3話 初戦闘

 息を潜め、足音を抑え、慎重に、かつ素早く木陰へ入り様子を見る。

 気分はさながら忍者のよう。そう、俺は今忍者だ。段ボールにでも隠れ潜みたい。あれ? それは違う奴だな。こちらス○ーク、なんつって。


 視界の先に広がるのは、小規模な矢倉と焚火を囲む影。何か巨大な肉を焼いているようだ。囲んでいるのは、全身緑色で餓鬼のような体型をした小人。全部で6人いる。そう。そこはゴブリンの野営地であった。


 いきなり6人は厳しいんでねぇか? そりゃそうだ。誰だってそう思う。俺だってそう思う。でもね? こいつらが一番小規模グループなの。

 大体の魔物が群れを成してるの。バット種とスネーク種なら、大体は1匹で行動していた。けど、あいつら当然のように状態異常攻撃持ってるから、怖い。

 傷とか欠損とかなら、即座に再生するし全部コアが肩代わりしてくれる。けれど状態異常は普通に苦しむのだ。それで死ぬことはない。

 けれど苦しみは治らない限り永遠に続く。魔法の温泉に浸かればどんな強力な状態異常だろうと治るけど、あくまでアレはダンジョン内にしか設置出来ない代物だ。領地の外に出ている状況では使えない。即座に帰ることも出来ない。

 俺の転移は、あくまで『領地内転移』。ダンジョン内であれば何処へでも行けるだけなのだ。領地の外なら、普通に歩いて移動するしかない。


「ん?」


 警戒役らしい、矢倉に立っている弓矢を持ったゴブリンが何かに気付いたように俺の方を見つめている。

 まさかバレたのか? 物音など立てていない筈だが……。


(あっ、そうか!)


 感知スキルが存在しているのだから、当然のことだった。もっと早く気付くべきだった。思わずため息を吐きかけるが一応抑えて考える。

 多分あの矢倉に立っているゴブリンは、魔力感知か気配感知のどちらかを持っているのだろう。あるいはどちらも持っているかもしれない。

 って、そんなこと考えてないで、確かめてみれば良いじゃないか。自分の間抜けさにますますため息をつきたくなるが、感知される覚悟で奴を解析する。


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ゴブリンアーチャー 成体 ♂ レベル:5

 

筋力:72

耐久:30

敏捷:58

魔力:4

器用:19


能力:種族スキル

   『気配感知』『弓術適性』『弓矢作成』


熟練度:弓2

装備:ボロの腰布

   木の弓&矢×10

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 なるほど……奴は生まれながら気配を感知できる訳だ。

 となると俺がすべきは、それを掻い潜ること。自分の中に流れている力の波動に意識を向ける。

 一つは魔力。これはコアに触れた時、自在に操作出来るようになった。そのように刷り込まれたからだ。

 だがもう一つ、流れている力がある。これが気なのだろう。コアが刷り込んできた知識によるとこの世界では闘気と呼ぶらしい。まぁ別にどっちでもいい。

 これ操作出来れば、空飛んだり気弾撃ったり出来んのかな? 水の上や壁に垂直立ち出来たりもする? 好奇心が膨れ上がるが今は抑える。

 とにかく、これを限りなく0に近付ける。要は俺があいつらに殺気を向けていたから、闘気を燃やしていたから、あいつは気付いたのだ。


 心を穏やかにしていく、そう。今の俺は空気。路傍の石。

 パリピ集団に紛れ込んでしまった時のことを思い出せ……。溶け込むのだこの森の景色に……。背景になるのだ……。


――エクストラスキル『闘気操作』を獲得しました

――エクストラスキル『気配遮断』を獲得しました

――エクストラスキル『魔力遮断』を獲得しました

――条件を達成。複数のスキルを統合し、戦闘スキル『闘気術』及び、武技『圏境』を獲得しました


 天啓が脳裏に響く。

 なんか良く分からんが、思った以上に上手く行ったな。

 今の俺ならイケる! そんな直感の囁きに従い、俺は『圏境』を発動させながら堂々とゴブリン達の前に躍り出る。

 しかし、奴らは俺の存在に全く気付かない。

 やはりそうだ。これが『圏境』の効果、ということだろう。奴らにとって文字通り今の俺は背景なのだ。

 気配を殺すだけでは意味がない。その部分だけ穴が開いたように気配が無くなってしまうから、感知の使い手にとっては逆に目立つ。

 だからこそ溶け込めれば、それは非常に強力な効果を発揮するのだ。 

 

