チートⅡ
ふと、気が付く。
私は眠っていたのだと感づき、そしてそれは同時に現実へ戻ってきたのだという事をも同時に察することが出来た瞬間であった。
天井はチカチカと、赤黒く光り、血と硝煙の匂いが酷くそれが私を酷く覚醒へと促す。
思えば目覚めた瞬間から周囲よりけたたましく聞こえる警告音や、銃声、爆発音がそれを数倍も助長させた。
完璧に意識をはっきりとさせ、ゆっくりと体を起こさず周囲を確認する。
周りはカーテンで仕切られていて自分はベッドに横になっていた。
すぐ隣には外れた人工呼吸器やこれもまた外れた点滴の針などがあり、薬液がこぼれている。
上半身はタンクトップにホルスターとマガジンポーチのあるハーネス、下半身はオリーブドラブのパンツにブーツ。
腰にはポーチ類が装備されており、ホルスターの中にはハイパワーがある。
そして何よりも、頭から全身にかけて生ぬるい粘液がベッドを浸している。
これらはある事実を私に打ち付ける。
そうして私は、ベッドから降りるとホルスターからハイパワーを出し、いつでも打てる状態にしながら自分が居た部屋の状況を確認する。
ベッドは多くあり、1つにつき1人使っていてその全員が漏れなく撃ち殺されていた。
再び銃声が鳴り響く。
一方的ではなく、集団と集団で戦っているかのように銃声が何重にも重なってあるいは、酷く速いテンポで聞こえてくる。
私が今どこにいるのか、なぜこのような状況に陥ったのか。
私はとりあえず敵から離れているであろう今、コレを整理しようと努めた。
――夢。
そう、夢だ。
夢は全てにおいて幻の様なものであるが、先ほどまで見ていたものは輪にかけて荒唐無稽なものだったという外郭だけ強く思い出させる。
『デウスエクスマキナ』
そのワードだけ先行して私の脳内を駆け、ついでにぼんやりとしたイメージが降る。
そして、課せられた使命を思いつくのである。
「見つける……あのイグジスを……。」
ふとぽつりと声を漏らしてしまったが、周囲の煩い全ての音でかき消された。
私は低い姿勢を意識しながら前へ進む。
割れたガラス、割れたモニターが床へ落ちていたり、地面に書類がばらまかれその上に血をぶちまかれて新たなアートとなっていた。
途中、燃え滾る壁とそこにぽっかりと開いた穴、そこから見えるイグジス、それと戦う戦車という光景に戦慄する。
私は本能的にその廊下だった場所を避けて移動した。
目に見える全てから爆音が私をストレスフルにする。
炎の勢い良く燃える音、ガドに装備された対兵器セミオートライフルの銃声、戦車砲の音、ヘリのローター音……。
途中フロア表が壁に貼り付けてあったのを確認し、階段を目指す。
白衣を着た研究者、ここの兵士、ラフなシャツを着た人間、検診衣を着た者、明らかに違う戦闘服を着た男。
結局残されているのは屍ばかりである。
そして再び鳴り出す銃声は、私の目指そうとしていた階段室の方から聞こえてくる。
恐る恐る近づいてみると、そこには最新の装備で身を固めた特殊部隊のナリをした集団がいた。
成程、この基地を守る者、攻める者、巻き込まれた者で先の屍たちは構成されているらしい。
外から聞こえるけたたましい音のおかげで、ただコッソリ歩く私の発する音に気が付いていないみたいだった。
あの集団には第六感の様な脅威となりえる力を持つ人間はいないと判断した。
だが、戦うか否か。
こちらにはまともに使える兵器はこのハイパワーという名を冠したハンドガンのみ。
敵はここから見えるだけでも3人以上。
既に階段を上り始めている所を見れば倍以上居てもおかしくない。
奴らは上に用があるみたいだが、そうなれば敵対せずこのまま過ぎ去っていくのを見届ければよいだろう。
基本上階には脱出用の某がある事は少ない。
テレポーテーション設備がある場合があるが、このザマでは既に転送先から縁を切られている事が普通なので期待も出来ない。
下に降りつつ、詳細なフロアマップを手に入れイグジスや最低でもバイク、ジープなどの移動手段を手に入れてここから脱出する。
それが今この瞬間の私の目的に違いない。
そこまで自分の頭の中で条件を整理した時、ふと悪魔のささやきが聞こえる。
『こいつらを全て殺し、代わりに私が最上階に行けば全てのデータを得られ、どこに何が有るのか分かる。そうすれば快適に脱出できるに違いない。』
確かにこの状況下、私にやってやれないことは無い。
だが、私の勝率は7割を超えないだろう。
そんな歯がゆい思いをしていると、見えている3人が5人になり何か会話をしている。
どうやら、ここまで来て思った以上に敵の反撃が厳しいという話をしていた。
