唐突に

俺の腕だったものを飲み込んだ少女は、なんとそれを吐き出していた。

「クソまずい!」

「クソ失礼じゃない?」


リアクションを返し、その吐瀉物に目を向ける。

そこには血液と胃液にまみれている肉片や、俺のものではない髪の毛などが溢れ出ていた。

血液やら生々しい傷跡などはもう見慣れているが、人間の一部が溶けかけている物体を見ると、やはり気分が悪くなる。それに、ちぎれた腕の痛みも相まって猶更気分を悪くさせる。


「なにこれ...こんなの食べられたもんじゃないんだけど...一体どんな生活をしたらこんな味になるの...おえっ...まるで腐ってるみたいな味だよ...」

「腐っているわけがないだろ!肌だってキレイだろ!」

「確かに、見た目はそこら辺の人間よりも美味しそうだけど...本当にまずい...」


人の肉を勝手に食いちぎっておいて、なんと酷い言い草だろう。


「ねえお兄さん...知ってる?人間の味はその時の幸福度によって変わるんだよ。だから、今の人生に絶望しているような人間は死ぬほど不味いの...だからお兄さんは今、人生に幸福を一切感じてないよね?」

「まあそうだな。俺はここ数十年、幸福を感じたことは一切無い。」

「確かに、お兄さんの周りには自分不幸ですオーラが漂っているもんね...それにしても、久々にありついたご馳走だったのに、こんなに不味いなんて...本っ当最悪。」


悲しさと怒りが感じられる声色でそう声を上げる少女。俺は何も悪くないし、何なら被害者だが、どうにも可哀そうに思えてきた。

そんな事を考えていると、肩にムズムズとした違和感を覚える。

「ようやくか...」

そう呟き、その違和感を感じる部分に視線を向ける。

少女も目線に釣られ、俺が視線を向けた部分と同じ場所を見つめる。


その数秒後、ぐちゃぐちゃと音を立てながら肩から肉の塊が再生しだす。

そして元あった腕の形を再現するように肉片が変化していき、数秒ほどで元の腕が復元される。

相当驚いたのか、少女は口をぽかんと開き、一点を射るように見つめる。

俺には見慣れた光景だったが、少女はそうではなかったらしい。まあ当然だ。人体が突然復元される光景など、見たことのある者はいないだろうからな。


「...何これ...どういうことなの?」

「これが、俺が不死身だと言われる所以だ。捻挫やかすり傷程度ならこんなことは起きないが、今みたいな大けがをするとこんな感じで欠けた部分が再生されていくんだ。」

「...これでお兄さんが美味しかったら最高だったのに...」

そう言葉をこぼす。さっきからずっと失礼な奴だ。


すると突然少女は俯き、ぶつぶつと念仏のように言葉を吐き出す。

声が小さく、その不気味な言葉の内容は理解することができなかった。


そして数秒後、突然少女は立ち上がり、俺に向かってこう叫ぶ。

「私がご飯作ってあげるから、家に案内して!」

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不老不死の俺と人喰いの彼女 いわし @iwasi_dokusyosuki

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