 唾を飲み込む。初めて、命を奪う。人間ではない。だが、それでも人型の生物ではある。蟻を潰すような、Gを殺すような感覚では出来ない。

 相棒の言っていたイメージ力が大事だってのは事実だと既に理解している。

 実際先程木の幹に試してみたが、銃のように弾丸を撃って貫くことも出来た。鋭利な刃を生み出し、それなりに太い木を一刀両断することも出来た。

 魔力と闘気、この2つは相性が悪いのか同時に使用することは難しそうだったから試してないが、とりあえず現状では魔力で生み出した弾丸と刃の方が強力だった。だから、俺の魔力を使えばゴブリン程度ならそれほど苦もなく殺せるだろう。

 しかし、ファンタジー世界において命のやり取りに慣れていないというのは危険極まりない。

 だからこそ、俺はここで踏み出すのだ。俺は迷宮主ダンジョンマスターだ。迷宮核ダンジョンコアは人間社会において非常に高値で取引されるらしい。

 それだけでなく、迷宮走破者の称号は冒険者にとって栄誉なことのようだ。

 だから間違いなく、俺はこれから冒険者に狙われる立場になる。侵入者を殺して一々メンタルヤラレてちゃ生きてはいけないのだ。

 ならば最も命を奪う感覚を、しっかりと心の底まで刻み込める殺し方をすべきだ。意味もなく苦しませるような真似はしない。そんな趣味はない。

 だが、一撃で楽にしてやれるような技術はないんだ。すまない。


 未だ何も気付かず、無邪気に肉の前で飛び跳ねるゴブリン達に心の中で小さく詫びを入れると、俺は闘気を拳に纏わせて硬度をあげ、肘の先から魔力をジェットのように噴出させることで勢いを増した。

 そして、ひたすら殴り続けた。返り血を全身に浴びながら。苦悶の声を心に刻み込みながら。それでも無視して殴り続けた。

 当然、殺気丸出しで攻撃すれば『圏境』も解ける。ゴブリン達は途中で俺の存在に気付いた。しかし無視して続行した。

 蹴り殺した。殴り殺した。絞め殺した。矢に刺されて燃えるような痛みが走っても無視して続けた。

 そうして、終わった。ゴブリンの群れは全滅した。

 だが予想と反して、それほどの罪悪感には襲われなかった。やはり同族相手ではないという部分が大きいのだろうか? それとも俺は、元々それほど倫理観の強い人間ではなかったのだろうか。分からない。

 けれど俺がこの先生きていくためには、相手が人間だろうと侵入者なら躊躇わず殺し尽くさなければならない。殺しに対する罪悪感で吐き出したりしないで済むのだから、良かったと喜んでおくべきだろう。


――ゴブリンの群れを討伐しました

――経験値を18獲得しました

――レベル4に上昇しました

――称号スキル『転生者』の効果が発動。パラメータ成長値が上昇しました

――武技『硬気功』を獲得しました

――戦闘スキル『魔力放出』を獲得しました

――格闘の熟練度が3に上昇しました


 戦闘の終了を告げるように、天啓が響く。


「ふぅ……終わったか。パンイチにステゴロでも、案外イケるもんだな。ちょっとダメージは喰らったけど」


 よし、この調子でエリアボスを覗いてみるか。

 魔力と気配でなんとなく強さにあたりはつけてるが、解析は直接視認しないと発動出来ないからな。

 とりあえずステータスの確認だけは、しに行ってみよう。

 





今話の最終ステータス

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名前:神崎創哉 16歳 男 レベル:4

種族:人間  

クラス:迷宮主ダンジョンマスター

 

CBP:2700/3000

筋力:270

耐久:120

敏捷:200

魔力:500

器用:410


能力:クラススキル『迷宮の支配者』

   …DPショップ,領地拡大,領地内転移

    虚ろなる身体,万能翻訳,眷属化,解析


   称号スキル

   『転生者』『超シスコン』

   

   エクストラスキル

   『悪意感知』『直感』『家事全般』

   

   戦闘スキル

   『闘気術』『魔力放出』


   武技

   『圏境』『硬気功』


熟練度:芸術5,歌唱6,演奏6,格闘3

耐性:飲食不要,疲労無効,不老,痛み耐性Lv8,熱変動耐性Lv3 

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