8話 卒業-2
ベッドに押し倒し、もう吹っ切れたのだから今度は俺がリードしようと思った。
だが気付いた。自分優位で、俺を責めている間の奏はまるでエッチなお姉さんかのような色気を醸し出していた。だが俺に押し倒され、主導権を失った瞬間奏は変わった。顔が強張ってる。身体も震えている。やはり、怖いものは怖いのだろう。
当然だ。本当に生まれた時から仕込まれていたのなら、そういうものだと思えるから救いがある。だが、彼女は5歳までは普通に暮らしていたのだ。母親が生きている間は、普通の子供として愛されていた筈だ。父親は娘を酒の担保で売るようなドクズだから、当時もろくでなしだったかもしれない。けれど母親は普通に愛してくれていた筈なのだ。それなのに、突如として何もかも失った。
奏が村と呼ぶ場所へ売られ、まだ幼く無垢な彼女に、薄汚いクソ共が夜の技を仕込み身体を弄り……そして14歳になってからは、毎日毎日その身体を好きに使われ続けた。怖くない筈がない。
しかもその挙句が、口減らしに魔物の巣食う山へ捨てるなんつー暴挙だ。
いや、何年も何年も育ててきた子供を、急に手放すか? ここ数日で口減らしが必要になるほどの何かが起きたのかもしれない。それは知らん。だが俺の予測が正しければ、村とやらはペドの巣窟だ。
事実確認なんてしない。奏も思い出したくはないだろう。あの時奏は確かに言っていた。『あの時は私も、食べられたってどうでも良いとか思ってたし』って。
だから奏は、間違いなく嫌な思いをしていた。だから聞きはしない。けれど俺が勝手に推測するのは自由だ。
奏は村の他の子達も似た感じだったと言っていた。それを考えると、9年間もの間何人もの幼女を育てられるだけの余裕があるということになる。流石にそれだけの年月栄養失調状態で生きられる程、人間は丈夫じゃない。
つまり奏の栄養失調は、ここ数年の出来事と考えられる。そう、恐らく身体が成長してきたら本番行為をして、飽きたら捨てる。そんな繰り返しをしているのだ。
クロは14歳になったから本番をしたと言っていたが、それはあくまでクロが言っていたことだ。奏はあくまでも『最近』としか言っていなかった。
そんな環境で過ごしていた娘の時間感覚が、ハッキリしている筈もない。となれば『最近』には2、3年くらいは含まれていると考えた方が良いだろう。
幼女時代は仕込みつつもちゃんと世話をして、大きくなってきたら飯も碌に食わせずヤリ捨てる。ゴミだな。村の住民全部根絶やしにしてやると思っていたが、方針を少し変更しよう。子供たちは助ける。オッサン共は殺し尽くす。
村とやらの方向へ領地を広げ、範囲になったら殺そう。そうすれば多少のDPにはなるだろう。子供たちの飯になってもらう。
散々好き勝手楽しんで、子供たちを食い物にしてきたんだ。今度は自分達が食い物になる番だ。むしろそのオッサン共も本望だろう。
「……どうしたの創哉、怖い顔して。やっぱり私なんかじゃダメだったかな。何度もおじさん達に使われた汚れた女だもんね。そりゃあ、嫌だよね……」
「なっ!?」
しまった、つい思考に耽っていた。奏をあんな風にしたドクズ共への苛立ちが顔に出てしまっていた。
「そんな風に思ってる訳ない!! けど、怖いんだろ? 俺に押し倒された時、顔、強張ってた。身体も震えてた。やっぱり嫌なんだろ? 俺も同じ男だ。やっぱりクズ共のことを思い出しちまうんだろ?」
「……うん。そうだね。確かに私は、私達は男の嫌な部分ばかり見せつけられてきた。男と交わることは私達にとって苦痛以外の何物でもなく、こんな行為なんてなければいいと、いっそ女を求める男自体いなくなればいいなんて思ってた。無理矢理仕込まれて、だけど死なない為には従うしかなくて。身体が大きくなってきてからおじさん達は変わったわ。下心が丸見えだったとはいえ、辛うじてあった優しさすら消えて、ご飯すら碌に貰えなくなって、満足させられたら食わせてやるなんて言われて、一生懸命やってもお腹を殴られて、終いには捨てられた」
やはり、そうだったのか。俺の推測は正しかった訳だ。
ではそれを賄うための金は何処から来た……? 恐らく、それこそ性奴隷だ。出荷出来るだけの仕上がりになった奴は売り、ならなかった奴は自分達で楽しみ捨てる。そういうことなのだろう。
恐らく、強力なバックがいる。村なんて称する規模だ。たかだか数人のオッサンの道楽でどうにかなる話じゃない。となれば行きつく先は貴族か、王族か。
「もう何もかもどうでも良かった。クロに見つかって、お前を食わせろなんて言われた。良いよって答えたよ。生きてても良いことなんて、ないんだって思ってたから。お母さんが居た頃みたいな、あったかい日々はもう、戻らないって。だけどそんな時貴方が、創哉が現れてくれたの! 不思議だった。おじさん達と同じ男なのに、私には貴方がまるで太陽のように見えた。あったかくて、優しくて、包み込んでくれるような、だから貴方なら、創哉ならどうしてこんな行為を、愛し合う男女が求めるのか、私が知ってる苦痛じゃなく何か違う感覚を教えてくれるんじゃないかって、そう思ったの。……だって私、そもそも男の人好きになったの、初めて、だし」
奏は頬を紅くして、上目遣いで俺の表情を伺ってくる。その愛らしさに、俺は思わず抱きしめて、その額に唇を落とした。
