命懸けの茶番

「制圧完了、ガドが一機やられただけで後は無傷だな。」

「エイガリスが何機か死んでるが?」


「所詮攻撃ヘリ隊……爆弾だけ出鱈目に落としてさっさと帰っちまったしよ。」


 ヴァラド基地はその建物に例外なく火の手が上がっていて、どの棟も壊滅状態だ。

 周囲を警戒しているイグジスは、ガド3機とドーヴァー2機である。

 その通信内容に多少の誤りはあった。


 ガドに積んであるミサイルポッドに装填されているミサイルなどはほぼ空になりかけていた。

 その上装備している対兵器アサルトライフルや、大口径セミオートライフルなど各種武装の弾薬数も減っている。


 そして、無傷と言えども戦闘可能という意味での無傷という言葉であったらしく、ガドの装甲には戦車砲の榴弾のダメージが所々見受けられ、中には貫通弾で足部の側面を削られている物もあった。


 「ヴァラドのイグジス隊が出たところでこんなもんだ。なんで俺達が派遣されたのか理解に苦しむね。」


 周囲には惨殺されたガドの手足や真っ2つにされた胴体が転がっている。

 形を留めている者もあったが、穴だらけにされていてコックピット部から血が滴っていた。


 彼らはコックピット内で会話を繰り広げている。

 通信魔法をを展開し、チームで会話が出来る様にしているのだ。


 「全くだ。一体上は何を考え――」


 周りは荒涼としたヴァラド基地跡、死体と先程まで兵器だった屑鉄のあるばかりであった。

 しかし、彼らの一人が上官の考えについて愚痴を漏らそうとしたその時、ヴァラド基地の地面の一部が開かれる。

 まるで落とし穴の様であったが、彼らはその正しい用途を承知していた。


 「このタイミングでもう一機……一機だけだと⁉」

 「随分舐めてくれるじゃあないの‼」


 割れた地面の中から勢いよくイグジスが射出され宙に舞う。

 ガド3機は広がりながらそのイグジスに向かって集中砲火を食らわせる。

 対兵器アサルトライフルの乱射、大口径セミオートライフルの精密射撃、ミサイルポッドからの無誘導ミサイルが一気に一点を目指す。


 無誘導ミサイルがそのイグジスに直撃し、黒煙が広がる。

 

 「まさか当たるとはな、アイツも運がねェ……なッ⁉」

 「なんだと⁉」


 背中のブーストパックや、足底部、肩部より射出されたブーストによって重力下でも宙に浮けるそのイグジスはまるで無傷である。

 攻撃していた彼らは、黒煙の晴れた後着弾したライフル弾を全て弾くその姿を目撃した。


 ある者はズームアップをしてそのイグジスを見る。


 「無傷ですッ‼型番不明‼陣営不明‼新型かッ‼どこのどいつなんだあッ‼」


 「狼狽えるな‼全て無効化されるなどあり得ん、限界はある筈だ撃て!当てまくれ!」

 

 一瞬の怯みはあったが、ガド3機とドーヴァー2機はそのイグジス……ラシアスに向かい全ての兵装を使い攻撃を試みる。

 ドーヴァーの射撃能力は低く、遠距離のイグジスに効果の発揮を期待できなかったがそれでも手に持った[IM-052]で攻撃を放つ。


 彼らの攻撃を待たずしてラシアスはその白い機体を一直線に降下させ回避、着地と共に高速で敵機へ向かう。

 標的はドーヴァーだ。


 「避けるという事はッ‼俺に構わず撃てェッ‼」


 ドーヴァーを駆る隊長格のパイロットから命令が飛ぶ。

 それに肉薄するラシアス。

 ドーヴァーは得意とする近接戦にその手の[カトラス]で臨む。


 切りかかるドーヴァーに対して、ラシアスは懐から棒切れを出す。

 すると、棒切れから定位置まで伸び留まり続ける光線が展開される。

 所謂物語に登場するビームソードである。


 そのビームソードは[カトラス]ごと胴体のコックピットを斜めに撫で斬りし、次の獲物へ向けてブーストをふかす。


 真っ二つに切断されたドーヴァーはその上体が地面に落ちる前に爆散した。


 「レーザーの……剣⁉」


 「新型‼新装備‼おのれェ‼」


 各々が声を荒げるも、積極的に攻撃を仕掛ける事が出来ない。

 それもそのはず、彼らには何一つ有効打となるような攻撃方法が無いのだ。

 このまま死ぬのが定めか!


