1.0.8.植物に愛された女 -2-
「ホント、僕はどうかしているよね」
「ハッ…ホントにな。だが、僥倖だ」
倒れた大木の根本に身を潜める俺達。舞波は死んでいるはずの大木の根っこをウネウネ動かして、チョンと俺の肩を突いて見せると、ついに彼女はマスクを脱いだ。
「息苦しいだけのマスクも不要だろうね」
そういって、マスクを背中側に持っていく舞波。そういう間にも、彼女の支配下に置かれていく植物は増えてゆき…俺はその様を見て薄っすら背筋が寒くなってくる。たった一人の少女に、いとも簡単に操られていく植物たち…風にしか靡かないと思ってたそれらが意図を持つように動くのが、こうも気味悪いとは思わなかった。
「さて、ヤナギン。あれはどうすればいいかな」
「どうすっか。殺す事に成功したって話は聞いたこと無いぜ」
「締め上げるのがいいかな」
「どうせ空気を吸ってんだろって?」
「そう。空気を吸えなくなるか、餌を食べられなくなればいいんだろう?」
「そうだろうが…出来るのか?」
「それは…任せてくれ。次から次に繋がっていってるんだ。今の僕なら出来るよ」
「すげぇなぁ…俺のお守りは要らなかったんじゃねぇか」
気の抜けた答えを返す俺に、ニヤリと笑って見せる舞波。彼女はスグに表情を消すと、ツタを通してツンツンと俺の肩を突き、そしてヒョイと狩人が居る方向を指した。
「足止め出来ないかな?」
「あと3発って所だぜ。このレーザーガン、太陽が無けりゃ充電されねぇんだ」
「1発で十分だろう?彼らは僕たちを探してる。その辺の木を1本倒せばいい」
「陽動か」
「あぁ陽動だ。安心してくれたまえよ?木なんて、1度切れただけじゃ死なないんだから」
植物と同化したような事をいう舞波。俺は僅かに顔を顰めると、手にしたレーザーガンを握り直し、そして、少し遠くで暴れまわる狩人の方をチラリと見やった。今いる狩人は2匹…幸運なことに、奴等は同じような場所にいる。散り散りになってるよりかは百倍マシってもんだろう。
「よぅし、舞波!あのデカい木を倒してやる。それでいいな!?」
「OK、ヤナギン。やっちゃって!」
考える事なんてせず、殆ど感覚だけで物事を決める。俺は舞波に合図を出すと、そっと大木の下から出て…狩人たちの近くに立つ大木の根本にレーザーガンを向けた。
#>出力、大丈夫カ?
"あぁ、問題ない”
ハンドラーからの確認。それを踏まえてレーザーガンの出力をちょっと弄って、照準を付けると、ふーっと呼吸を止め、そっと引き金を絞ってやる。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
さっきまでの銃声とは別種の銃声が森の中に響き渡った。驚く狩人達。大木の根本に着弾したレーザーは木の周囲に一筋の線を刻み込み…刹那。メキメキと音を立てて狩人たちの方に向かって倒れ始めた。
「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
「ゴワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
狩人たちの絶叫が森中に木霊した。あの程度の大木を食らってもピンピンしているだろうが…まぁ、奴等にも痛覚位はあるのだ。
「舞波!今だ!!」
「任された!!!」
倒れ来る大木を避けんと動き出した狩人。俺たちの視界の先にハッキリと奴等の姿が見えた時。舞波はその華奢な体を奴等の視界に晒し、そっと右手を掲げ…シュ!っと指先を狩人たちに突きつけた。
「ちょっとだけ…大人しくしていてもらおうかな」
舞波らしい落ち着いた口調で紡がれた言葉。その言葉と裏腹に、森の中の…何処に埋まっていたのだろうか?と言いたくなるようなツタが一斉に狩人たちの体をめがけ飛んで行った。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
驚く狩人。そして俺。音を立てて森の中をツタが這いまわって…狩人たちの体に巻き付いて…あっという間に、重たい図体が宙に浮いていく。ツタは1本も千切れることなく…寧ろ、複雑に絡み合って強度を増して、狩人の肉体を切り裂く勢いで絡みついた。よく見れば、狩人の肉に食い込んだ部分からは、奴等の血が滲んで見えるほどに…
「……すげぇな」
あっという間の出来事。狩人たちが地上高くに吊り上げられ…叫び声を上げられなくなるほどにキツく縛り上げられた様を見た俺は、呆然と感想を呟き、舞波の方に顔を向ける。この様を作り出した張本人…舞波は、仕事を終えた後の様な爽やかさ満点の笑みを俺に向けると、両手をひらひらと振って「大したことでもない」と言いたげな仕草を見せる。
「儲けものじゃないかな?ヤナギン。どうやら僕の努力は無駄にならず済みそうだ」
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