第3話 弟子との戦闘
2076年8月 オルトロス商業国ニューウェン
久しぶりに再会した弟子に連れられ2人でニューウェンの町を歩く。
傍から見るとカップルに見えるかもしれないがそんな関係性じゃない。一応師弟関係ではあるがその期間も短い上に勝手に教えることを放棄したのだ。普通に恨まれててもおかしくない。なお自業自得。
相変わらず名前を思い出せない彼女に連れられたところは海沿いに建てられた一軒家だった。
景観を壊さない白の外装に赤レンガの屋根、ところどころに置かれた観葉生物はまるでアニメの中から切り抜かれたようだ。
「どうぞ、入ってください。」
「おぉ、綺麗な建物だね。お邪魔します。」
まるで自分の家のように遠慮なく入ってく彼女の後に続いて俺も入ってく。
だが中は店のような感じではなく、生活感のある普通に家のようだった。
「ここは……?」
「私の拠点です。あなたが私の下から去った後、がむしゃらに戦い続けてようやく手に入れた場所なんです。」
「…………」
絶句である。メンヘラ彼女のような発言に感じられるが念の為断言しておこう。俺達はそんな関係性ではない。………ないよね?
過去を特に覚えてない俺のことだ、その場のノリとかでそれっぽいことを言ってる可能性は否めない。
あといい店知ってるって言ってなかった?平気で嘘つくじゃん。俺と同類じゃねぇか。
それはともかく彼女は俺がいなくなってから頑張ったんだな。師匠の鼻も高いよ。なお名前覚えてない。
「頑張ったんだな。」
「えぇ………秋さんへの思いだけでここまで頑張りました。」
「…………」
怖っ。本格的にメンヘラ彼女みたいな発言をしてきやがった。
えっ?俺にそうゆう感情向けてたの?教えてた時全然そんな素振りなかったじゃん。
「………あなたは本当に自分勝手な人です。私をいきなり弟子にしたというのにたまにしか教えてくれませんでした。しかも突然なんの連絡もなく消息を絶ちましたし。………なのでこの後私のこれまでの成果を見てください。」
「あ、よかった………」
「…?何がですか?」
「いやなんでもない。」
思わず口から出ちゃったよ。あっち系じゃなかっただけ断然マシだな。
しかし今の彼女、出会った時より圧倒的に強い。立ち振る舞いでわかる。しかもEPOを初めた時期的にまだまだ発展途上。もしかしたら名前を覚える気になるかもな。
「よし……!今から見てやるよ。お前の実力を……どの程度まで成長したんだろうな?」
「フフッ……目にもの見せてあげますよ……!」
彼女も乗り気のようだし移動しよう。
場所はどこがいいだろうか?
「近くに小規模ですけど闘技場があります。そこでやりましょう。」
「お、いいね〜……じゃあ早速行こうか。」
――――――――――
ニューウェンの町から少し離れた小高い丘に闘技場はあった。
野ざらしにされた円形でかろうじて観客が数百人入るかどうかといった感じだ。
そこまで広くはないが2人で戦うのならば問題はない。
「それじゃ始めよっか。」
「………お願いします。」
彼女は刀を抜き下段に構えた。体勢は自然で余計な力が入っていない。その姿はまるで自分を見ているかのようだった。
なにせ今の俺も剣を下段に構えて自然な体勢で立っているからだ。
「………シッ!」
彼女は力を抜いたままに倒れ、飛び出した。力を入れていないのにその加速は鮮やかなもので一瞬にして距離を詰めてきた。
そのまま鞭のような靭やかさで俺の首目掛けて刀を振るった。
”ガギンッ!!”
「………やはり止められますか。」
「さすがに見えてるからね。」
彼女は俺に剣を止められたことに対して驚いてはいなかった。
当然ながら俺にはその剣筋はしっかり見えている。だが今のはどちらかと言えば彼女が見せた、と言う方が正しいだろう。
だから今度は俺の方から攻撃してみよう。
「……フッ!」
”ギンッ!ギンッ!ギャッ!!”
俺の3連撃も完璧に受け流された。彼女の刀の扱い方も見事なものだ。
受け流しの時も彼女は力で押し流されないように体幹に力を入れていたし、剣の流れをしっかり見ていた。
以前俺に教わったとはいえここまで実戦に落とし込むことが出来ているとは………
やはり彼女は天才だな。
「うん………よく防いだね。完璧な受け流しだったよ。」
「えぇ……あなたの教えは全て習得しましたから。」
「そっか……それじゃあそろそろ…………本気でやろうか。」
「……ッ!分かりました。」
俺が彼女にこれから本気で行くぞと圧をかけると彼女は猛獣の如く笑った。戦闘狂かな?
まぁ同類だったってことだね。俺も頬を釣り上げ獰猛な笑みを浮かべた。
そしてなんの合図もなかったが俺達は同時に斬りかかった。
”ギャギャギャギャギャギャン!!!!”
「チッ……!思ってたより速いな…!」
「これ…全部防がれるんですか!?」
一瞬の攻防の中で10を超える斬撃が放たれた。攻めていたのは彼女。俺はそれに合わせて攻撃を反らした。反撃をしてもよかったが彼女の適切な間合い管理と次の攻撃へのテンポの速さがそれをさせなかった。
想像以上に成長している。彼女の今の実力は高レベルのプレイヤーと比べても遜色ない。手を抜いているとはいえ俺を防戦一方にさせるのは並のことではないからだ。
とはいえやられっぱなしは師匠として立つ瀬がない。
「……手本を、見せるとしようか。」
「………?」
そう、俺は師匠なのだ。彼女に手本を見せなければ。
俺は剣を下段から中段に構えを変えた。
それからすぐに最初の一歩を踏み出して間合いを潰した。
当然彼女もそれがわかっているため後ろに距離を取ろうとする。
「クッ……!」
だがこれだけで彼女は動きが制限されるのだ。間合いが潰されるというのは、剣を振るう時に隙を晒してしまうし視界も狭まるということ。
だから後ろに下がる前に刺突を繰り出す。これによって彼女はただ防御することしかできない。
”ギンッ!”
もちろん彼女はこれを防ぐ。
だがそうすると彼女の視界では右下は自らの手と剣で見えなくなっていることだろう。
だから俺はぶつかり合っている剣を左下へずらして下段から斬り上げる。
”ザンッ!”
「ぐぁッ……!!」
「……やっと一撃、だね。」
これはさすがに防げなかったようで血のエフェクトが飛び散る脇腹を押さえている。
彼女も抵抗しようとしたができることは限られていた。まぁ彼女の場合は後ろに跳んで斬り込みを浅くしていたのだが。
しかしこのような状況であれば勝負はついたも同然。
「どうする?まだ、続ける?」
「………いえ。終わりにしましょう。」
「うん。君の成長も見れてよかったよ。」
「……ッ!よか、った……」
よかったと言う彼女はなんだか切ないようなしおらしいような。
ま、師匠として格好いいところは見せれたからよしとしよう。
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