邂逅
あれから一時間ほど廃墟の町を見て回り、点在するウカント兵と話をした。
結局、ガドに乗っているのはベロウ大尉殿お抱えのパイロットであり私なんかと話はしてくれないらしい。
というのも、彼は一向にして尊大な態度を取り続けており彼の話をするのも嫌だという兵の気持ちの表れでもあった。
「オレも相手にされなかったし、話しても嫌な気持ちになるだけだから辞めといた方が良い」
という事だ。
試してみなければわからなかったし、ガドは目立つ上に彼の周りには人が居なかったので私も突撃してみたがあしらわれてしまった。
「あっちへ行け、お前にやれるものなど無い」
「うざったいから喋りかけるんじゃない。」
「口を閉じて消え失せろ、さもなくば撃つ。」
と、最終的に銃を向けられそうになったので今は途方に暮れている。
フォートダウン社がこれ以上の動きをすることはほぼ確実だ。そして私にはそれを確認する仕事がある。
つまりは私こそがガドに乗り、フォートダウン社の動きに対して予防してやろうと思ったのだ。
だから隙を伺おうとしたのだけれど……ちょっと難しいかな。
『ナスカ、まさかと思うけど本当に彼らと運命を共にするわけじゃないだろうね。』
『プロヴィデンスもアノンもよく変な言い方するよな?』
『ハァ……僕は実際に戦う人に敬意を持つことを忘れない様にしているから、キミ達の立ち回りにとやかく口を出さない事にしているんだ。もちろん、必要な情報は即座に通知するし求められれば可能な限りサポートもするよ。でも、あれから時間がたって君はずうっとこの町にいるだろう?普通は、ウカント兵から情報や食料やらを貰って、町を見渡せてかつ人の気が付かない場所に陣を取ってそこで監視をするんだ。で、何をしようとしているんだ君は。』
『私に生き残ってほしいんだろう?だからなんとかあのガドを自分の物に出来ないかなってさ。』
『イカれてるぜお前。……こんな台詞言ってみたかったんだよね。それで構わないよ、君のやりたい様にやってくれていい。今までだってそうしてきたし、プロヴィデンスもそうしろと仰せだからね。』
『私は私の価値を示すために、攻めの姿勢で人生を生きているのさ。そんな人、稀だからね。レアリティが高いものはヒトだろうがモノだろうが価値は高くつく。』
『さて、どうかなお嬢さん。』
私はウロウロ動きながらアノンと通信をする。
傍から見れば自分の使い魔と話をする幼子だ。
それに、うろつく場所は選んでいるつもりだ。
『うん?――ナスカ、さっきの話だが今すぐにガドを奪取した方が良い、急げ‼』
私はアノンの叫びに反応して全力で走り出す。
お使い部隊なんてアマチュア傭兵をやっているが、遊びでやっているわけでは無いしアノンの事はそれなりに信頼している。
『乗り込んだら、ガドの起動補助を頼む!』
疾走する私にウカント兵は目もくれない。
私の身なりの事、士気の事もあり油断が生じているのだろう。
ガドの右足まで潜り込み、一瞬で様子をうかがう。
ハッチは解放されていて、乗り込み用のワイヤーも展開されている。
パイロットが正面に陣取っていて後数秒で気付かれる。
彼の周辺に「あるべき物」が確認できない。
動きは決まった。
ホルスターに仕舞ってあったハイパワーを取り出しながらパイロットに向かって突撃、保持している手を突き出し撃ちながら進む。
戦場にしてはささやかな、しかし確かな銃声が数発鳴り響いた。
「なにをッ、があっ」
彼は一度目の銃声で腰の拳銃を取り出そうとしたが、その腕を撃たれ、次に胸に三発食らって何も出来ずに血を吹き出し倒れた。
そのままワイヤーに捕まり、コックピットに乗り込む。
「あのガキだ!撃てェ‼」
そんな言葉をかき消すが如く、搭乗しようとしている私に向かって銃撃の嵐が吹き付ける。
数発掠った程度でコックピットに乗り込み、席に置いてあったゴーグルを頭につけてハッチを閉めた。
コレでひとまず死なずに済むと言う訳だ。
状況を確認してこのイグジスがどんな状態かを見極める。
