第3話 秘密基地巡り

「何か1つだけ足りないって時、ない?」


再び丘の上に戻り、住処の中を飾り付けながら背中を向けたまま、友人は問いかけてきた。



「また店に行くって話か?」


簡易な椅子に腰掛けて、悩む背中に言葉を返した。


「うーん…そうだな、そうなるかもしれない。でもね、何が足りないのか分からないから、探してる事も忘れた内に出会って気付く事もある。」


食指で唇を触りながら、纏まらない思考を整理するように彼は言葉を紡いでいた。要は、“宝箱”の完成にはあと一歩といった所らしい。様々な物を壁に添えては変え、再び空白に戻すといった作業を繰り返していたが、くるりとこちらを向いて屈託なく笑う。


「まぁ今はいいよ、こういう時の為の秘密基地探しだ。君に案内したい場所があるって言ったよね?」


本題に入り、腰を上げて出入口にさっさと足を運ぶ後ろをついて行く。扉代わりの立て掛けた板を退かして外に出た。


......



「足元に気を付けて。」


古びた石の階段を登りながら、忠告に一層注意を配って進む。そんな俺に対して、前の友人は話を続けた。ガラスのランプにふぅ、と息を吹き掛けて表面を軽く撫でると青白い灯りが灯る。


「ここはね、僕が一等懐かしさみたいなものを感じる場所なんだ。」


不思議だね、と続く言葉を確かめるように薄暗い遺跡のような周囲の光景を見渡す。大分高所まで来た。


「しっくりくるって意味か?」


「そうだねぇ…僕の好みに合っているのかもしれない。だから君にも見て欲しかった。ほら、着いたよ。」



辿り着いた先は、白が基調の石の柱が並んで、割れた天井から僅かに光が差し込んだ場所だった。所々朽ちているのはよく案内される様々な秘密基地と変わらず、石はひび割れて柱は幾つか折れて倒れていた。


「いい場所だな。」


「いい場所だろう。」


開けたスペースのタイルを、彼はブーツを鳴らして進み満足気に笑う。


「ここは遠くもよく見える。地図を作ったり、花弁で染まる景色を見たり、ぼんやり時間を過ごしても有意義なんだ。」


こいつはこうして、独りでに探索をして秘密基地や遊びを見付け、その度に俺に教えてくれる。知ってる事も、こいつの方が多く大概新しいものを知る時はこの友人からだった。


ランプを撫でて灯りを消し、荷物に詰めてからかつて廊下だった場所に座り、示すように景色を眺め始める。


倣うように隣に腰を下ろした。



花の匂いがする。


「食べる?」


不意に、紫の透き通った破片を差し出された。


「花の蜜が固まった所を見付けたんだ。結構美味しいよ。」


指先で受け取って、光に透かして見てみた。


口に含んで、奥歯で噛み締める。


同時に、パキンとした音が鳴った。


「気を付けないと口の中に刺さるから、気をつけてね。」


僅かな渋さを感じてから、直ぐに甘ったるさで上塗りされたそれに、俺は懐かしさを感じた。

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ある、理想の国 白里歩 @doushite

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