第2話 シーとヒーの店
丘を降りて間もなく、細い道を辿った先の裏側に彼らの店はあった。
「やあ、いらっしゃい。」
カウンター越しに出迎えの言葉を掛けてくれたのは、運良くシーの首を抱いた藍色髪のヒーだった。
彼らは、使う身体は1つだけれど繋ぐ首は日によって違う。
抱かれた首は店主の腕の中で眠っていた。2人の店ではあるらしいが、主に目にするのはヒーの時だった。
「今日はシーだから、しーだよ。」
愛しげにシーの桃色髪を撫でる手を、人差し指を立て唇に当てながら警告する。冗談めいた口調で、光の無い目が笑った。
「ああ、分かってる。今日はこいつがまた気に入るものを欲しいんだとさ。」
「そう。沢山良いの、あるよ。手に取って、いいよ。でもね、そこの子の気に入るものは、まだ分からない時が多い。なんでかなぁ?」
ヒーは首を捻るが、どこか楽しそうだった。そして肝心の客は、店内を既に見て回っていた。
「気まぐれなんだよ。」
一言返した後、追いつくように友人の隣へ行き表情や見ている物を共に眺める。気まぐれ程度に商品説明が小さな紙に書かれ、添えられている。
「これ、天気がわかるガラスドームだって。今がいつで、どこにいるのか、何が必要かわかるのは良いね。」
きらきらと赤い小さな花弁が、ガラスの中の小さな世界で舞っていた。占いめいたそれは、彼が確かに気に入りそうだと思った。
「出歩く時の相棒になるな。」
「そうだね。これは凄く頼りになりそうだし、飾るだけでもきっと綺麗だ。」
そうして友人は、自分の瓦礫の“宝箱”に詰める雑貨を選んで行った。
......
「また、いつでもおいでね。シーはいつでも待ってるよ。」
手を緩くひらひらと振る店主の言葉に、お前は待っていないのか、という感想を抱きながら店を後にした。友人はやや上機嫌に手を軽く振り返す。
「今日はヒーで良かったな。ある程度会話が出来る。」
「そうだなぁ…だけど、どっちでもいいよ。僕らはシーを知らなさすぎる。」
お気に入りが詰まった紙袋を抱えて、友人は首を軽く傾げながら答えた。
そして空を見上げた時、彼の瞳に桜色の花弁が溶けて、一瞬紫に染まった後に消えた。
「予報通りだね。」
瞬きをする内に戻った瞳の色を眺めながら、俺も小さく笑い返した。
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