1.0.9.植物に愛された女 -3-

 #>大シタモンダナ


 "儲けものとしか思ってねぇだろうに”


 #>アァ。何カ問題デモ?


 "しっぺ返し食らうぜ。舞波を元の世界に戻せなかったら”


 #>心配スルナ。ソッチノ手筈ハ済ンデルヨ


 "流石はハンドラー様だ”


 目の前で展開されている、この世のものとは思えぬ光景を前にハンドラーと言葉を交わす俺。目の前に見えるのは…今まで俺たちを蹂躙する側だった【狩人】がガチガチに縛り上げられ…木よりも高く吊るされて、虚しい叫び声を上げている様。そして、それをやってのけた舞波が、楽し気にツタを動かし【狩人】をじわじわ痛めつけている様だった。


「話が通じないというのは、困るよね。彼らも言葉が通じてくれれば、僕もここまでしなくたっていいのだけど!!」


 そういって、ドリルの様に編み込んだツタを狩人の肉体に突き刺す舞波。狩人の絶叫は最早聞こえず…ただただ弱った様な掠れ声と、止めどなく溢れ出る血が、狩人の状態を示している。


「そこまでしなくてもいいんじゃないか…?」

「そう思ったんだけどもね。彼らは元気だよ?ツタ越しに、彼らの鼓動が感じられる」

「…動けなくなっただけで良いじゃないか」

「ヤナギン。ここで放置したら…彼ら、スグにツタを千切って落ちてきちゃうよ?」

「そうなのか?」

「あぁ。気道を軽く塞いでるから叫べないだけでね。HPはまだ満タンに近いって訳だ」

「HP…?」

「こっちの話さ」


 そういって、追い打ちをかけ続ける舞波。マスクを脱いで少々…並みの人間であれば、もう肌が荒れだしてくる頃になっても、舞波のそれに変化は無い。延々と降り続ける雨に素肌を晒すなんて、自殺行為も良いところだというのに…舞波の肌は、素体に魂を入れ込んだときと同じく、劣化一つしていなかった。


 #>人ジャ、無イナ


 "アンタも人じゃなかろうに”


 #>イヤァ…素体ヲ使エバ、オ前ト同ジヨ。ダガ、舞波ハ違ウ


 "味方で良かったって訳だ”


 #>ソウイウコトダ


 ハンドラーと言葉を交わし続ける間も、延々とツタを絡め…狩人にそれを突き刺し続けていた舞波だったが、ついに攻撃の手を止めてジッと頭上に吊り上げられた巨体を凝視し始める。そんな舞波につられて俺も狩人の方を見やれば、さっきまで微かにでも声を上げていた巨体の怪物は、すっかり大人しくなっていた。


「やったのか?」

「多分ね。ツタ越しにも鼓動を感じない」

「…そのツタ、どこに刺さってんだ?」

「いろんな場所さ。多分…心臓にも刺さってると思うんだけどね」

「ひゅー…」


 もし、奴が死んでいるのならば大戦果だろう。このデカブツ2匹の死体だけで、暫くは連邦政府が養ってくれる。


 "どうするよ?こいつらの死体を調べるだけでも金になりそうじゃねぇか”


 #>ダナ。ダガ、先ヘ進メ


 "報奨金は舞波に払ってやれよ?”


 #>アァ


 ハンドラーに確認を取ると、進めとのお達しだった。俺は舞波の隣に歩み寄ると、元来た道の方…狩人と遭遇した道の方を指さす。


「じゃ、行こうぜ。ハンドラーが進めとのことだ」

「あれはどうする?」

「…せめて地上に下せるか?今、下から調査員が上がってくるから」

「ふむ。分かった。じゃ、少しは解いておこう。少しツタは残すが…気にせず切ってくれってハンドラーに伝えておいてくれるかい?」

「了解」


 いつまでもここに居るわけにはいかない。俺が先を促すと、舞波は器用に狩人2匹を地上に下し…奴等に纏わりついたツタを解いていった。シュルシュルとツタが解かれていくと、生気を感じず、グッタリとした様子の狩人の姿が辺り一面に晒される。


「すげぇ、奴等の死体。初めて見た」


 元の道に戻りつつ、動かなくなった奴等の横を通り過ぎるときにボソッと呟くと、背後についてきた舞波が小さな声でこう呟いた。


「外に居る限りは、怖いもの無し…って所かな?」

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