旧型……今はスタンバイモードか。なら話は簡単だ、ボタンを押して……ゴーグルを有線接続、コントローラーで稼働を確認……。
『アノン!頼んだ!』
『もうやっている!戦闘統制システムオンライン!異常なし、レッドアラートだ空の目標に向かってぶっ放してくれ!』
⁉⁉いったい何――
ゴーグルをかけたことによってイグジスの頭部カメラ映像にHUDを合成したものを見る事が出来る。
既に標的をオートロックしており、照準が合っている事を知らせている。
標的。それは、イグジス用の投下コンテナだった。
私はそれを認識した瞬間にコントローラーで己のガドを動かす。
トリガーを引き、ガドの持つ対兵器セミオートライフルで大口径弾を射出させる。
私の腕もエースパイロットとは程遠く、そして搭載しているソフトウェアも貧弱なものでオマケに手入れもうまくされていない。
何発も弾を外し続けるうちに当然だがどんどんと投下コンテナが落ちていく。
私が空に向かってガドのライフルを乱射しているのを見て、私めがけて豆鉄砲を撃っていたウカント兵達も察したらしくいつの間にか私への攻撃は止んでいた。
今までの流れが私達の考えと合致しているなら、あのコンテナは十中八九「敵」のイグジスが入った箱。
裏にどんな策略があろうと、あれを撃ち落とさない選択など無い。
「クッ……くそう!当たれぇッ!」
放った弾がコンテナに当たり、落下軌道を少し逸らしたが端に傷を負わせた程度で内部まで損傷させることが出来ていない。
そのまま自身の経験と勘、そして頼りない制御プログラムによって弾を打ち続けた。
だが、撃ち落とせないままコンテナは何者かの予定通り地表へ到達してしまった。
結果として計二発分ダメージは与えた筈だが、あの様子では中身に傷はつける事が出来なかっただろう。
こちらから叩きに行くか、迎え撃つか。
ライフルのリロードをして、アノンに助けを乞う。
『どうする!』
『予測降下地点まで3キロも無い!町の外は荒野だ、討ちに行くなんてあり得ない。迎撃だ!たとえそこに背の高い建物がなくたってその方がマシだ!』
私はガドを膝立ちの状態から立ち上がらせて背の高い建物まで持っていく。
一応身を隠した方がいい。
『奴が来るまでに僕がソフトをマシにしておく、ナスカは各種武装可動部装甲のチェック!』
ゴーグルに映し出される画像の透過率を上げてコックピット内のレバーやボタン副モニタ、自身の持つコントローラーなどを見えるようにする。
私が目標を破壊しようとしている間に、アノンによって妖精がガドのメインフレームと接続されていた様だ。
整備不良、可動部の損耗も酷い。
だが、戦える。
『アイアイ。確認完了!』
「コレでやるしかないんだッ!やってやる……。」
自身で修復する時間も術もない、だからそれらを「機体の癖」として認知するための点検。
その事実に、私は口に出して己を鼓舞する他なかったのだ。
『ソフトのアップデートは時間の問題だ。奴がココにたどり着くまでに出来上がるかどうか……。ナスカ、今の状況を確認する。投下されたコンテナからイグジスが飛び出してきて君を含むウカント兵を一掃する可能性が高い。君はなけなしの遮蔽物を利用して立ち回り奴の隙をついて撃破。そこから先はまたアドリブだ。』
肌がヒリヒリとする。
イグジスでの戦闘というのは歩兵として戦うよりも、プレッシャーを感じやすい。
自分の肉体を動かさない分精神への負荷をダイレクトで感じるからだろう。
今の私はアノンの説明も煩わしく感じた。
『あと、今の騒動でウカント兵の士気はゼロに等しくなった。逃亡兵も出てきている、ウカント側からの援護も期待できない事を認識してくれ。』
『索敵は、ウチの衛星は飛んでないのか。』
『プロヴィデンスは今回の作戦にそこまで肩を入れていない。』
さて、絶望的だ。やって来るかどうかわからない敵イグジスを町に隠れながら目視で確認する以外に方法が無い。
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