 ラシアスは、瞬間移動のごとくガドに突っ込みビームソードをコックピットに突っ込む。

 爆散する前に距離を取り、担いでいたレーザーライフルを装備し正確にドーヴァーに光線を撃つ。

 ドーヴァーは持ち前の機動力を生かしそれをスレスレで回避する。


 しかし無慈悲にも秒とかからず二射目が放たれソレは今度こそ正確にガドの胴体を射抜く。

 コックピットには直撃しなかったが、撃たれたのは魔力炉だった。

 無線で声をあげる間もなく爆散していく味方を背に、ドーヴァー一体が残る。


 最後の機体に乗っていた男はコックピットの通信設備を弄り、魔波帯を111.11mgbに合わせる。

 「おい、そこのエース聞こえているか。」

 

 必要のない敵との交信。

 この文化は女神歴3100年代のもので、付近の敵と戦う際に礼儀として自分の名を挙げ相手の名を知る為に作られたものだ。


 正確な距離は時と場合によって変動する為はかり知る事は出来ないが敵味方問わず、その場に居るその魔波帯に合わせた全ての通信を試みている人間と会話をする事が出来る。


 簡単に言えば、道端で声を出せばその声が周囲の人間の耳に入るのと同義である。


 「……抵抗するな、一思いに殺してやる。」

 ラシアスのパイロットは冷徹そのものだった。

 だが、ドーヴァーの男は命乞いをするために話しかけたわけでは無い。


 「テメェはその玩具のおかげでハナを高くさせてる唯のガキだ。粋がるんじゃねェッ‼」

 その遠吠えを皮切りにドーヴァーはその自慢の突進力でラシアスに突撃を試みた。

 全ての兵装を使い、彼に挑む。

 [IM-052]で高速に弾をバラまきながら、右へ左へと機体をステップさせフェイントを狙い、それを追いきれない筈のラシアスに[カトラス]で切りかかる。

 

 だが、男は全ての想像を裏切られる。

 幸運にも打ち勝つ。見切られて逆にビームソードで切り殺される。あるいは未知の兵器で殺される。


 違った。


 ラシアスは堂々と[カトラス]をその同体で数秒間受け止め続けたのである。

 男は即座に理解した。

 自分の挑発の意趣返しだと。


 「お前の吐く言葉も、攻撃もその全てが俺に届かない。」

 そんな言葉が男の脳裏をよぎる。

 実際には何もデバイスから声が届いているわけでは無かった。


 高周波ブレードである[カトラス]はその刃を密着させているラシアスの胴体から火花を散らしている。

 だが、そのパイロットは気にかけていない事が分かる。

 この場に居る全てがその火花で確認が出来ないでいたが、実際ラシアスに傷1つ付いていない。


 ラシアスのパイロットは一言も発せずビームソードでドーヴァーを上から下まで一直線に切り下ろす。

 今度は爆散する機体から離れようともせずそのまま立ち尽くす。


 全壊したヴァラド基地に存在する数々の建物。

 基地を埋め尽くす血と炎

 未だにその頑丈さから姿を留めている管理塔は悪趣味なオブジェの様で、歪な形を噴き出る炎で彩られている。


 立ち尽くす真白なイグジス――ラシアスは、戦車だった鉄屑、人だった肉塊、建物だった近代アートを振り返りもせずブーストを吹かして足早に、一直線に立ち去る。

 既に破壊されていた中央ゲートを抜け、それはまるでそれ自体が閃光の如く荒野を貫き北上していった。


 立ち込める炎はやがて鎮火するだろう。

 破壊された建物、元戦車の鉄屑にはそれを漁る人間が訪れに来るだろう。


 しかし、この場で死んでいった大勢の人間を手向ける者は誰一人居ない。

 生きて退却していった賊たちは無論の事、単騎脱出したラシアスのパイロットとそれに同乗する少女でさえも――。

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