第12話 VS超常テロその2

 「通報を受けてきたんだ。今世の中がやばいことになっててな、そこらじゅうで超常テロが起きてる。警察に引き渡したらさっさと行かないとならない」

 「なんですって!? あっ本当だ、臨時ニュースになってる!」

 自分のスマホを覗くと、たしかに臨時ニュースで色んなとこでテロが起きていることが告げられていた。その中の一つに今この場所も書かれている。

 「すみませんそこの先生、この子警察に突き出しておいてください」

 「分かった。迅速な仕事、感謝する」

 教頭先生は相変わらずの仁王立ちで警固に頭を下げる。警固さんは忙しそうにそそくさとこの学校から離れて行った。もう少し話したかったが仕方ない。

 「……どうしてこんなことをしたんだろう?」

 私はそう呟きながら、気絶した矢島先輩に糸を伸ばし目を閉じると、彼の由縁を手繰った。所詮さっき戦っただけの関わりだ。大したものは見れない。それでも彼がこうなった理由ぐらいは見ることができるはずだ。

 彼の過去が少しずつ頭の中に入ってくる。彼は留年した高校1年生。去年、部活でのいじめによる不登校が原因で留年したようだ。高校生にもなってよくやるものだと思うが、あったのは事実のようだ。

 そして彼をこの凶行に至らせた人物もまた見えてきた。黄色のレインコートを着た、謎の少女。彼女が去年12月ごろに彼を勧誘したようだ。

 「……分かったのはこれぐらいか。収穫としては十分かな」

 私は目を開けて糸を消す。その横では教頭先生が私を睨んでいた。

 「こら! 許可なく勝手なことするな!」

 「すみません、どうしても確認しておきたくて」

 「起きてまた暴れ出したらどうするんだ!」

 「はい、申し訳ありませんでした!」

 私は先生に頭を下げる。我ながら自分勝手だったが、私の力は鮮度が命だ。ここまで関わりの薄い相手は関わった瞬間でなければ縁を見ることすらままならなかっただろう。

 それから私は教頭先生に連れられて教室へと戻った。先生曰く、桃ちゃんや被害者の人達は、念のためにこのまま病院で診てもらうことになるらしい。

 矢島先輩。彼の過去は少し見ただけで悲惨さが伝わったが、私にとってそれは憐れむべきもの以外の意味を持たない。罪を決めるのは裁判官の仕事だ、私がどうこう言うものではない。

 「ひとまずレインコートの女のことは後で塩崎さん達に報告しておこう」

 私が戻った時、クラスは騒然としていた。内容はもちろん私と矢島先輩のことで、私は色んなことを色んな人に聞かれた。幸い担任の先生が止めてくれたので、質問攻めで潰れることは避けられた。もっとも、また今度山ほど色々聞かれるのだろうが。

 担任の先生は「後のことはメールで配信するので、今日は解散します」とクラスに告げ、保護者が迎えに来れる人は迎えに来させ、残った生徒は強制的に下校させていた。

 「出雲さん、校長室に来てくれるかな?」

 「……分かりました」

 担任の先生は私以外のクラスメイトがいなくなったことを確認すると、そう言って私を校長室まで連れて行った。

 「出雲朱里さん、だったかな。今回の君の行動、自分ではどのように考えているのかな?」

 校長室には校長先生と、何人かの先生が立っていた。私は校長先生に促され、高そうな黒のソファに座っていた。

 「独断専行であり、あまり良いものではなかったと捉えています。ですが同時に誰かに指示を仰いでいる余裕もなかった、というのが私の見解です」

 「なるほど、正直我々教師陣も大体同じ意見だ。今回は上手く行ったからいいが、失敗すれば君の命も危なかった。なるべく我々に相談するなり頼るようにしてほしい」

 「分かりました……反省します」

 お咎めがないだけよかった、と考えるべきだろう。私が介入することで状況が悪化する可能性はあったのは事実である。

 「いやちょっと待った! あかりんのこと、少しは褒めても良いでしょ!?」

 「桃ちゃん……なんでここに?」

 桃ちゃんが校長室に突入していた。彼女は病院に搬送されたはずではなかったのか。

 「ごねて病院を後回しにしてもらったんだよ。まだ満足にあかりんにお礼言えてないもん」

 「お礼なんて後でいいのに。でも嬉しいよ」

 多分、それだけじゃない。彼女は私がこうして校長室にいることを見越してここに来ている。

 そうでもなければ、保健室から私達の教室へのルートにない校長室に現れるわけがないからだ。

 「僕個人としてはお礼を言いたいのは山々なんだけどね。学校側としてはあまりそうはいかないんだよ」

 「そんなの知ってるよ、でもヤジマとかって人、明らかに上級生だよね。あいつの暴走を止められず、入学式に侵入を許したのは学校側の不手際っしょ。その始末をあかりんに押し付けて、助けてくれた張本人をこんな狭い部屋で複数人で囲むなんておかしくない!?」

 桃ちゃんは続けて捲し立てる。

 「大体指示を仰げって、指示聞いて何になったのさ! あんたら避難誘導はしてたけどさ、誰もあのヤジマって人止められなかったじゃん!」

 「刺股のある場所は封鎖されてたし、下手に彼を刺激するわけにはいかなかったんだよ」

 「教頭先生思いっきり刺激してたけど!? それにその発言は結局あかりん以外にはどうにもできなかったって、自分で認めるようなものじゃない!」

 桃ちゃんは肩で息をして、腕を震わせながらその場に座り込む。

 校長先生は根負けした様子で、私達に頭を下げた。

 「……君の言う通りだね。君達生徒に怖い思いをさせてしまって、本当に申し訳なく思う。そして出雲さん、皆の命を救ってくれてありがとう」

 「こちらこそありがとうございました。先生方の避難誘導のおかげで動きやすかったです」

 「それじゃ今日はゆっくり休んで。ごめんね、余計な時間取らせて」

 「分かりました、失礼します」

 私達は一礼をすると、校長室を後にした。

 「あかりんごめん、でしゃばった!」

 「そんなとんでもない、とっても嬉しかったし格好良かったよ。先生方を前にああも啖呵を切るとはね」

 あそこまでしっかり言ってくれる人は中々いないし、私にはできない。そもそも私は、あの境遇に割と納得してしまっていた。

 「だっておかしいもん! あかりんが助けてくれなかったらうちら皆殺しにされてたかもしれないんだよ!? なのにまあよくぬけぬけと……あかりんもあれは文句言わなきゃダメ!」

 桃ちゃんは怒った顔で私に詰め寄る。なんだか私が怒られている気分だ。

 「言われてみればって感じだったんだよね。なんか仕方ないかなーって思ってた。まあ事実上私も指示に従わずに動いたのは事実だからさ、先生方も間違ってないし、教師として怒ってくれたんだと思うよ」

 「うーん、まああかりんが納得してるならいっか」

 私達が校舎内を歩いていると、見覚えのある少年がひどく慌てた様子でこちらに向かって走ってきた。

 「出雲! よかった、無事だったんだな!」

 「日比谷君! わざわざ来てくれたの!?」

 「悪いが雑談をしてる場合じゃねえんだ! 汐崎さんから連絡があってな、俺達の身が危ないんだ!」

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