4話 エリアボス
『圏境』を発動し続けながら、エリアボスのもとへ一直線に森を駆け抜ける。
闘気や魔力の使い方、それに現在の俺の身体能力のほどもかなり分かってきた。力の使い方に関しては刷り込みによる所がかなり大きいが、まぁおかげで夢見ていた『木の幹に垂直立ち』が出来た。
それに、『木の枝から木の枝に飛び移って移動』もすることが出来た。
これでさながら忍者ではなく、まさに忍者だ。
これで魔法が使えるようになれば、更に忍者へ近付ける。まぁロマンだからやってみたかっただけで、特別忍者に憧れてる訳ではないのだが。
まぁともかく、そんな訳でなにかスキルを獲得出来た訳ではないが、身体の使い方に対する理解が進んだと言えば良いだろうか。
戦う上で、非常に重要なことである。
(あいつか)
ついに到着した。
そこに居たのは、一匹の鬼だった。
浅黒い肌、黒光りする一本角、黒く長い婆娑羅髪。白目と黒目が反転している。
服装から考えて、恐らく雌なのだろう。顔がイカツ過ぎるし胸も全然ないから正直分からないけど……まぁ、腰だけじゃなくて胸にもなんかの毛皮を巻いてるんだから、きっとアレは雌なのだろう。
しかし……どういうことだ? 鬼っていう種族的にも、見てくれ的にもめちゃめちゃ強そうなのに、魔力反応も気配の強さも、こうして視認できる距離まで近付いても、やはり大したことなく感じてしまう。
精々俺よりちょっと強い程度にしか思えないのだ。
(まぁ……解析してみれば分かることか)
======================
筋力:250(最大3倍まで上昇)
耐久:180
敏捷:90
魔力:50
器用:35
能力:種族スキル
『怪力』『不屈』『威圧』
装備:毛皮のボロ服・上下
======================
そうして判明した解析結果を見て、俺は血の気が引くような思いだった。
(やっぱ、馬鹿つえー!!)
そりゃ全体的なステータスは俺の方が高い。
けれど筋力、ここがヤバい。だって素で250もあるのに、『怪力』スキルで最大3倍まで上昇するんでしょ? 750じゃん。
一撃かすっただけでもヤバいかもしれん……。ゴブリン共とたった一回戦っただけで、CBPが300も減ってしまっている。
まともに殴られたら、マジで一撃死する可能性すらある。
(うん。まだ俺にはちょっと早いかな~……ッ!!?)
実力差を感じ、大人しく帰ろうと思った矢先。
俺の耳に届く、か細い声。それは助けを求めるもの。その声の主は、鬼の塒に捕まっているようだ。
人間の少女。しかも、何処となく俺の妹に似ている。声も含めて。
「人間の娘、美味いと聞く。喰うの楽しみ。落ちてて良かった。天の恵み」
――称号スキル『超シスコン』が発動しました
「おい、お前……。何を食うだって……?」
気が付くと、俺は
自分でも気づかなかった。妹に似た少女を食われる訳にはいかない。それだけを考えて、止めなきゃと考えた瞬間にはここにいた。何かが聞こえた気がしたがそれどころじゃなかったから分からない。驚きのあまり一瞬我に帰ったが、いつまでもそんなくだらないことを考えていられるほど、今の俺は冷静ではないのだ。
「何、お前。邪魔、するな」
「とろいな」
奴の拳が地面を砕き、小さなクレーターが出来るが、そんなことはもう関係なかった。今の俺にあるのは、あの捕えられた少女を守るため、こいつを殺さなくてはという思考のみ。
当たらなければどうということはないのだ。
奴の拳を最小限で避け、カウンターで膝を腹にぶち込む。すぐさま態勢を立て直し馬鹿の一つ覚えのように大振りで殴ってくるので、今度はその攻撃の勢いを利用し、背負い投げにて地面に思いきりたたきつける。
「グフ、ガハハ!! お前、強い! 楽しい! もっとやろう!」
奴の攻撃が勢いを増す。
さながら嵐のように、怒涛のラッシュを仕掛けてくる。
しかし何故だか今の俺には、その全てがスローモーションであるかのように見え容易く避け続けることが出来た。
疲労なのか、わずかながらに隙が出来る。そこを突き、奴の顎へ渾身のアッパーを叩き込む。
「死ね」
俺のアッパーによって打ち上げられた顔面に、両手を組んで大上段から思いきり振り下ろす。地面に叩き付けられると、その反動で身体が僅かに浮き上がる。
そこを逃さず足を掴むと、ぶん回して何度も何度も右に左にと地面に叩き付ける。だが、奴もそのまま死ぬほど軟ではなかったらしい。
まさに今、顔面から地面に叩きつけられようとしていた所で両手を滑り込ませて跳ね起き、その衝撃で俺の姿勢は崩れ、奴は体勢を整えた。そして今度は逆に体勢を崩している俺に回し蹴りを放ってきた。
だが体勢が僅かに崩れている程度で、とろい攻撃を喰らってやりはしない。大きく足を開き、地面を蹴るようにして崩れかけていた体勢を強引に起こす。
そして防ぎつつ攻撃できるよう、膝と肘で思いきり奴の膝を挟みこむ。
「ぐぅ!?」
これには流石の奴も堪えたらしい。初めて苦悶の声をあげた。
それもそうだ。俺は『硬気功』でコーティングしているから問題ないが、骨同士が全力の勢いで衝突しているのだから、さぞ痛かろう。
だがそれでも逃がさない。痛がり、思わず膝を抱える奴の長髪を鷲掴み、ケツに蹴りを入れそのまま振り抜く。少し吹き飛ぶが、再び奴は立ち上がった。
「ガハハハハッ!! こんなの、初めて!! 楽しい! 楽しい!!」
「ふん。それももう終わりだ。いい加減に死ね」
格闘戦ではこいつを喜ばせるだけ。これだけやって死なないのなら、ステゴロではとどめはさせそうにない。
ならば方法を変える。それだけだ。その為には確実に当てる為の土台を整える必要がある。姿勢を低くして素早く奴の懐へ入り込むと、掌底にて顎を打ち上げる。そして、それによって大きく空いた喉へ素早く手を銃のようにして構えると、貫通性を高めるため先細りの螺旋構造にした全力の魔力弾をぶち込んだ。
それは初めから障害などないように奴の肉体を貫くと、速度を緩めることなく直進し木々を何本も何本も貫き、やがて見えなくなった。
一体何処まで行ってしまったのか、それはもう俺にも分からない。
だが、これで
喉から入り後頭部から突き出たのだから、死んでなくては可笑しい。
しかし少し待っても『天啓』は響かない。妹っぽい少女を食うとか言いやがったことに対する憂さ晴らしは出来たので、まぁもう生きてようと死んでようと一旦どうでも良い。それより大事なのは、あの娘だ。
俺は『天啓』を待たず、地面に血だまりをつくりながら倒れ伏す
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます