人喰い

目覚め。


自分が感じれる感覚の中で、最も不快に感じる感覚。

目覚めは、自分とこの世を繋げてしまう。目覚めなかったら俺はこの世との繋がりが切れ、ひたすらに追い求めた自由を手にすることができるというのに。


「また死ねなかった。」


朧げな意識でそんなつまらない事を考える。

意識が元通りになったころ、冷たい石畳の地面の上で丸まっている体を起こす。

無機質な地面に手を付き、ゆっくりと立ち上がる。

その瞬間、頭痛が襲ってきて、思わず近くのベンチに手をかける。そしてそのままベンチに倒れこむ。


「お兄さん~?大丈夫?」


ベンチに腰掛け、二日酔いのような頭痛と格闘していると、不意に呼びかけられる。

そして、その声が聞こえてきた方向を向くと、自分の真横に童顔の少女がちょこんと座っているのが目に映る。


その少女は金に少し黄の混じったような綺麗な髪をしていて、瞳が赤く染まっていた。

身長は千秋と同じくらいで、顔つきも似ていると思う。

ラノベ作品で『美少女』と呼ばれるような見た目をした少女が、一体俺に何の用だろうか。


「...大丈夫だ。お前は誰だ?」

「私?私はルーミアだよ!」


ルーミア...と名乗った少女は、ずいぶんと能天気な声をしていた。


「そうか...とりあえず、お前は早く家に帰ったほうがいいぞ。俺が聞いた話によると、ここはずいぶんと物騒らしいからな。」

「大丈夫だよ!もし何かされそうになったら、襲い返すから!」


...なるほど。こいつは襲われる側の存在じゃなく、襲う側の存在だったか。


そんなくだらないことを考えていると、突然左腕に激痛が迸る。


「痛っ...てぇ」

「おに~さんは叫ばないんだぁ...つまんな。」


その少女はそう言葉をこぼす。俺は慌てて左腕のある場所を視認すると、本来そこに存在するはずの左腕はなく、肩から尋常じゃない量の血液が溢れ出していた。

ゆっくりと、視線を肩からその少女へと這うように移動させる。

そして少女の口元にまで視線が向く。その瞬間、俺の目に映った光景は忘れることはできないだろう。


俺の左腕だったものを両手に抱え、それを咥える少女の姿。

月の明かりに照らされ、なんとも妖艶な表情をした少女。

少女の顔に張り付いた、悪魔のような微笑み。


俺は思わずその顔に見惚れてしまった。

きっとその時の俺は、痛み、恐怖、などが混じった表情をしていたかもしれない。

けど、きっと一番思っていたのは、『このまま全身を喰われたら、死ぬことができるかもしれない。』という、なんとも狂った願望だった。


そして少女は、口に咥えた物体を嚙みちぎり、胃に流し込む。

だがその瞬間、この場に最もふさわしくないであろう音が響き渡った。

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