1.0.4.外界の開拓者 -2-

「僕としては別に構わないけれども…不思議だね。地上は危険らしいが…そう感じない」

「ソレガ不思議ナンダ。外ハ核戦争ノ残リ香ダラケ…人ハ防護服ガ無ケレバ被爆スル」

「と言われてもね。なら…ヤナギン、その恰好は防護服なんだ?」

「あぁ。何だと思ったんだよ」

「てっきり戦闘服かと…僕の知識にある防護服は、もう少し物々しいものだからね」


 そういって、床に座ったまま俺の方に体を向けた舞波。俺は自分の恰好をもう一度見下ろしてから彼女の方に目を向けて首をかしげると、舞波の向こう側に見えるハンドラーも俺と同じ反応を見せていた。


「放射線から身を護るには、薄いんじゃないかなって。そう思ったんだけど…」

「生憎、俺たちの常識じゃこれが防護服だな。ま、ただの作業着さ」

「…そう。…あぁ、すまない。話の骨を折ってしまったね。つまりは…僕に地上で仕事を任せたいってことかな」

「アァ。ヤナギンヲ護衛ニシテナ」

「機械達から身を護ってくれるわけだ」

「ソウダ。外ノ世界ハ、ソーサ達ガ探索ヲ進メテイル」


 再び仕事の話に戻った時。ハンドラーはテレスクリーンの中に、この一帯の地図を浮かび上がらせた。大きな大陸…とは言えない【連邦】の地図。四方を海に囲まれた、縦に細長い島…俺たちがいる地下都市は、一番北側に位置していて、地図には赤い点で示されている。舞波はそれを見て目を細め、何か思うところがありそうな顔を浮かべたが、何も言葉を発さずにハンドラーの言葉を待っていた。


「言ッタダロウ。コノ世ハ、地下人トビル人ニ分カレテイルト」

「底辺がこっち側で、ビルの人々は支配層だったね」

「奴等ハヤガテ、地上全テヲ手ニ入レルツモリダ」

「…はぁ」

「今ハ地下…ココニ奴隷ヲ閉ジ込メテイルガ…ヤガテ、地上ニモ同ジ様ナ都市ガ築カレルダロウ。ソウナッテカラデハ、手遅レナノサ」


 ハンドラーの言葉を受けて、舞波の顔色は更に険しいものになる。彼女の脳内は今、フル回転しているのだろう。眉に皺をよせた思案顔をハンドラーに向けた舞波は、ゆっくりと、考えをまとめるようにして口を開いた。


「だから、その前に何とかしようって話だろうけども…解せない点が幾つかあるな」

「聞イテミナ」

「1つ…それでやることがスカベンジャー…だっけ?地上の目ぼしい品を拾い集めるってのはどういう目的だい?」

「最初カラ痛イ所ヲ突イテクル…マ、活動資金ノ為ダ。実際、地上ノ遺物…放置サレテイル機械共ニ商品価値ハ無イ。セイゼイ…バラシテ材料ニスル程度…資材ハ貴重ナンダ」

「なるほど。じゃあ次に…2つ目。地上を歩き回ってどうするのさ?旗でも立てて…ここは僕たちの土地だ!とでも言い張るの?」

「ソウダナ。簡単ニ言エバ。我々地下人…地下ニ住マウ人間ノ場所ハ…島ノ北側ダケニシカナイ。今ノ所コノ辺ダケナンダ。一方デ、ソーサ…ビル人達ノ住処ハ島ノ南」

「なるほど陣地取りゲームみたいなものか。真ん中が未開の地と化してる訳だね」

「ソウダ」

「ふむ…で、地上は人が長時間要られぬ程に放射線が凄いんだろう?確保して…どうする気だい?」

「ト、言ウト…?」

「そのままの意味さ。例えば僕が…ここを確保した!って旗を立てても…僕しか居られない土地なんだろう。ほかの人の為にならない」


 舞波はそういってハンドラーと俺の顔を交互に見てくる。そう見られても…もうとっくに俺の領分ではないから、俺はテレスクリーンにハンドラーの顔をジッと見つめてハンドラーの答えを待つしかない。ハンドラーは少しばかり目を閉じて間を置いたのち、ゆっくりと口を開いた。


「考エテイナイ…ガ、正シイカ。場所ニヨッテ…住メル土地ガアルカモシレナイ。ソウ見立テヲ立テテ動イテイルダケダカラナ」


 ハンドラーが苦しい感じでそう答えると、舞波はすぐさま質問を返す。


「ねぇ、この辺の雰囲気とか…話を聞く限り。3度目の核戦争から結構経ってる気がするんだけどさ。もしかして…地上に出て探索し始めるようになったのって最近なのかい?こう…解せないんだ。時間が経ってるなら、まぁ、人が地上に住めるようになってても変じゃないと思うし…何より、ソーサとやらが僕たちを使役してるはずだろう?」


 舞波の問いを受けた俺たちは、思わず固まってしまう。当たり前…そう思って当然なのだが、俺たちはその問いに対する適切な答えを持っていないのだ。


「……」

「……」


 舞波の言う通り…3度目の核戦争からは大分時が過ぎている。終戦後、減りに減った人類はその日暮らしを強いられる羽目になり…その間に二分化し…資産を持っている者たちは建物の増改築を繰り返して空へ逃げ…そうでないものは地下を掘り返して地中に沈んだ。そうして、互いが離れあって…また、離れた先で幾星霜…時が流れて、ふと、地上が気になって…こんなことになっている…それだけに過ぎない。そうでなければ生き延びれないという保証はないが…そうしないと生きている資格がない気がする…だからそうしているだけなのだ。


 #>考エタコトモナイダロウ?


 "あぁ、変だと思わなかったんだから”


 答えに窮した俺たち。舞波はそんな俺たちを見て首を傾げつつ、苦笑いをじんわりと顔に滲ませると、肩を竦めつつ「すまない。いったん忘れてくれるかな」と言って俺たちの思考を打ち止めにし…そして、一段声色を低めて、彼女の本心からの願い事を言い含めてきた。


「とにかく、僕は元居た世界に戻りたいだけなんだ。それが可能か不可能か…せめてその決着だけはつけたいと思ってる。それが満たされるなら…今の問いは、どうだっていいからね」

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