補完情報「ハイパワー」「ガド」「儀式時代」

「ナスカ、君がお守りの様に持っているハンドガンだが内情を知っているのかい?」


「ああ、[FM-BHP] ブロッケン・ハイパワー。9mm弾を13発装填できるハンドガンだ。チャンバーに一発装填されるから13+1発と言ったところだな。ハイパワーなんて言うが、たかが9ミリ拳銃に過ぎない。ストッピングパワーやダメージはそれ以上でもそれ以下でもない事が注意点だな。」


「昔は言葉通りハイパワーだったんだ。3134年ファンディメンタル・マドラックス社製、ブロッケン・ハイパワー。当時拳銃というのは多くて10発程度の装弾数しかなかった、それも今でいうマシンピストルの様な形で、ね。そこに天才が現れてマガジンに一工夫を入れたことで所謂ハンドガンの形を保ったまま9mm弾という中型の弾丸を13発も装填できるようになったんだ。ハイパワー、っていうのは弾数の事を指していて破壊力に対する言葉ではないんだね。20cm、重量は0.8kg、扱いやすい標準的な大きさだ。」


「破壊力を求めるならハンドキャノンとか言われている[N2911]、大口径の伝説を欲しいものにした[D150]、コミックやアニメ、映画で英雄視された通称サーペント、[N586]が既にあってそいつ等より弾丸が小さい訳だからな、それでパワーがハイって言われても当時の幼い私は技術革新なんだとばかり……」


「それで、この銃を相棒にしたのかい?」


「いいや、これがあの時の選択肢の中で一番無難だったからだ。一番扱いやすく、一番信頼出来て、弾数も申し分ない。」


「今の君の様に思う人間が大勢いるお蔭で今でも紛争地域に行けばハイパワーを目にかける機会は少なくない。信頼性もN2911やZJ-47の伝説と比べたら劣るかもしれないけどそれでもマトモな部類だ。」


「それに、私の「力の一部」になっている。なっているなら愛銃は何でもよかった筈なんだ。」


「あの穴に落ちた時君がホルスターに仕舞ったままだったから、君は生き返るたびにそれを手にすることが出来ると言う訳だね。全く君の「力」というものは信じられない。そのハイパワーやいつも着ている服、装備しているポーチの中身までそっくりあの時のまま元に戻るし、戻らない時もある。《ファズ》で得た力を呪いという《異能者》もいると聞く、魔法の様に同じ環境下で同じ結果が期待できない力というのは困りものかも知れないね。」


「だが、生き返るというのは確実だ。そうでなきゃここでお前と話なんかしていない。」


「その通りだね。それで、ナスカ、君の持っているハイパワーは君が自分の命を大切にしない関係上極端に劣化しにくい。いや、劣化はするんだけども……とりあえず君が生き返るたびにハイパワーも《ファズ》に落ちた時の状態のソレが君のところにやってくる。だから君の切り札といってもいい。ほかに銃を装備するのも君の勝手だけど、ハイパワーの事についてどう運用するかは特別に考えておいてくれ。」


「ああ、最初に装備せずに丸腰で行ってワザと死んでから生き返ってホルスターからハイパワーを抜けばどんな用心深い奴でも死ぬ。」


「あぁ……君は本当に、全く。話を戻そう、今じゃブロッケン・ハイパワーはハイパワーでも何でもない一旧式の拳銃に過ぎない。全身が樹脂で出来ているケロッグ社製[ケロッグ17]、ブルメント軍に正式採用されているブルスト社製[N92]、カスタムが豊富なヘルシオネ&コルク社製[OSP]どれも精度や信頼性、携行性、軽さ全てにおいてレベルが高い。君も戦場で見かけたら優先してその古臭いハイパワーと交換するべきだ。マガジンポーチのハイパワー用マガジンにある9mm弾も生き返る時に戻ってくるんだろ?だったら、なおさら新型のハンドガンと交換することを進めるよ。[OSP]は11.5mm弾のイメージがあるけど9mm弾のヴァリアントもあるんだ。」


「あまり気が乗らないな、やっぱり肌身離さず信頼している物をサイドアームにしたい。」


「ナスカ、フフッ……ハハハッ!今の君は「俺は[N2911]しか信用しない」を口癖にしてる田舎の退役軍人と同じだ!古い!」


「アノン、お前は私を小娘扱いする上に爺扱いもするんだな。結局は経験がモノをいう世界なんだよ、それだけだ。」


 ――――――


「[EX-0115]ガド、このイグジスを戦場で見ない日は無いってぐらいにポピュラーな型番だね。もちろん今のはオーバーな表現だけど特に前線やホットゾーンなんかでは冗談にならないだろう。君もイグジスの戦闘訓練について、ガドで主に行ったと思うんだけど?」


「なんだ、あのシュミレーションか?VR訓練の1つの?」


「ああ、それ。今の時代、女神歴3200年代では一般的なコックピットをしていてドーヴァーやその他の機体……例えばニムトとかある種の専用機体においてもガドのコックピット設備に生き写しだったりするんだ。だから大抵の兵士……イグジスのパイロットはガドで訓練を受けるのさ。」


