補完情報「INI-53」「UZI-EL」「H-132エイガリス」

「[INI-53]、I.N.I社が開発した3174年製のアサルトライフルだ。通称グレイルなんて呼ばれる事もある。かの有名なアーム・ヘビー社製[AR-10]をブルメントが正式採用した際に[N16]と称されたアサルトライフルは"ブラックライフル"と呼ばれていたらしいが、僕からすればこっちの方がはるかに黒いイメージがある。何てったってI.N.I社だ、その設計製作のメインを前線に置き常に現場のニーズを飢えた獣の様に収集しその調査の結晶を製品化、素早く顧客に届ける。何度その戦火に巻き込まれても社員の命を何とも思っていない仕事の鬼だ。」


「なんだ、あんたからすれば見習うべきとか思うものだと思っていたが?」


「これでも一児の父だ……何かを守る戦いでない戦いなんて無い方が良い。僕はメグを父としてその愛情が伝わる様に愛さなくてはならないから無暗に死にに行くことは出来ないんだ、ナスカと違ってね。」


 「ほーん。で、それなのにあんたはメグを戦場へ連れてくというのか。」


 「メグと僕は最早一心同体だ、それに君と比べても劣らない程の兵士だよ彼女は。……そうかい、いや褒めてるんでなくナスカもそう思っているよ、だろう?」


 「…………。それで、肝心の特徴は?私は戦場でそれに会ったらどうすればいい?」


「5.56mmライフル弾を30発装填できる、30+1発だ。全長95cm重量4kg、つまりは他のアサルトライフルと違う所はなく、言わばバトルライフル程の規模ではない。それでいて重量感がその銃撃の反動を打ち消すタイプだ。連射速度は中の中、バラマキに適してはいない。これを鑑みるとナスカに適しているアサルトライフルではないだろう。それに厳密に言えば精度が高い、精密な銃とは言えない。そもそももう古い銃だ、今はどこもかしこも[N5]ばかり。打って変わって、一番のウリは過酷な環境下での信頼性にある。それにプラスして生産性も高い。まあ、今じゃあ人間工学にのっとった新規デザインが取り込まれ、マウント用レールも標準装備されている進化系の[INI-AEC]がロールアウトしたからな。コスト面以外で今[INI-53]をあえて使う必要は無いな。戦場で見かけたらとりあえず拾っておいて、上位互換が見つかれば捨てるといい。5.56mmを使っているのだから無駄弾の抱えるなんてことは無い筈だ。」


 「対処法は。」


 「ライフルごとに対処する方法が違うなんてことがあるものか。精々バトルライフルだったら、装弾数の少なさを狙うとか、その大口径に苦戦するはずの兵士の意表を突くとか、例えばサブマシンガンを相手にするならば距離を取るなり、自分の姿を最後に見せる場所を選ぶなりする……だとか。要するにカテゴリーごとに対処が違うだけで、この型番はこう、という対処は難しいだろうな。…………ああ、メグは利口だな、そう魔法を忘れていた。僕自身使えないものだからね。」


 「魔法で何とかできるのか?」


 「なんだメグのいう事が聞こえなかったのか?彼女の言う通り、そもそも魔法が使えるならその身体能力でもって弾を弾くだとか、撃たれる前に近接戦闘で1人を盾にして弾をバラまくとか、僕の言うような小賢しい事をしなくても良いんじゃないかって事だよ。」


 「いつでも魔法がその通りに使えるとは限らない。魔素の濃い地域では強制的に強化され制御しにくくなるし、逆に魔素が薄ければ発動さえ困難になる。――その、メグはそれについて何か意見は?」


 「………………」


 「なあ、メイソン実はな私はメグの言葉を翻訳できないんだ。魔力の拮抗が起こっていてメグと私では相性が悪いのかもしれん。」


 「メグは普通に共通語をしゃべっているよ、なあ?……いや、少し訛りがあったりするのだろうか。いいかい、メグ世の中には共通語は共通語だけど、別なイントネーションが――。」

 

 「なあ、メイソン。あんた30代前半どころか20代後半の風体をしていて……その、メグは実子なのか?あ、いや不躾で悪かった、答えたくないならそれでいいんだが。」


 「ナスカ、子供の君には分からないかもしれないが、僕とメグは一心同体なんだ。それは確実だ、メグ。お前は僕が守る、お前も父さんを守ってくれ。……ああ、ありがとう、ああ僕もうれしく思っているよ。それで訛りの事なんだけど――。」


 「ロイターのリクルートはどうなってんだ……。」


 ――――――


 「俺様はなんでこんな気味の悪ィ事に参加させられてるんだ、なぁナスカ。」


 「知るか、私だって聞きたいよ。」


 「テメェのせいだって嫌味言ってんだボケ。……ま、そんなこと言っててもどうしようにもならん。コイツの使い方は分かるか。」


 「[UZI-EL]だな。グリップにマガジンを入れて、上部コッキングハンドルを引けば使える。」


 「それじゃあいいじゃねえか。プロヴィデンスの野郎はナスカの頭がパアになったから武器の使い方をちゃんと覚えているか復習させろとこの俺様に命令しやがった。こんなつまらねえ事はアノンや51にでも任せとけばいいんだよ……ったく。」

 

