チェック

 階段室から5階のメインルームに繋がる廊下にて激しい戦闘が行われていた。

 互いが互いを銃弾によって牽制し、時にはどちらかに死傷者が出る。


 籠城しているオルゲダ兵側が圧倒的有利だ。

 というのも、当然ながらそれを考慮した部屋構成の上で陣形を整えて戦っているのだから当然である。

 それに、天井から吊り下げられる形に設置されている自動バルカンタレットから絶えず12ミリのライフル弾を絶えず射出し続けているのだ。


 侵入者達は攻めあぐねながらも戦線を維持し、何とか中央部に近づこうとするも、1人また1人とライフル弾に引き裂かれる。

 だが、彼らにも作戦があった。

 ただ闇雲に正面から突撃していたわけでは無かったのだ。


 侵入者達と戦い続けてから5階に配置されていたオルゲダ兵はその異音を不思議に思っていた。

 何やら強引に鋼を切り裂いている様な音に、衝突音や爆発音がミックスされている。

 だが、そんな音に気を取られてはいても考える余裕などない。


 こちらには室内戦闘では明らかにオーバーパワーなバルカンタレットまで配備しているのだ。

 常識的に考えて、敵の装備ではここを突破できない筈だ。

 たとえグレネードが飛ばされたとしてもある程度は耐えられる設計。

 そしてこの棟は超大型ミサイルの直撃でも受けなければ倒壊の心配はないとされている。


 オルゲダ兵はここの防衛力をそう信じていた。

 現に目前の侵入者達はその数を減らしている。

 

 しかし、目の前の侵入者達の数が残り3人になった時。

 落雷が直撃したかのような音と共に部屋の壁一面がモニターとなっている場所から巨大な剣が生え、それが上下に揺れ切っ先がどんどん内部に侵入する。

 

 「一体何なんだ⁉今度は何だ⁉」

 「壁‼壁から剣が‼」

 一斉に取り乱すオルゲダ兵。

 だが、バルカンタレットは絶えず侵入者達を寄せ付けまいとしていた。


 「イグジスですッ‼アレはドーヴァーの装備だァッ‼」

 覇音が高鳴る。

 一人がその可能性を思いついた時、剣は一気に部屋からその外へ吸い込まれていき、次の瞬間その壁から天井に向かってバッサリと傷口が開いた。

 一機のドーヴァーがT-150を踏み台にしてこのメインルームをこじ開けたのだ。


 そこから見つめるのはイグジス、ドーヴァーの頭部。


 あらゆるイグジスの頭部部分には外部情報を取り入れるためのカメラが装着されている。

 そしてそれはいつの時代にも「目」に例えられてきた。


 まるで次元の裂け目から巨人がこちらを睨んでいる様である。


 「ヒヒッッッ‼」

 「クソッタレェェ‼」

 「もう終わりだ!頭部バルカンを撃ち込まれたら全員死ぬ‼」

 「落ち着け‼落ち着いて対処を――」


 動揺するオルゲダ兵が1人撃ち殺される。

 どれだけバルカンタレットが優秀でも、その稼働には排熱の関係上隙が生まれる。

 故に、乱入してきたイグジスによって心を乱されたオルゲダ兵側の不利が決まった。


 「伏せろ」

 侵入者達はタイミングを合わせ遮蔽物に身を完全に隠す。

 ある者は一時的に階段室へと下がった。


 その瞬間である。

 まるで意思疎通が取れていたかの様に、壁の裂け目から見えるドーヴァーの頭部バルカンから数発の弾がバルカンタレットに向かって発射された。


 イグジスの様な兵器に搭載される兵器であるからして、大口径である事は間違いなくその為着弾点にはすさまじい破壊力が生まれた。

 もちろん、命中したバルカンタレットは奇妙なオブジェと化し火花が散っている。

 もう二度と弾丸が発射されることは無いだろう。

 侵入者達はここぞとばかりに銃を撃ちまくる。


 「クソッ‼増援は?外に出ていた奴らは呼び戻せないのか‼」

 「無理です!外は依然正体不明のイグジスと交戦中、こちらに裂く余裕が、グオアッッ‼」

 「チイッ……残存兵力はどうなっている……どの小隊長とも連絡が取れん、これは――」

 「大尉‼脱出!脱出を!」


 オルゲダ兵のパニックはピークに達していたと見える。

 棟の外で戦っていた全兵力と連絡がつかず、別棟とも通信できず、かろうじて自軍のイグジスと敵イグジスが戦っている事が把握できるのみ。

 そして目の前まで迫る刺客。

 オルゲダ兵側は既に3人を除いて全て死んでいた。


 大尉と呼ばれた傍から見ても階級が上である事が分かる格好をした人物が銃を捨て手をあげる。

 戦っていた兵はそれを見て目を丸くするが、即座に銃を下ろした。

 「降参だ!何が目的だ、知りたいことがあるなら――」


 侵入者たちはそのセリフを隙として捉え、その意味を全く考慮しなかった。

 大尉の喋りが終わる前に、ライフル弾が彼らを襲う。

 

