6話 初めての眷属化


 突然だがDPを稼ぐ方法はいくつかあり、


1…ダンジョン内で自身の配下など身内ではない生物を殺し、コアに吸収させる(直接である必要はなくダンジョン内で生物が死ねば、自動的に粒子となって吸収されるらしい。DPショップの売却もこれに相当する。吸収させる死体や売却品のランクが高ければ高いほど獲得DPが増加する。随時獲得)


2…侵入者がダンジョン内にいる状態での時間経過(侵入者が強ければ強いほど獲得DPが増加する。1時間ごとに獲得)


3…日数経過(領地が広ければ広いほど獲得DPが増加する。毎日朝7時に獲得)


4…敵味方問わず感情をコアに吸収させる(どのような感情であれ、それが強烈な感情であればあるほど獲得DPが増加する。感情を吸収させるといっても吸収させたら心を失う訳ではない。勝手に読み取るだけである。随時獲得)


 以上の4つがある。

 そして現在我が家には、ダンジョンの判定的には侵入者に分類されている奏と大鬼オーガがいるためDPが結構増えた。

 その数値、なんと300。まだ1時間経ってないから新たに追加はされていないが、2人を連れて我が家へ帰ってきた瞬間にDPが300も増えたのだ。凄い。まぁ大半が大鬼オーガによるものなんだろうけど。

 でも何故、未だ侵入者判定なのだろう。奏は俺の妹になった。大鬼オーガは俺に忠誠を誓う素振りを見せていた。実は裏では寝首を掻こうとしている? いやこいつがそんな、知能犯みたいな真似が出来るとは思えないけどな……。


「あぁ簡単な話さ、マスター君。設置した魔物渦から召喚したPOPモンスター以外の生物は、なんであろうと眷属にしない限り侵入者扱いになるのさ。まだ眷属化の契約してないだろ? だからだよ」

「あぁ、そういうことか。そういえば眷属化の契約ってどうやるんだ? 解析の説明にも書かれてなかったんだけど」

「うん? それぞれだね。要はそいつが心からマスター君の眷属になりたい! って思ったら勝手に眷属化する。騎士みたいな奴だったら、それこそ忠誠の儀式みたいなのやればいいだろうし、名付けとかでも眷属化するらしいよ。あっ! マスター君まだ自分の素性話してないでしょ。奏ちゃんだっけ? あの娘が眷属化してないの多分、マスター君のことあまり知らないからだよ。前提として眷属になる発想がなければ、なりたいもなりたくないもないからね」

「あっ、そんなもんなの。んじゃ後で説明するか」


 なんて相棒と話していると、


「ありがとう。おにいちゃん。すっごく、きもちよかった、よ」


 温泉から上がった奏が俺に声をかけてきた。

 身体全体にあった無数の擦り傷もなくなり、傷んでいた髪やかさついていた肌も本来の色艶を取り戻し、腹部にあった痣も治っていた。

 それどころか、ポッコリと膨らんでいた腹もへこんでいたのだ。


「キレイだ……」


 思わず口から漏れる。本当に心からそう思ったのだ。

 それにしても栄養失調すら治してしまうとはな……凄まじい効果だ。あの時は今じゃないとか思ってたけど、結果的には最高の拾い物だったな。

 あっ、そうだ。この温泉を瓶にでも詰めれば、エリクサーの完成じゃね!? しかも万能薬効果までアリとかいう最強回復アイテム。

 仲間が出来ると、ますます良い拾い物だったと分かるな。

 

「えっ? でもわたし、こんな、だよ? きたない、よ」


 ふむ。まだ自分の変化に気付いていないようだな。


「おなか、だって、こんなに……あれ? なんで?」

「ふふっ、これも温泉の効果さ。言っただろ? どんな傷も病気も癒すって。奏は長いこと食べれてなかったせいで、栄養失調っていう病気になってたんだ。それが温泉のおかげで治ったことで、本来の奏になれたんだよ」

