第10話 ヒョウサクダンジョン攻略2
2076年9月 フレーバー王国レイテンの町
冒険者ギルドの丸テーブルにハーレイはダンジョンに関する文と図が書かれた紙を広げる。
「まず今回、攻略に参加してくれるフォールとジャバウォックに現段階で俺たちが掴んでいるヒョウサクダンジョンの情報を共有する。」
「そりゃありがたいが、大丈夫なのか?」
いかに安全に攻略できるかは最前線で得られる情報にかかっていると言っても過言ではない。
ワンダーランドとしてダンジョン攻略もしてきたジャバウォックは、それを他者に教えるというハーレイの懐の深さに驚いた。
「まぁ普通なら言わないし、そもそも誘わない。だがジャバさんとフォールだからな。お前らこの情報手に入れても悪用したりしねぇだろ?」
「当たり前だ。」
「………もちろんさ〜」
即答してくれたジャバウォックと真逆に謎の空白があったフォールにハーレイのクランメンバーから白い目を向けられる。
それもハーレイはいつもの悪ノリだと理解しているため放っておく。
「………とにかく話を続けるぞ。ヒョウサクダンジョンの浅層と中層は問題ないか?」
「問題ない。浅層も中層も常に吹雪が吹いて、凍てつく寒さの中で攻略しなきゃならない。出てくる魔物は奇襲を得意しているのが多いはずだったよな?」
「あぁ。だが下層からは大きく異なる。下層からはホワイトアウトで視界が確保できない。その上氷竜が出現するようになる。」
「なっ…!?過酷すぎないか?流石に視界が確保できない中で戦闘は厳しいぞ?」
「俺は問題けどね〜………ジャバちゃん、結構弱い?」
「きさッ……!!はぁ………貴様と比べたら弱いだろうよ。」
「お前らなぁ………話は最後まで聞いてくれ。視界は俺達のクランで開発したアイテムで確保できる。」
じゃれ合うフォールとジャバウォックに苦笑いを浮かべつつ、ハーレイはテーブルに1つのアイテムを置いた。
「なんだ、これは?」
「…………魔力の可視化か?」
「そうだ。よく分かったな。雪で魔物の姿を捉えられないなら魔力で捉えればいい。ってことでこれは魔力を可視化できるゴーグルだ。」
「前に似たようなのを見たことある。」
「え……?もうあるの?」
「知らん。」
「フォール、お前ヒョウサクダンジョンより冷てぇよ。」
実際のところはフォール自身が魔力の流れや動きを可視化して見ることができているためわかったのだが、面白がっているフォールが喋ることはないだろう。
「んで?このアイテムを使うってだけなのか?」
「いや、これはあくまで魔物の奇襲を防ぐための物だ。地形の把握とかが1番の問題でな。」
「足元やばそうだもんな。」
「あぁ、そこで竜騎士のジャバウォックさんの出番ってわけ。」
「………ちょっと待て。もしかして俺、そのためだけに呼ばれたのか?」
「うん。」
「おいッ!………はぁ、とは言っても俺が操るのは飛竜、ワイバーンだ。ヒョウサクの寒さに耐えれるか分かんねえぞ?それにどっちみち視界が厳しい。」
「…………寒さに関しては俺達でなんとかする。だが視界のほうは大丈夫だろ?お前なら………」
「なんとかしろってか?しかもこの感じじゃ全員を乗せて移動だろ?無茶苦茶言うな。」
「出来ねぇ奴には頼まねぇぞ。」
「…………分かった。」
ハーレイのなんとも照れくさいセリフにジャバウォックは折れた。隣ではフォールがニヤニヤしながら見てきているが無視である。
それにしても、とジャバウォックはハーレイのクランメンバーを見る。
どうやらちゃんと事前に話は通っていたようでジャバウォックのことを期待するような視線で見ている。
どこぞの吸血鬼とは大違いだ。だがソイツにはそれが許されるだけの力がある。だから呼ばれているのだろう。
おそらくフォールは対氷竜戦のために呼ばれている。氷竜と戦うとなれば確実に脱落者が出てしまう。が、フォールがいるなら脱落者を確実に減らせる。オールレンジに対応可能な上に、どんな戦況でもひっくり返せる土壇場の適応能力にも優れている。
「さて………ヒョウサクダンジョンに出発……の前に俺達の目的を話そう。」
「そういえば聞いてなかったな。」
「俺達は下層から出てくる新たな鉱石の採取と氷竜の素材が目的だ。鉱石だけなら俺達でも問題ないんだが、氷竜もってなるとかなり厳しくてな。フォールにそこら辺は期待してる!」
「だから期待重いって………」
なんて清々しい笑顔なのだろうか。
ハーレイはその実力に注目されがちだが、クランメンバーは実力だけでなくカリスマや人柄に惹かれて加入した者が多い。
だからこそフォールも今回のヒョウサクダンジョン攻略に加わったのだろう。
「それじゃあ………行こうかっ!!」
ハーレイは元気よく声をかけた。
心做しか場の面々が1つになったような気がする。
――――――――――
ヒョウサクダンジョン 下層
まるで何も描かれていないキャンバスのように真っ白な世界がそこに広がっている。
その世界の主は新たな挑戦者の気配を感じ取っていた。
EPOにおいてダンジョンとは神からの試練。
ゆえに上層の魔物は弱く得られる素材もよくはない。だが下の層へと進むにつれ魔物は強力に、素材は高級になっていく。
そして最奥には試練の番人、守護者とも言えるボスが存在している。
もしボスを倒すことが出来たならその者は試練をくぐり抜けた証を手に入れられる。
その証は武器であったり滅多にない素材であったり、はたまた特性であったりなどなど多種多様なのだ。
だからこそボスは強い。既に攻略されているダンジョンであってもボスを討伐できる者は限られている。情報があってもそれに見合った実力がなければ命を落としてしまう。
そしてここ、ヒョウサクダンジョンのボスは未だに確認されていない。
今のところ氷竜がボスと思われているが、実際のところはただのモブだ。
「…………我の役目とはいえ、神も残酷なことをしなさる………」
ヒョウサクダンジョンの主は流暢な言葉を話している。中身は魔物だというのに。
それにしても主の言葉の意味はなんだろうか。
主に与えられた役目とは?神との関係は?
主は挑戦者が来るのを静かにただ待つのみだ。それが唯一許された行いなのだから。
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