チート
私は自分が考えていた脱出の糸口を自分の行動の遅さにより潰してしまった事に焦りを感じていた。
射撃場での事があってから数日は経つ。
もう身体の検査も行われず、尋問もなくなっていた。
取られるデータは全て取られてしまっており、私の話すべきことも無くなっていたからだろう。
私はもう用無しになったのだ。
これではいつ殺されるか分かったものではない。
だが、それと同時にルカの思惑もあった。
もしかしたらこのまま待っていればルカの手が回って、私はオルゲダ軍に籍を置くことになるのかもしれない。
それはそれでチャンスが未来に訪れる事を意味する。
数か月軍で従順に過ごし、隙が生まれれば安全に脱出できる。
だが、情報の奪取やオルゲダ軍へのダメージについては触る事が出来なくなるだろう。
それに、ルカ。
あの子とももっと話がしたい。
対等な立場で、二人きりで、だ。
私は夜分遅くにそんな事を考えていた。
自分の身の振り方について焦りを感じていたため、入眠が難しかったが何とか眠ると明晰夢のような現象に見舞われた。
遺跡の様な作りである空間。
だがそれと同時におかしな部分も多く見受けられる。
まるでパソコンのインターフェースやデバイスが遺跡に飲み込まれているかのような作りになっていた。
いちいち緑色に発行している岩肌に生えているキーボード。
モニターは、岩肌からの発光によって空中に形作られていた。
そんな中に、ステレオタイプな研究者を思わせる白衣を着た人物が1人近代的な事務椅子に腰かけていた。
椅子のキャスターが古代遺跡の様な床に干渉して上手く動かないんじゃないかと、ふと思っていると彼女は私に目を合わせた。
「キミが一番近いのか。」
「なんなんだ……コレは。ココは?貴女は?」
「こんな少女にコレを任せるなんて、ラノベか何か?セカイ系ですか?ハァ……。」
私の問いに応じようともせず、私の存在をただ気に食わないような言葉を発する大人の女性。
私を「こんな少女」と見くびる彼女も、壮年に至っていない程度の年であることが推察できる風貌だ。
「私の質問に答える気が無いのか?」
私が声を発している間にも、彼女は私から目を背け装置をいじり始める。
「あなたは、このイグジスを発見する義務がある。」
彼女の奥にある遺跡の壁と思われていた部分に亀裂が入り、4つに分離され私の視界からフェードアウトしていく。
そして目の前に映し出された荘厳なイグジス、それを見た私は眉間にしわを寄せた。
金と銀のカラー。
各部位に何故か亀裂の様な紋様が入ってそこから緑色の光が漏れ出る。
訳の分からない装飾、必要とは思えない羽の様な背部パーツ。
本体から伸びるコードやカタパルト、タラップの様な通常あるべき物が何もない。
人の顔を模した様な2つの目。
それを踏まえて最大限にまで人を模したであろうイグジスに絢爛な装飾を施されたそれは、ヒトが幻想する「神」を模しているのだろうと察した。
こんな夢想に近いイグジスを建造するなんて余程のバカだろう。
あるいはプロヴィデンス辺りがやりそうだな。
「あなたはコレに搭乗し、稼働させる義務がある。」
私と彼女の前には何枚もの光でできた小型モニターの様なものが展開されていく。
私は不思議と目で追わずとも、それらを知る事が出来た。
そしてそれらは、先ほどまでの私の偏見を打ち破るに十二分なものだ。
現代のどんな新鋭イグジスをも失笑するかのごときエネルギーを生み出す魔力炉を持ち、それを現在の全てのイグジスを凌駕する伝導率で各部位に力を送る。
そしてそれを高度に制御し、パイロットに使用させる頭脳をも持つ。
そして今の技術では傷1つ付けられない、いや付ける事を許されない装甲。
このイグジス一機でオルゲダだろうが、ブルメントだろうが甚大な被害を与える事が出来そうだ。
「その後あなたはコレに備わる主力兵器の引き金を引く権利が与えられる。」
新たに光によるモニターが展開された。
イグジスの機体名と全身の画像、装備されている物、操縦者が最低限知っておくべきデータが端的に表示されている。
新車カタログのグラビア面のようなものだ。
主力兵器……?
主力というか搭載されている武器は1つだけだし、コレで何が出来るのかてんで分からない。
ただ、枠内には「ガラルホルン」と名前が表記されていた。
たいていの場合は武器の型番の後に何が出来るのか説明が入る筈なのだ。
例えば「[E-501]長距離用セミオートライフル」と、こんな感じに。
洒落たものだと型番と用途の間に固有名が入る。
正面にある実物を見れば、中距離射撃用のライフルのと思わしき豪華な筒が両腕に装備されている。
そしてそれらは存外に長く、前面はその腕から極端にはみ出し後面は羽の部分まで伸びていた。
武器はこの2つではないのか?
それに、そもそもこの女の言っている事の意味も分からない。
義務?権利?
そもそもこの夢は一体何なんだ⁉
「さっきから何を言っているのかサッパリだ!私の声は聞こえていないのか⁉」
私は、そう言いながら女の肩を掴もうとした。
しかし、私の手が彼女の肩をすり抜けてしまう。
「あなたの力の対価だと思いなさい、そしてこの義務を忘れないように。」
私の行動の一切を気にしなかった女は、私に向けてこのイグジスを見つけ使う事を義務だと言った。
そしてそれは私の力の対価なのだと。
確かに、今まで私の力に対価を感じたことは無かった。
ツケを払う時が来たというのか……?
そんな、一人で砂漠のど真ん中に捨てられた様な孤独と不安を感じながらも、私自身が干渉できないこの状況を打破しようと動いた。
「クソッ!それだったら、今すぐソイツに乗ってやる!」
女が触っていたコンソールに手を伸ばしたが、私の腕はそれすらも貫通しキーを弄る事も出来なかった。
「……あなたを哀れだとは思うわ、でもこの運命を真剣に歩んでそしてコレに乗るの。あなたの様な少女ならコレの想像もできない使い方が出来るかもしれないわ。」
私の周りの景色が急に白く光り輝き始めた。
――違う、光っているのは私だ。
「運命は絶対。『デウス・エクス・マキナ』とあなたの出会いは必然。それを感じながら日々を歩みなさいね……。」
私はそれに何も言い返すことが出来ず、目の前が全て白に染まってしまった。
『デウス・エクス・マキナ』荘厳なイグジスの名前は果たしてその恰好の通り、無為に長い名前を付けられていた。
……実際の運用の時は略称で呼ばれるのだろうか。
運命、対価、義務、必然、権利。
私に課せられた諸々が全て曖昧なまま、私の意識は遠のく。
この夢は夢のままなのだろうか。
あの女の言う通り、現実の私をこの夢が蝕む事になるのだろうか。
そして内容を、あのイグジスを覚えたまま目覚める事が出来るのだろうか。
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