「えいよう、しっちょう?」

「あぁ、そうさ。ちょっと待ってて。今奏の全身を見れるようにするから」


 そう言うと俺はDPショップを開き、全身を映せる鏡を探す。

 そして程なくして見つけた。スタンドミラー(500DP)。手鏡なら50DPで買えるのだが全身鏡ってなると、一番安いのでこれだった。

 くそぅ、あと200DP足りない。どうしよう。今すぐ見せてあげたい。だからあと何十分も待ってられない。


「よおおし、可愛い奏に今の自分を見せてやるためだ!! やってやろうじゃねぇかぁぁ!!」


 俺は最後の防衛線パンツを脱ぐと、すぐさま温泉に飛び込み売却モードを起動してパンツをぶち込んだ。

 表示された額は200DP。


「まさかのぴったんこかよぉぉぉ……しゃーない! 売ったらぁ!!」


 そうしてパンツと引き換えに200DPを手に入れた俺は、すぐさま全額支払ってスタンドミラーを購入する。


「ふ、ふっふっふ……今現れたソレの前に立ってみな奏。今の自分の姿を見れるぞ」

「え、う、うん……。わかった」


 急な展開に戸惑いっぱなしの様子だが、俺の言葉に素直に従い奏は現れたスタンドミラーの前へ向かい、そして。


「えっ!? これが、ほんとうに、わたし、なの……?」

「ふふっ。あぁ、そうだよ。今見えている姿こそ本当の奏なんだよ」

「きれい……わたし、こんなかお、してたんだ。こんなかみ、だったんだ。こんなめ、だったんだ」 


 そうか。彼女にとって、自分の姿を見ること自体が、初めてだったのか。それはそうだよな。碌に飯すら食えないような環境に鏡なんてある筈もない。

 

「じゃあ、おにいちゃんの、いもうと、も、こんな、だったの?」

「いんや。あの娘は俺と同じ黒い髪に黒い目だ」

「……じゃあなんで、わたし、を、いもうとに、してくれたの?」

「うん? あぁ、まぁ確かにあの娘とそっくりって訳じゃない。でも俺を気遣ってくれる奏の優しさが嬉しかった。だからあの娘の代わりじゃなくて、もう一人の新たな妹として愛そうと思ったんだよ」

「そっか、そっかぁ……。えへ、えへへ! ありがとう、おにいちゃん!」


 心底嬉しそうに笑って、温泉に浸かる俺の胸に文字通り飛び込んでくる奏。

 

「ぐおっ……こら、危ないだろ~? メッ、だぞ」

「えへへへへ~、ごめんなさ~い!」

「ったく。……ふふ」


 ホント、可愛い奴だ。あの娘とは、また違った可愛さがある。

 そんなことを考えながら再び奏を撫でていると、俺の肩へ伸びる手の存在に気が付いた。それを奏を撫でる手とは逆の手で防ぐ。


「無事治ったようで何よりだ。が、無粋だぞ大鬼オーガ。自重しろ。俺と奏の、兄妹の戯れの時間は何者も侵すことは許されん。次やれば……殺すぞ」

「っ……お前と、戦うの、楽しい。けど、死んだら、もう、戦えない。やめる。もうやらない。許してくれ」

「ふん、元より今回は見逃すつもりだった。次やらなければ構わん。それで? お前、俺に従うつもりなのか?」

大鬼オーガの部族、強者に従う武者の一族。父上や母上に言われた。将来、お前を一人で打ち負かす男が現れた時、その者に忠義を捧げろ。生涯を通して傍に仕えろ。と。だから、お前に仕えたい。傍に置いてくれ」


