験豊富だなんて言ったけど……小手先の技ばっかりで、知らないこと、こんなにいっぱい」


 頬を紅く染める奏。


「なぁ奏。俺、今すごい嬉しいんだ。オッサン共に何度も使われてきた奏が、『濡れる』ってことを知らなかった奏が、今俺を相手に濡らしてくれてるってことは、その……。奏が本当に、俺のことを想ってくれているってことだと思うから」


 そう言うと、奏は嬉しそうに笑う。


「うん、その通りだよ。私は貴方のことホントに愛してるのよ。心の底から。出会ってから時間なんて全然経ってない。でもそんなの関係ないの。創哉は私の運命の人なんだよ。貴方以外なんて、考えられない」

「それは俺もだ。紗耶香のことは、今でも大好きだぞ。シスコンに変わりなし! だ! でも、奏に向ける感情とはまた違うんだ」

「ふふ、うん。嬉しい。ねぇ、来て……? もう待てない。今すぐ欲しいの」

「……分かった。けど、これだけはさせてくれ」


 そう言って、ベッドの縁にある引き出しを開く。

 そこから出てきたのは、ゴム。このような状況で絶対に必要になる代物。

 そう。このキングサイズベッドは、その手の諸々が全部セットで内包された代物なのだ。故に3000DPもかかった。

 普通の大きいだけのベッドなら、スタンドミラーと大して変わらない800DP程度で買えた。けれど、するのなら絶対に必要になる。だから、最高級のキングサイズベッドを買ったのだ。


「それ、って……もしかして創哉の知識にあったゴムってやつ?」

「あ? まさか、実物は初めてか!?」

「う、うん」


 まさか……そんな。これを直接見るのは初めて、だと? では奏は使われる時毎度毎度中に直接!? ってことは、妊娠してる可能性がある……ってことか? いや、何処ぞのクズ共が種だろうと、奏の子だ。子供に罪はない。

 もし、中に居たとしても……俺は責任を持って育てなければならない。例え俺の子でなくとも。奏を苦しめたクズ共の誰かが種だったとしても。


「……はぁ~」


 首を振る。またしても眉間が寄りそうになった。


「奏の身体は勿論、我が家も赤ん坊を迎えられるような状態じゃない。子供はまだダメだ。それは、分かってくれるよな?」

「……うん。本当なら、今すぐにだって創哉の赤ちゃんを産みたい。けど、生まれてくる赤ちゃんに苦労させるのは嫌だから、ちゃんと待つね」

「ありがとう。……それじゃあ、行くぞ」

「うん。来て……?」


 そうして、俺は奏と身体を重ねるのだった。

 

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