救いの手
「また哲学的なことでも考えてんのか?」
ベンチの右手側から、聞き飽きるほど聞いた声が響く。
「お前はいつ見ても暇そうだな。」
そう軽口を叩く彼女の名は『倉間 千秋』
背丈は低く童顔で、黄色の髪をなびかせて歩く様子は人形のようだ。
「今日もお前を殺すための毒薬を作ってきたやったぞ」
「...お前は俺を殺す薬じゃなく、ただ俺を苦しませるだけの薬を作ってくるじゃないか。」
「お前の生命力が高すぎるだけだ。」
短い会話を交わしたのち、千秋は俺の隣に腰掛ける。
「最近、このあたりで殺人が起きたらしいぞ。こんな物騒なところさっさと離れたらどうだ?」
「...皮肉か?」
そう言い、雲で隠された空を見上げ呟く。
「物騒で死ねたら...どんだけ楽なんだろうな。まあお前にはわからないだろうがな」
「お前の気持ちが理解できるときなんて一生無いだろうな。お前と違って、私はまだ生きてたいからな。それにお前と違って年も若い。お前みたいな爺とは違うんだよ。」
「でも見た目はお前よりも若いぞ?」
「そりゃお前が老けないからだ。不死身かつ老けないなんてただの不老不死だろ。」
「不老不死か...経験したことのない人間からしたら喉から手が出るほど欲しい体質だろうな。だが俺としては、一刻も早くこの体が朽ち果てて消えてしまいたいんだがな。」
「諦めろ。お前はすぐに死ねるような存在じゃない。それが、お前という存在の定めだ。」
定め...か。自ら不老不死を望んだわけでもないのに、不老不死という存在の定めに苦しみ続けるなんて、この世界はどうかしているな。
「とりあえず試作品だ。今までのお前の反応から、一番効きそうな薬品を調合して作ってきた。そしてお前が死ぬことができる確率だが...なんとびっくり0.87%...まあ死ねる確率はかなり低いな。だが、その0.87%を引ければお前は死ねる。どうだ、飲んでみるか?」
「ありがたくいただきます。」
「即答かよ...まあいい。じゃあこの毒薬はお前にやるよ。私はもう帰るから、死ねなかったときは感想を聞かせてくれ。」
そうして僕は千秋から毒薬を受け取ると、勢いよく喉奥に流し込む。
その瞬間、喉が焼けるように熱くなり、その勢いのまま毒薬が胃に到達する。体の内側から燃え出すような熱さと、胃がひっくり返るような吐き気が同時に襲ってくる。地獄のような時間だ。
だがそんな苦しみもすぐに感じなくなり、目の前がぐらつき地面に思い切り倒れる。
毒薬の入っていたフラスコ瓶が勢いよく落下し、パリンと音を立てそこかしこに散らばる。
フラスコ瓶の破片超しに千秋が去る様子が瞳に映し出される。その瞬間、何故かはわからないがなにか嫌な予感を感じ取る。声をかけようとしたが喉が燃えるように熱く声が出ない。もう一度声を出そうと試みるが、どうせ大したことはないと朧げな意識で考え、諦める。
そして自然と瞼が落ちてきて、目の前が闇に包まれた。
ようやくこんなゴミみたいな世界との繋がりを断ち切れると考えると、少し心が躍るような感覚がした。
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