ある、理想の国
白里歩
第1話 ある国
青白く光る草を踏み、歩く度に鳴る音。
空の色は薄い紫。
どうやら今日は、花弁が降るらしい。
____
俺は大きな丘の上で、腰を下ろしていた。傍らには崩れた瓦礫にツタが巻き付いた飾り窓。
きっと、かつて誰かが築いた家の残骸。そこに友人は住んでいる。
今日の空は青く、赤い花弁が時折降っては芝生に溶けて所々が薄く紫になっていた。
「見慣れた景色でも、飽きはしないね。」
座っていた俺の視線を辿って、待ち人は声を掛けてきた。
「そりゃあ、もし飽きた所で天気の事なんて左右出来ないしな。」
「どうかな。みんな根本的に、色遊びが好きなんじゃないかな。君だって、混ざるのも変わらないのも好きだろう。」
遊びというのは、そういう着眼点からだと友人は続けた。
「それよりどうだい、ここは僕の新しい住処だ。お茶くらいは出せるようにしたのに、君はノックもしてくれない。気に入らなかったかな。」
「いいや、ノックが出来る扉がなかったんだ。」
「扉はあるだろう?」
「立て掛けた板を叩いて、“まだ途中だ”って機嫌を損ねたくなかっただけさ。」
彼は俺の返答に小さく笑った。
「生憎、まだしっくりくる材料がなくてね。でも、板を倒したって別に良いんだ。ここは僕の出来たての住処なんだから。」
しゃらしゃらとブーツで草を踏みながら、彼は小さな荷物を背に片手を差し出してきた。その手を掴み、俺は一緒に笑いながら立ち上がる。
「なら、今日は秘密基地巡りの前に雑貨屋に行くか。ヒーとシーの所なら、運が良ければピッタリのものがある。」
「そうだね。彼らの所は寄るだけで得をする。」
「部屋をじゃらじゃら飾り立てたい気分か?引っ越しをザラにする癖に、そういう所は変えないんだな。」
「全部が、僕の大事な場所と印を付ける為だよ。僕が気に入った以上は、その場所に対して気持ちを残しておくんだ。お気に入りの場所に、お気に入りの物を詰め込めば、そこはもう宝物庫みたいな場所なんだ。」
たわいのない話を交わしながら、2人で丘を下っていく。
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