0.0.8.廃村の行末 -1-

 #>トリアエズ、アノ子ノ願イヲ聞キ入レルナラバ。場所ハ確保シナイトダメダゼ


 "あぁ、ソーサの連中にはもうバレてるだろうしな。どうするよ?”


 #> 機械ハ、放射線ニ弱イ


 "冗談にしちゃ物騒だな。核でも使う気か?舞波まで巻き添えになっちまう”


 舞波に一旦の別れを告げて病院を後にした俺は、トボトボと帰路を歩きながら、脳内のハンドラーと言葉を交わしていた。


 "それによ、核なんて使わなくても、こんな山の中だ。舞波の体だけを目当てにすんには金が掛かりすぎる”


 遠い昔に営みが途絶えた廃村。俺が今のところの根城としている地下都市からは、歩いてちょっとの所にしかないのだが、まぁまぁ険しい山の上にあるのだ。いろいろな面で効率重視になってしまった昨今、わざわざ非整地な細い獣道を歩いて、金目のものも殆どない廃村に行くというのは、余りにも効率が悪かった。


 #>ダカラコソ、今更ニナッテオ前ヲ行カセタンダ


 "なんだ、その言い草じゃ、端っから外れくじを俺に宛がったって言ってるようなもんだぜ”


 #>違ウ。ノーテンキデ、人畜無害。トッポイ男ガ適任ナンダ。荒事ガ起キナイカラナ


 "褒められてんだか舐められてんだかわからねぇが…ま、良い意味で取っておこう”


 すっかり暗くなった、細い獣道を歩いてどれだけか。下り坂だから行きよりは進みがいいだろうから、半分位までは来ているだろうが…まぁ、暗いせいで長く感じる。マスクの暗視装置から見える景色は、もうしばらくは鬱蒼とした山の景色から変わらないだろう。


 "で、話を戻すが…あの場所を確保するって言ってもよ。ワリに合わねぇぜ?”


 #>ン?アァ、ソウダナ


 "珍しいじゃねぇの。あの子の願いを聞き入れた俺を止めなかったんだから”


 #>戯レサ。オ前ガ意図ヲ知ル必要ハ無イ


 "はいはい。で、どうする気よ?”


 #>モウ、手段ノ手配ハ済ンデイル。街ニ戻ッタラ…早速準備ダ。残業代ハ出スカラナ


 "はいはい…どこまでも、嚙み合わねぇな。ま、わかったよ。アンタの言う通りにするさ”


 ・

 ・


 延々と山を降り…遠い昔は人々が行き交っていたであろう廃道を歩き…俺はだだっ広い草原までたどり着いた。その草原…道と草の境目にポツリと建っている、四角く古びた建物の中に入り込むと、俺は顔を覆っていたマスクを取ってふーっとため息を1つつく。部屋の中に備え付けられたレンズにじっと目を向けると、部屋の古びたスピーカーから、気の抜けた電子音が鳴り響き、俺の体はふわっとした嫌な浮遊感に包み込まれた。


 #>4X地区ノ雑貨屋。品ハソコニ


 外界と地下都市を繋ぐエレベーターに乗ってる最中。ハンドラーからの指示が飛んできた。俺は頭を掻きながら頷くだけで、何も言葉を返さない。言われた場所は、時折訪れる場所だったからだ。


(チンケな店のくせに、相変わらずなんでもアリだな)


 エレベーターが地下都市までたどり着き、入ってきた扉が開くと、俺はゆっくりとした足取りで部屋を出る。目の前に現れたのは、地下らしい、薄ら寒い岩の道と…錆にまみれた、全く意味を成していない転落防止柵…その奥には複雑に入り組んだ地下都市の情景が見えた。


(初めて来た頃には、この光景にワクワクしたもんだが…悲しいねぇ)


 地下都市の中でも、まだまだ高い位置にあるエレベーターホール。俺はエレベータの目の前、柵の前で立ち止まると、そこから見える景色を眺めて物思いに耽る。草原の地下…岩を砕き、出来上がった人間の住処…計画なんて言葉が無いうちに作られたであろうそれは、真っすぐな道が1つもなく、ただただ各個人の縄張りがバラバラに組み合わさったような様相を呈していた。こうやって遠くから眺める分にはある一種の壮大さが感じられるが、実際に住んでみればそれが如何に人々の哀れな性質から成り立ってしまったかがわかるだろう。


(未だにじっと眺めてねぇと道順間違えそうになるんだがな)


 俺はエレベーターホール前から動き出し、岩でできた細い階段を降りていく。4X地区までは、階段を4回降りて、3回登って…そこから2回下りればつくだろう。どこが〇階で~なんて区別もできない都市…俺は脳裏に描いた地図の通りに足を進めていった。

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