「私には向いていない、全く酷い揺れの中酷くのろのろ動くものだから……」


「重力下じゃあそんなものさ、ドーヴァーの様に軽く軽くを目標にして作られた機体でなければあんなものだよ。そんな中エリートやエースって奴らは先手を読んで行動するものだから、亀の様に鈍いと思ってしまうガドの挙動でも敵に打ち勝つことが出来る。」


「……第一どこもかしこもガドだらけってのは何故なんだ。あれじゃあ敵か味方か分からないじゃないか。」


「イミテーション・オーバーライド社製、[EX-0115]ガドあるいは[EX-0015]ガドは儀式時代より前から多くの陣営が使ってきたイグジスだ。儀式時代についてはどれ程知っている?」


「100年ぐらい人間は人を殺すために生きていた時代があったって言うぐらいしか知らんな。」


「そう、今じゃあ300年戦争なんて言ってたけど当時100年戦争とか言われ始めてから人々に狂いが周っていったんだ。簡単に説明する。ある時国の偉いさんの子息や会社の重鎮の親族なんかが、それぞれがスタンドアロン的だと言うのに揃いも揃って立て続けに殺されていった事があった。今にしてみれば、悪化した全体主義的な戦争が社会の上層部にまで切り崩しにかかっただけだと思うんだけどね。とにかくそんな事になったものだから、高見の見物をしていた高貴な方々も「我先に仇を殺さん」とばかりに闘技場の中心へ殴り込んでいった。この戦争を飯の種にしてやるなんて連中、政治に利用しようとした連中、力を見せつけたかっただけの連中さえも、目的と手段を逆転させてしまったんだ。」


「ほお、お高く留まっていた貴族連中が堕天したか。さぞいい気味だったろう。」


「それがだね……今のナスカのように軽くとらえる事が出来てたら良かったんだが当時は「あの偉いさんさえそう言うのだから」と誰もが武器を手に取ったそうだ。そこから転げ落ちるスピードは速かった。何せ偉いさん連中が殺され始めた時点で、あの戦争は最大瞬間風速だったんだ。大勢の人間が瞬く間に死んで、世代の新陳代謝がバカみたいに早くなった。それで互いに互いを殺す理由が恨みでなくなった時、戦いの意味を死体の山に求めた。戦う事で何かを成すのではなく、戦いこそが成っているのだと人々は気付いたんだ。……その妄想から抜け出すのに100年かかってやっと人は戦いを目的でなく手段に直すことが出来た。」


「私がその儀式時代を知らなかった理由を教えてやろうか、ネットのどこにも転がって無いし図書館とかに本がある訳でもなかったからだ。一体全体どうしたって言うんだ、それにアノンのそれはどうやって知った。」


「ナスカは調べ物が下手だからねぇ。……真面目な話をするとまず儀式時代は伝い手がいない。その時代をよく覚えている者即ち「戦いこそ目的」という麻薬が頭に上った連中の事だ。そりゃ何かを伝える前に戦いで死んでしまうだろう。その上ブルメントとオルゲダは2度と人がその麻薬に侵されない様に情報の管理を徹底した。「戦いを儀式としていた愚かな時代があったが詳細は不明」という認識になる様に。だから情報がそもそも少ないし、出回ってもいない。精々口伝という所だろうね。僕は、ほらスーパーハッカーだからなんでもお見通しなのさ!どうだいナスカ少しは見直してくれたかい?」


「話がだいぶズレたみたいだけど?ガドはどうしたんだよ。」


「ガドは儀式時代より前からあったって話さ。魔力炉や各種センサー、コックピットなんか細かい所は時代に合わせて進化したけど外見や出来る事なんかは大体一緒だ。量産型で改造もきく、コストも低い。儀式時代では戦いが神聖なものだったから、ソレにのっとって意味のない豪華な装飾のガドがあったりとか、それに装備させるブレードが銀で出来ていたり金で出来ていたり、宝玉が埋め込んであったりバカみたいで面白くってさあ。」


「ギャングのボスが持つ金の[D150]というイメージに近いな。……というか敵も味方もガドだらけの理由を知りたいんだが?」


「儀式時代以前からガドはIO社で作られていてそれは両陣営でOEM化されていったんだ。それでいてIO社は積極的に両陣営にヒトもモノもカネも与えていったものだから、両国は色が違うだけの同じ機体で戦う事になった。もう250年近く世界はIO社の玩具に頼り切っている、誰がどう見てもIO社は死の商人でソレこそがこの戦争の根っこだと思うんだが、実態が無いんだ。」


「工場や社員も全部外部受注でそれをまわしているだけに過ぎないと?」


「それだって関係者たちは皆「上がそう言った」「メールやチャットの文体で指示が届き、必要なブツは勝手に届く」「上の上が誰なのか見当もつかない」と揃えて言うんだ。」


「……ふぅ、難しい話だな。」


「それにこの話も何処からどこまでどの程度の脚色を経ているのかも、正確には分からないんだ。もう何百年も前から続く話だから。」


「…………。」


「ま、とにかくガドは何処でも乗れる汎用性の高い機体だ。装備品のレパートリーにも事欠かないから、もし戦場で見つけて手に入れる事が出来れば必ずナスカの力になってくれるはずだよ。」

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