当たり前だ、最上階への入り口は1つしかなくエレベーターも4回止まり。
5階に大切なものがたくさんあるのであれば迎撃システムもさぞ豪華だったろう。
彼らは作戦を決めた様で、一人が通信魔法を使う。
……こんな敵基地を秘密裏に攻略なんていうシチュエーションでそれを使うか甚だ疑問であった。
というのも、個人が発動させる魔法と言うもの全てに、例を挙げるのであれば指紋のようなものがある。
そしてそれは民族ごとに特徴があるのだ。
要するに、誰がココで魔法を発動させたかばれていい時は遠慮なく使うが、そうでない時は使わないという1つのくくりがある。
そしてそれをめぐる策謀というものがあるのだが(跡を偽装させたり、あえてばらしたりする事もあるらしい)、私はそんな小難しい事を考えられない。
だから私は、それを目の当たりにして公式的にこの基地を巡ってブルメントとオルゲダが争い始めたのだと思った。
ここからはさらなる修羅場が待つ。正規兵が正規の兵器を正規の数導入すればどんな事態が起こるか……。
故に時間をかけるなどあり得ない。
私は、近くにあった何らかのリモコンを明後日の方に投げるとその反対の方向へ素早く移動する。
リモコンが床に落ち、音を鳴らしたがそこにいた集団の一人しか注目しなかった。
外の大きな音でかき消されたのだろう、私もあの程度で注視を集めるのは無理だと思っていたが悲しい事に周りにはそれぐらいしかなかった。
ハイパワーを片手で握り、奴らの頭めがけて数発撃つ。
2人の頭に命中し、彼らは崩れ落ちるがそれと同時にノータイムで残りの3人がライフル及びサブマシンガンを発砲する。
私は身をかがめながら柱やデスク、大型の機械などに身を隠し相手の視界から消えつつも相手の向いていない方向からの攻撃を試みる。
彼らはそこらで拾える兵士ではない事は明らかだ。
自らのチームを鼓舞するような大声や、細かい指示を出すことも無く無言で連携をし、散りながら私の居る位置にあたりを付けて射撃をしてくる。
一人一人のリロードの隙間にも、私が安全に銃撃できる隙を作らず常に誰かが銃を撃っていた。
だが、現実には残弾というものがある。
彼らとてこの私と早く決着をつけたいだろう。
外の砲撃の音や、イグジスの歩行音、先ほどから建物に響く異音などがアラートの音と共に耳を裂く、まるでオーケストラに初めて出会った子供になった気分だ。
だんだんとその3人が私のいる場所にニアミスしてくる様な気配がするが、私もアレから銃を撃たず時には這いながらも彼らの視線に入らない様に動く。
夜明け前という時と、赤黒に点滅する視界というのが私に味方をする。
私は当てずっぽうで遮蔽物から胸上を出し、ハイパワーを撃ちまくる。
1人の頭に命中し、二人の胸部に弾が吸い込まれていったが、奴らは防弾チョッキを着ている。
そしてこのハイパワーは大口径ではない為ストッピングパワーすら生かせることも無く、生きている者は私に射撃する。
私は奇をてらう為にそのまま奴らに向かって走りながら銃を撃ったが、有効打は1人の太股を打ち抜いたのみであった。
ライフル弾が私の腹部、胸部、左腕を打ち抜く。
もう一人から放たれる拳銃弾が、私の視界いっぱいに広がった時私の意識はそこで「一瞬途切れ」た。
気が付く。
私はつい数秒前の行動から、自分がどうなったのかを一瞬で悟る。
「なんだ、今の……。」
「一瞬……消えた?目の錯覚か?」
先ほどまで何の声も出さなかった筈の二人が口々に目の前の怪現象に驚き、声を上げているのが分かる。
おそらく倒れた私の息の根を確かめるために寄って来たに違いない。
そこまで見られているのであれば、理解されている可能性もある。
私は腹筋を使って素早く立ち上がると、片手で「ハイパワーをホルスターから抜き」片手で腰のナイフを抜く。
彼らが一度下ろしていた銃を構え直す前に、私はハイパワーを彼の頭があると思わしき場所に乱射し、もう片手のナイフをもう一方の彼に向かって投げた。
彼らの弾は放たれてはいたがそれが私を射抜くことは無く、私の拳銃弾が一方の頭蓋を撃ち抜き、一方は私のナイフが額に刺さって倒れた。
背面だけ血濡れの私は、額に刺さったナイフを回収して腰に戻す。
そうして、彼らの内の一人が使っていたサブマシンガンを拾い、彼のマガジンポーチから幾つか弾倉を手に入れ、リロードをしながら再び階段室を目指した。
階段室からは俄然と銃声が聞こえており、さらには建物に響く異音の音量も回数も増している。
それらが何を表しているのかを深く考えず、ぐずぐずしている暇はないとだけ思い直した。
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