 「ほら、録音されてるぞ。そんな説明でプロヴィデンスが納得すると思うか。」


 「て、テメェ……いいか、I.N.I社が開発した3150年製サブマシンガン[UZI-EL]、使用する弾は9mm、長さ45cm重さは大体3kgだ。マガジンの種類が豊富でグリップ部にスッポリ収まる20発から長く飛び出して邪魔くさい50発までバリエーションが豊富だ。連射速度はサブマシンガンという括りの中では遅いほうだ、あれだけバラまいてくれと言わんばかりのデザインしておいてな。実際図体を小さくして連射速度を高めた「ミニ」という派生型はバラマキ特化だ、当てに行くんでなく当たるのを祈った方がいいな。」


 「それで、[UZI-EL]について私はどうこの銃と付き合えばいいんだ。」


 「そんなのテメェで考える問題だろうがよ。まあ、その小せぇ体ならサブマシンガンという選択肢は非常に魅力的だと思うぜ。アサルトライフルは無論バトルライフルなんか扱えるとは到底思えねえ。[UZI-EL]はその重さと遅い連射速度の故にフルオート中の制御もしやすい、今じゃあ昔の銃になっちまったが、名銃ではある筈だ。戦場で見かけたら放っておく選択肢はないな。」


 「私が付き合う銃は古いものが多いようだな、VRじゃ最新式をいくらでも使わせてくれたんだがな。」

 

 「当たり前だ、今現役の古い銃っていうのは信頼性と低コストこの2つの柱で現存してる。正規軍と違って俺達傭兵は常に資金不足だ、だから俺らの持つ銃ってのはトリガーを引けば弾が出る骨董品ばかり。テメェも出先で新型が手に入るようなら率先して手に入れてくるんだな、具合が良ければ俺様の所に持って来い友達料金で買い取ってやる。」


「バズビー、あんたが銃砲店を手広くやってるって事を今の今まで疑っていたが……商売のマネができるぐらいの知識はあるんだな。」


「なあ、お前俺様を何だと思ってやがる。」


「同類、だな。」


 ――――――

 「[H-132エイガリス]攻撃ヘリの中でも非常にオフェンスな機体だ。数字末尾にa~fまでの文字が着くが、後者になるにつれてコストと危険度が増す。見かけたら先ずは伏せて相手の出方を伺え、その速度旋回の角度から自分を特定されたか把握してその後の行動に生かすんだ。」


 「なあ、スアダイル。攻撃ヘリって言うからにはその機体のどれもがオフェンスなんじゃないか。ワザワザ括りとして攻撃なんてワードを使う意味が分からない。」


「もともとヘリコプターって言うのは兵員輸送用の航空機だ。女神歴2960年代からその言質が確認できるが、詳細は不明だ。誰も三百年前のデータを保証できないからな。そこから空対地の攻撃に転用できると踏んだ人類が作り上げたモノだ。ジェット機では狙いづらい、爆撃機では意図しない場所にも攻撃が及ぶ、そんな場所にミサイルや榴弾を正確に打ち込める。ジェット機で何往復もしなくちゃならないところをヘリではホバー移動で攻撃を続行できるのだからな。」


 「なるほど、運用もしやすいって訳だ。」


 「航空機では安全に着陸して派兵するのに滑走路を必要とするが、ヘリは何処でも兵を下ろせる。垂直着陸しておろしても良し、ラペリングさせて着陸せずに下ろすこともできる。何でもできる優れものだった……しかし対空兵器、それも個人携帯が可能なものが出来てから状況は一変した。[FIM-72ニードル]は自動追尾が可能な対空バズーカだ。コイツが出てからというものヘリは空の支配者たり得なくなった。ソレ自体は高価かつ重く嵩張る為、ヘリが出た時に対応可能だったケースが多くなかったんだが、個人携帯用地対空バズーカの大きな需要がその研究を後押しし、高価ではあるが軽量かつ小さい個人携帯兵器が世に出回った。その後イグジスの出現などもあって彼らは専ら狩られる側となった。」


「じゃあもう現代では運用されて無い筈だろう?意味がなくなったんだから。確かに兵員輸送のニーズはあるかもしれないが攻撃用としてはもう使えないんじゃないか。」


 「操縦難度の低さ、攻撃用モジュールの多様性、対人戦闘力に長けるという点で最後まで粘り続けている事が出来たのが[H-132エイガリス]という事になるだろう。つまりはもう先が無い兵器だ。奴らの特徴としては荷重オーバーにミサイルポッドを積んで、一気に叩き込んで去るという戦術にある。人員は低コストで運用できるから陽動にはもってこいの兵器だ。それに派手にやりたい連中に人気だ、パフォーマンスにもなるからな。国の偽装工作班、反政府組織や賊なんかが欲しがっている。」


「私達の所にも何機かヘリを見かけるけど?」


「ああ、[ML-24クロコダイル]攻撃ヘリの一種だが、主な用途は兵員輸送だ。攻撃も一応できる兵員輸送ヘリと言ったところだ、空のAPCみたいなものだ。一応陸上に居る兵士の脅威にはなるが、攻撃特化のヘリと違って装備できる火器も派手にできなければ図体もでかい。積極的に戦闘に介入すればすぐに地対空個人携行ミサイルの餌食だ。ロイターの[ML-24クロコダイル]はどれも兵員輸送を目的として保有している、ナスカもアレに揺られる事が多くなると思うが決して戦闘で頼ろうと思うなよ。」


 「了解した、精々あまりわがままを言わずにパイロットを困らせないようにするさ。」


 「我が軍のヘリには[ML-24クロコダイル]以外にもいくつか種類があるが先の通り、どのヘリで運ばれた時でも戦闘になった時は率先してヘリを守ってやる事だ。事実撃たれ弱いのだからな。地対空砲[AA-1245 エルダー]なんかを見かけたらあらかじめ破壊工作をしておけよ。」

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