第4話 改めて自己紹介
2076年8月 オルトロス商業国ニューウェン
闘技場から彼女の拠点へ戻った俺達はテーブルを挟んで向かい合っていた。
「文句なしってぐらいに成長してたね……」
「……ありがとうございます。」
「ところで……君は俺についてどこまで知ってるかな?」
「秋さんについて………ですか?」
「うん。秋という名前がEPOでの本当の名前ではないというのは察してるだろう?」
「………えっ?」
「………えっ?」
場に沈黙が漂ってしまった。
こうゆう時は話題を変えた方がいい。じゃないとどっちも幸せにならないんだ。
「俺の本当の種族は人類側の種族じゃないことも察してるだろう?」
「………えっ?」
「………えっ?」
えっ?
「…………気づいてなかったの?」
「え?あ、はい。………全部嘘だったってこと?」
そんなメンヘラみたいな発言止めてくれ。
やっぱり彼女はそうゆう素質あると思う。昔のことを思い出す。
「……まぁとにかく改めて自己紹介しよう。俺はフォール。吸血鬼だ。こんなでも血の魔王だのなんだの言われてるPKだな。」
「……なっ!あなたが……!?血の魔王って………プレイヤー最強の一角じゃない!?」
「うん。………らしいね。」
「………らしいって……興味ないの?」
「まぁね。あんまり他人に興味無いんだよ。だから君の名前も覚えてない。」
「ならなんで………ん?」
「………ん?」
この沈黙3回目だな。
なんか変なこと言ったか?って言いたいけど、私ショックですみたいな顔してる彼女に言えそうにない。
「はぁ……そうでした。あなたは変態鬼畜クソ野郎でしたね。私も忘れてました。」
「辛辣だね。」
「自分の胸に手を当ててください?………それじゃあ改めて自己紹介します。」
「うん。よろしくー」
「相変わらず適当な………私の名前は春です。ちゃんと覚えてください。」
「はいよー」
「大丈夫かな……?それと種族は高位普人族です。進化したのは最近ですけどね。」
もう進化してたのか。通りで………
まぁ、戦闘能力は半神クラス相手でも通用しそうだけどね。
しかしようやく覚えたよ彼女の名前。春かー。
ほらそこの君!そんな簡単も忘れてたの?みたいな顔をするな!俺の鳥頭を舐めるな!
あ、そういえば春ちゃんってソロだったよね?
「なるほど………パーティーとかは?新しいとこ見つけた?」
「あー………実はあれ以来ずっとソロでやってます。」
「ほぉー……すごいね。冒険者活動も順調って感じ?」
「いやぁ、その………」
「ん?」
なんでそんな歯切れが悪いんだ?
冒険者ギルド辞めて別のとこに所属してるとかかな。
でも他のギルドって何かあるっけ?
知ってるのは生産ギルド、商業ギルド、研究者ギルド、後は暗殺者ギルド。他にもあったような気はするけどパッと浮かぶのはそれぐらい。
ってことは暗殺者ギルドか。歯切れが悪くなるのなんてそれぐらいよな。
「ふーん………暗殺者ギルドに所属してんの?」
「!?……な、なんで分かったんです?」
「歯切れが悪くなるのなんてそこぐらいじゃない?」
「たしかに………」
「………PKとかするの?」
「え、まぁ、はい。」
「ふふっ、楽しい?」
「えっと………たの、しい…です。」
「そりゃよかった。PK仲間が増えるのは喜ばしいよ。」
まさか彼女も同類だったとは。ルート的には♱堕天♱と同じ感じかな?
普人族だったけどジェノサイドしすぎて卑神よりになる。たぶんだけどどれだけ罪を重ねたかとかで進化にも影響されるんだと思う。人魔がいい例だよ。
今後が楽しみだね。
「………咎めたりとかしないんですね。」
「そんな言える立場じゃないし、俺のほうがやってることやばいでしょ?」
なんか寂しそうな顔で春ちゃんが呟いてたので至極真っ当な事を言っておいた。どう考えてもEPOでの殺人歴は俺のほうが長いし、都市襲撃とかやってるんだ、暗殺者ギルドに所属してPKするぐらいなんだって言う話よ。
すると彼女はポカンとした顔になったと思ったら、急に笑い出した。
「…………ふふふっ、それもそうですね。」
「そーそー。ゲームなんだし楽しまないと。………そうやって笑ってる方が似合ってるよ。」
「……ッ!あ、ありがとう、ございます………」
春ちゃんは一瞬驚いた表情を見せたがすぐに顔を赤くしてしまった。照れてんのかね。
こんなお世辞みたいな言葉に反応してちゃお持ち帰りされちゃうぞ?リアルが心配だ。
「……照れてんのかー?」
「うっ……言わないでくださいよ……」
「ハハッ……悪い悪い、可愛かったからなぁ。」
俺のニヤニヤとした笑みに彼女はようやくからかわれていると気づいたらしい。初心だなぁ。
それに俺が可愛いと言ってから春ちゃん固まってる。なお耳が真っ赤だから純粋に照れている模様。
こんな純粋無垢な子初めてだよ?ホントに大丈夫?おいちゃん心配だわぁ。
俺はしばらく初心でかわいい春ちゃんで遊んだ。
初心すぎて逆に新鮮で面白かったと言っておこう。
――――――――――
「いやー、まさか君もこの紅茶を飲んでいるとは思わなかったよ。」
しばらく我弟子で遊んだ後にちょっとお茶でも飲もうとなったのだが、彼女の拠点にあった紅茶に見覚えしかなかった。
それは俺の屋敷でも出されていた遥か西から取り寄せられた高級紅茶。
どうやら彼女もそれを愛用しているらしい。
「それめちゃくちゃ美味しいんですよね。すぐにハマりましたもん。」
「分かるわー……うちのメイドが取り寄せてくれたから飲めたけどホント美味しいよなぁ。」
ホントにナタリアが取り寄せてくれなかったら俺飲もうってならなかったもん。つまりうちのメイドは神。異論は認めない。
「へぇー……血の魔王様はたくさんメイドを囲ってますもんねー」
「急にどうした。怖いよ……?」
いきなり表情から感情が抜け落ちるってやばいな。怖すぎるよ。
「別にー……フォールさんってモテますよね?」
その質問の意図はなんだ?
「そんなモテないけど?俺は普通の陰キャさー……ここではっちゃけてるだけで、ね?」
「嘘っだぁ!」
「ほんと、ほんと。彼女いないし引きこもりだし。」
「そんな棒読みなのに信憑性高そうなのなんです?」
「知らない。」
意味分からんわ。涙出そう。
今はEPOは恋人みたいなとこあるからいいけど、昔なら絶対キレてたな。
でも君も大概だよね?パーティー組めないし、メンヘラ気質だし、サイコ気味だし。
「ていうか春ちゃんはどうなの?彼氏とかいないの?」
「いるわけないじゃないですか。」
「えぇ……怖っ。そんな無表情で言わないでよ。」
ちなみに抑揚も一切なかったよ。
「やっぱ君もボッチ………いや、なんでもない。」
「……………」
あぁ、無になっちゃった。
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