 ふむ……この世界の大鬼オーガってのは、そういう種族なのか。俺の知る大鬼オーガっていうと、いつも暴れ散らかしてる生粋の戦闘狂ってイメージだけど。


「よし、良いだろう。お前の忠誠を受け取る。裏切りは許さん」

「無論だ。主よ」


 眷属化しない、か。


「よし、じゃあお前にも名前を与えてやる。そうだな……黒夜叉。お前は今日から黒夜叉を名乗れ。通称はクロな」

「っ……!!!」


 その瞬間、クロは眩い光を放ち始めた。


――眷属化が開始。鬼人族へ転生させます

――魂の繋がりパスの接続に成功しました

――領域支配者の無力化に成功しました。領地を拡大します

――領地拡大に伴ないゴブリン種、コボルト種、オーク種、バット種、スネーク種の情報登録に成功。各種魔物渦の設置が可能になりました


 光が収まる。そこにいたのは、先程とは全くレベルの違う鬼。

 本当にこんな奴が俺の眷属なのか? と思わざるを得ない程の、圧倒的なまでの力量を感じさせられる。

 基本的な容姿の特徴は変わらない。けれど、より人間らしく見えるようになった。何よりちゃんと女だと分かるようになったのだ。

 しかもかなり美人。胸も何故か大鬼オーガ時代より遥かに大きくなり、ぷるん! ではなく、もはやバルン! の域に達している。

 アレに埋まったら、開幕何秒かは幸せだろうが間違いなく窒息するだろうな。


「……う、うぅ。な、何が起きたんや? ああん!? うち、めっちゃ強くなっとるやんけ!!」


 え、めっちゃ流暢になってる。ってか、関西弁みたいな口調じゃん。これ俺の眷属になった影響なのか? それとも、これがこいつ本来の喋り方なのか? 


「あのおに、しゃべれるように、なってる? それに、ひとっぽく、なった? おむねも、すっごい、おっきく……どうして?」


 あ、そっか。奏からしたらそうだよね。俺が大鬼オーガ時代のこいつの言葉を理解出来てたのは、あくまで『万能翻訳』のおかげ。

 さっきクロと話してた時、奏がずっと宇宙猫みたいな顔になってたけど……今思えばそのせいか。


「俺の眷属になったんだ。クロは名付けが眷属化の条件だったみたいだね」

「けんぞく、って、なに? おにいちゃん」

「眷属って言うのは……まぁ、主によって扱い方が変わるから一概には言えないんだけど、俺は家族として扱うつもりだよ」

「なら、わたし、も、おにいちゃんの、けんぞく、なる! どうすれば、いいの?」

「ん~、俺も詳しくは分かんないんだよな。そいつが心から俺の眷属になりたいって思えば勝手になるらしいんだけど。なぁクロ、お前名前が欲しいとか思ってた?」

「あん? おぉ、うち等魔物は普通、名前なんか持たんからのぉ。皆憧れとるでぇ? 名持ちの魔物は、ネームドっちゅうてな? 特別の証なんやで」

「そうか……」


 確かに、小説やゲームでも名前のあるキャラクターはモブではない。だから何かしら特別であることの証であると言えば、そうなのかもしれない。


「ってことは、眷属化の条件はそいつが心から望んでいること、ってことか?」


 考察をぽつりと呟くと、


「んっ」


 突然奏が俺の唇を奪った。しかも舌まで入れるディープなやつ。


「か、奏。何を!? って、あ……」


 驚いた矢先、今度は奏が光を放ち始めた。


――眷属化が開始

――魂の繋がりパスの接続に成功しました


「えへへ、やっぱり! これで私も、ちゃんとお兄ちゃんの家族だね!」

「奏が、奏が……流暢に喋ってる!? うおぉぉ、奏ぇぇぇ!! 良かったなァァァ!! 兄ちゃん嬉しいぞぉぉぉ!!!」


 奏が俺とそれほど強くキスをしたがっていた、という事実はもはや俺の頭からぶっ飛んでいた。嬉しかったのだ。本当に。

 あのたどたどしい喋り方も、それはそれで良かった。けれど本当の幼女ならともかく奏は14歳、俺の2つ下だ。流石に痛々しかった。過去を思い知らされるようで心苦しかったのだ。

 クロもそうだが、恐らく俺との間にパスが繋がったことで俺と同じだけの知識を得られたのだろう。

 あれ……? となると、ひょっとして、相棒と同じように前世の俺のことも分かっちゃったのか。性癖とかも? 知識だけならともかく、性癖はちょっと勘弁して欲しいんだけど。

 い、いや、まぁいいさ。うん。気にしないでおこう。


「うん! 私も嬉しい! これで、ちゃんとお兄ちゃんと話せる!」 

「俺もすげー嬉しいぞぉ~! ちゃんと喋れるようになって奏の可愛さ、更にアップだな~!」

「えへへへ~。お兄ちゃんもカッコいいよ! あっちの方も、村のおじさん達よりずっとおっきいし!」




 なんて……??


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