「……分かった。もういい。もう十分だ」
この娘には温かな日の下で暮らして欲しい。
けれど、奏はもう俺の眷属になってしまった。名前をあげただけなら、身分を隠して時折会う程度の関係にどうにか持ち込めたかもしれない。
だけど眷属になってしまった以上、そんな風には出来ない。ならばせめてこの娘の視界に映る景色だけでも、温かな陽だまりにしたい。
DPを稼ぐ方法は4つある。最も簡単なのは、それこそゲームのダンジョンのように宝で冒険者を釣り、愚かな侵入者を殺し尽くしていくことだ。
パチンコやギャンブルのように、時折強力なアイテムでもくれてやれば、中毒と化して死ぬ可能性を片隅で考えながらも繰り返し来るだろう。
だがそれでは、奏に影を落としてしまう。この娘は本来、普通の娘なんだ。明るくて、人懐っこくて、優しくて、そんな娘の筈なんだ。
絶対に人殺しになんて、したくない。例え身を護るためであっても、暴力なんて振るって欲しくない。そう思ってやまない。
だけど俺は
だから最低限の戦闘技術は身に着けてもらわなくてはならない。常に護衛をつけるようにしても、それを掻い潜って攻撃される可能性はあるのだから。
奏のことだ。身を守るためであっても侵入者を殺す様を見れば、きっとその心を人知れず傷つけるだろう。俺にも、クロにも、将来現れるかもしれないまだ見ぬ仲間にも言わず、独りで泣くのだろう。
だって奏だけが唯一人、普通の人間なのだ。クロは鬼だし、俺は
人間を殺すことに対して忌避感を覚えるであろう存在は、今の所奏だけなのだ。
ならば、俺がすべきは新たな道を探ること。
絵図は碌に見えず、行く先は暗いままだ。けれど探すしかない。でも、きっと大丈夫だ。俺には奏がいる。クロだって、出会いは敵対関係だったが、かなりの気遣い屋のようだからな。眷属化したことで大きく伸びたその戦闘力も含めて、きっと頼りになる筈だ。
だから、方針は定まらないままだが、とりあえず生きよう。奏たちと気ままに、心の赴くままに生きていれば、その内きっと何とかなる筈だ。
「怖い顔じゃ、なくなったね。悩み、晴れたんだ。私の好きな顔してるよ」
「……見破られてたか。あぁ、こんな体勢のまま何を考えてんだって自分でも思うけど、将来のこと考えてたんだ」
「そっか。創哉、
そんな風に言いながらも、強がっていると分かる。
本心からそう言える奴はそんな風に俯いたり、目を逸らしたりしない。奏の顔をちょっと強引に俺の方へ向けさせ、額を合わせる。
何か意図があった訳ではなかった。無性にこうしたくなったのだ。
「どうしてだろう。やっぱり、違う。強引だったのは同じなのに、創哉にされるとドキドキする。嬉しくなる。やっぱり、愛してるから?」
「そうなのかもな。俺も、ドキドキしてる。妹として見てた時は奏のことなんぼ抱きしめたって可愛いと思うだけで、ドキドキなんかしなかったんだけどな。今はドキドキしっぱなしだ。それもそうだ。なんたって俺も女として好きになったのは奏が初めてだからな。ずっと自他ともに認めるシスコンとして、紗耶香ラブで生きてきた。紗耶香に異性を感じて欲情したことはあるけど……行動に移したりはしてこなかったし、欲情したって紗耶香にはこんな風にドキドキすることはなかった。答えを教えてやれなくて、ごめんな」
「ううん。良いの。そっか……じゃあ私は、紗耶香ちゃんより先に立てたんだね。本当に、嬉しい」
顔を綻ばせる奏。それが堪らなく愛おしくて、俺は自分から奏の薄ピンク色をした唇を奪った。
その柔らかい感触が脳を焼く。先程は突然のことで、何かを感じる余裕など俺にはなかった。けれど今は感じられる。
俺の中の欲望は先を急ぐが、理性で押し留める。奏を傷つけたくない。その一心で欲望を押し殺す。
そうして軽く重ねたまま反応を待つと、程なくして彼女の方から招き入れてくれた。唇を開き、俺の舌を自分の方へと引き寄せる。
そのまま互いに舌を絡ませていると彼女が声を漏らし、身体を小刻みに震わせその度彼女は俺の肩に爪を立てた。
「はぁ、はぁっ……!?」
息を荒げ、何も言わず目を見開いている奏の様子を見て、不安になる。俺は傷つけてしまったのだろうか? すると奏は、途切れ途切れに言葉を漏らした。
「こんなの、初めて……。キスってこんなに気持ち良いものなの……? 身体の芯が熱くて溶けてしまいそうで。さっき自分からした時も、すっごく気持ちよかったけど……今度のは、それ以上。どうして、こんなに違うの……?」
自分とのキスで、そこまで言ってくれる。喜ばない者なんて何処の世界にだって存在しないだろう。あまりの嬉しさに浮き足立ちそうだった。
「奏に無理させたんじゃなくて良かった。……俺も、めちゃくちゃ気持ち良かったぞ」
「そう、良かった。嬉しい……」
そう言って微笑む愛しい人にまた唇を落とした後、静かに問うた。
「そろそろ、いいか……?」
「……うん。創哉になら、めちゃくちゃにされてもいい。壊されたって、構わないわ……」
「出来るだけ、優しくするから。痛かったら、遠慮なく言うんだぞ。すぐに、やめる。自分がどれだけ良くなってても、すぐにやめる。約束する」
「……うん。ありがとう」
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