 「白旗あげた人間を殺すなどッ‼」

 物言わず多くの風穴をあけられて死んだ大尉殿に代わり、その部下であろう男達が下した銃で再び戦おうとするが、侵入者達はそのようなチャンスを与えてはくれなかった。

 

 壁や床に開けられた無数の銃痕。

 ぱっくりと開けられた大画面モニターの外には、今だ戦いを続けるイグジスと戦車達の姿があった。

 その戦いの音がいまだ続いていたとしても、今この場所この瞬間には一種の静寂の感覚が漂う。

 

 数秒だけ生き残った二人の侵入者は息をつくと、次の作業に取り掛かる。

 一人は生きているコンソールを調べ、基地のデーターの中から必要なものをダウンロードする仕事に取り掛かる。


 「下でトラブルがあったと見える、いつまでたっても残りが来ない。様子を見て来い。」

 コンソールを操作し始めると同時にそのような指示がもう一人に向かって発せられた。


 一人はその発言に無言で従いマガジンをリロードし、階段室へと向かう。

 階段室も例にもれず、赤い非常回転灯により赤黒く染まっている。

 男は、恐る恐る状況を確認しながら階段を下りて行った。


 「おい、どうした⁉誰もいないのか?」


 踊り場まで歩を進め、4階部分へ通じる扉の方に向くと階段の途中で事切れている仲間を見つける。

 彼は構えているライフルの銃口を扉の方に向けたまま、ゆっくりと死んでいる仲間の方へ階段を下りる。

 そして片手でその銃口を安定させながら、もう片手で仲間の手首を掴み脈を確認した。

 完全に死んでいる。


 では死因は……?

 軽く見たところ傷がなさそうだ。

 だが、この大量の血はどうした事だろうか。

 ふとその死体を見ると、まるで項垂れながら血を吐いている様に見えた。

 その頭を上にやるとどうやら首が掻っ切れている。


 そう、男の行動が自身を殺した。

 掻っ切れている首を確認し、少し動揺したその隙に上方から発砲音が聞こえたきりこの男の意識は途絶えた。

 

 側桁にしがみつきながらハンドガンを撃ったのは少女だった。

 撃たれた男は頭に風穴を開けられ、既に首を掻っ切られていた男と同じ様に血を吹き出し倒れ階段を崩れ落ちて行った。


 「せっかく拾ったウジエルも出番が無――」

 少女が声を出しながら側桁を登り膝を付けた時分と同時に、5階に通じる扉枠(侵入者たちの突入により扉は失われた)から男が[UZI-EL]を乱射しながら突入してきた。


 「うおあッ‼」

 少女は銃弾に当たったか定かではないが、その攻撃により声をあげ側桁から階段部へと落ちる。


 「誰だ貴様‼」

 男は階下の少女に向かって銃を乱射する。

 逃すものかと一応狙いは定めていた。

 しかし、ここから予想も出来ないことが起こった。


 何と少女は逃げず、階段を駆け上り始めたのだ。

 男は不思議に思いながらも少女に発砲するが、当たらず、踊り場より少し下の部分に彼女が到達したせいで銃口を向ける事が出来なくなる。


 男は思考をせず、笠木の上に身を乗り出し銃口を彼女に向けることの出来るよう体制を立て直したが、その時少女は踊り場を登り終えていた。

 自然と男はその銃口を向け直すために身体を完全に笠木に預けるか、乗り出した身体を引っ込めながら射撃をするかの二択を迫られることとなった。


 そしてその思考の隙というのは彼にとって悪い結末をもたらす。


 彼は乗り出した身体を引っ込める選択をしたがその最中の射撃という事もあって、全身を晒していた少女のどの部位にも弾は当たらない。

 そして逆に少女が腰だめで放った[UZI-EL]の銃弾が男の腕に数発命中する。

 彼はその痛みからか、血しぶきをあげる腕から銃を手放してしまった。

 その後逃げる様にくるりと5階のメインルームに戻ろうとする。

 だが、少女の銃がそれを許さない。


 連射された拳銃弾が男の足や腕を貫き、防弾チョッキを着ている胴体に衝撃を与える。

 ついには男は床に倒れ伏し、息も絶え絶えになってしまった。


 「あ、がガアッ……し、知りたいことがあるなら、教えてや――」


 男のセリフが終わる前に彼女の銃から放たれた弾が、男の頭蓋を貫いた。

 既に血に塗れていた床に更に血がのっぺりと広がる。


 「さあ、ここからが本番だ。」

 そう独り言を言った少女は、その血だまりを踏みながらメインルームに向かった。

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