虚心尖兵ナスカ

おほ派

戦場

 砂漠の町。


 町と言ってももはやそこに機能は生きておらず、唯のコンクリートオブジェ乱立地帯と化していた。


 使われなくなって久しい看板や、降りたままのシャッター、車だったモノ。


 周囲には多くの人が居たが、町に生きる民間人ではなかった。


 信号機の音や、機械の音、コマーシャルなどの音は一切なくその代わりに鳴っていたのはけたたましい破裂音。



 銃声が絶えず鳴り響く。

 時には大きな爆発音が響き、そこに悲鳴や罵声などがミックスされる。


 身なりの粗末な兵士の集団と、 それなりに装備が整っている兵士の集団が小競り合いを繰り広げていた。

 空にはヘリコプターが飛んでいるが、輸送用のものに簡単な武装が施されているタイプが一機のみ。


 地上にはAPCの存在が確認できる。


 状況から見るに、装備が整っている兵士の集団――PMCの物に違いなかった。


 それに対して身なりの粗末な側――地元の小国所属兵士の大型兵器は見当たらなかった。

 死体はあちこちに放置されていて、多くは小国兵だったがPMC兵のものもあった。


 戦闘が終わればこれらのほぼ全てが「死体漁り」によって消え失せる。

 けたたましい銃声によって、一人、また一人と血しぶきをあげて倒れていく。


 爆発音は大抵迫撃砲によるものか、地雷のものでかかった人間を吹き飛ばしひき肉にしていく。


 ここは地獄ではなく現世の、惑星「マリド」の、いや、この宇宙の全ての普遍的な姿である。


 装備や兵器の差によって、PMC側の勝利は約束されている様に見えた。


 そこにボロのトラックが二台到着する。


 乱暴に停止すると同時に、荷台から多くの兵士が飛び降りてくる。

 拙い身のこなし、粗野な武器。


 トラックから降りる兵士の大半がそうだった。

 彼らが生きてこの地を離れる事は難しいだろう。


 その中には少年兵の姿も見えた。


 この世では子供もまた、戦いに駆り出される。珍しい事では無い。



 そのフードを被ったマント姿の子供は降り立つと、拙いながらも集団行動を起こしていた小国兵達から自然と離れていく。


 その足取りは確かなもので、目的地がある様に見える。


 大通りを横切るその子にPMC兵が容赦なく銃撃を放つ。

 この世では相手が子供だろうが小動物だろうが慈悲は無い。


 だが、敢然とその手に持った小銃で反撃しながら幾つもあるうちの1つの廃墟に身を隠した。

 周囲に自分を警戒する人間が居ないと判断し、彼女は小銃を置きマントを脱ぎ捨てる。

 

 白い肌、くすんだ銀髪は首よりは短くその眼は緑色をしている。

 上半身はタンクトップにホルスターとマガジンポーチのあるハーネス、下半身はオリーブドラブのパンツにブーツ。


 腰にはポーチ類が装備されその姿は古いアクション映画を想起させる。

 身なりを整えると、地面にひっくり返った椅子を起こしてそれに座り、ひじ掛けに肘をついて手を頭に当てる。



 その後、血を流している左腕に相応の処置を施し布で縛った。

 そして数分が経過した後、突如外の爆発音や振動が激しくなった。

 

 外の状況にかまわず同じ姿勢を取っていた彼女は急に、走って廃墟の片方の出口に向かった。


 慎重に戸口から顔を出す。


 「イグジス……」


 ぽつりと漏れる声は小さくハスキーなものだ。

 

 そしてその眼には汎用人型兵器が映っていた。


 ――――――――――


 女神歴2800年代後半……。


 人は自らが住まう星「マリド」を飛び出し、その周辺にいくつものコロニーを作り出し、挙句の果てに近隣の星々をも自らの手中に収めていた。


 そして、植民の限界が訪れると互いに大きな戦争を起こすようになった。

 終結した戦争は新たな争いの火種となり、そしてそれは続いた。


 女神歴2900年頃……。


 世界は大きく揺れ始める。


 ブルメントとオルゲダ。

 この2つの国はその強大さ故に他の国々を同盟と称した傘下に置き始めた。


 ある時は外交で、ある時は武力でもってこれを制し若干の誤差はあれど地図は瞬く間に2色に分かれた。


 真っ2つに分かれた陣営は互いに睨みを利かせていたが、肥大化した国を抑えられる訳もなくちょっとした諍いから世界大戦が勃発。


 後に300年戦争と呼ばれる戦争の幕が上がるのであった。


 最初の100年は経済も戦争も大きく沸いた。


 2国及びその代理は激しくぶつかり合い、血で血を洗う闘争が続いた。己が正義を振りかざし、認められぬものを傷つけて利益を得る。


 愚かだが、そこには情があった。人としてのモラルは失われたが、ヒトという名の獣として人は生きた。


 次の100年はその勢いは衰え、意味のない殺し合いが続いた

 もはや国の上層まで何のために相手を殺しているのか分からない状態だった。


 意義もなく、楽しみもなく、利益もない。


 ただ、前の世代から受け継がれた儀式としての戦争が続いた。

 地図は2色のみで構成された前衛的なアートと化した。


 戦略的意味もない制圧、略奪。それをしてはされるの繰り返し。


 まだ獣の方が利口に思える程ヒトは堕ちた。


 次の100年は状態が50年巻き戻された。

 ヒトは再び戦争に意味を見出し、そこに頭を使うようになった。


 浅慮だがそこに再び陰謀が生まれ、再び新たな兵器や戦略が生まれる。



 そして時は女神歴3202年……。


 ヒトは気付き出していた。

 このまま争い続ければ、100年前に戻る。


 何のために互いを殺しあうのか本当に分からないまま、戦争をする事になる。


 ヒトは殺しあうのが性だとしても、そこに「我」が無いというのは耐えられない。


 機運は間違いなく停戦へと進んでいた筈だった……。

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