第13話 大司教殺害事件6(黒歴史)

2076年5月 コルネリア帝国首都バーベル 大聖堂


 俺、フォールが大聖堂に入った時には既に帝国の騎士たちは全滅していた。さすがに仕事が早いな。

 さてパンドラの予想では帝国に在中している聖騎士団を呼び寄せて守りを固めるって感じだったはず。たしか配置も予測してて歴代最強クラスなんて言われてる聖騎士団長サマは聖謐の剣のところ、他の部隊がその通り道に繋がる4つの広間を守護してる……はず。


 んでパンドラは単独で聖謐の剣のところに行ってる。

 俺達はその守護してる部隊の気を引いておけばいい簡単なお仕事。

 配下たちも邪魔が入らないように大聖堂に入ってきたヤツをぶち殺す簡単なお仕事。

 全部簡単やな。


 そんなわけで俺の担当する場所に着いた。こうゆうのは雰囲気が結構大事なのよ。それだけで勝手に勘違いしてくれたり、重圧を感じたりしてくれるから。

 だから俺はコツコツと靴を鳴らしながら優雅に現れた。


 そこにいたのはThe女騎士って感じの子とその他共である。

 EPOではあまり珍しくないけど緑髪で三つ編みをアレンジしているっぽい髪型だ。 結構顔もいいしリーダー格っぽいから強いはず。おまけに現地人だから眷属に出来る。

 最高かよ。


「フフッ……君たちが俺の相手かな?」


 出来るだけな柔和な笑みを浮かべながら場の雰囲気を高める。いくら見た目が優男で紳士的な人間でも君たちは油断してしまうのか?

 んなこたぁない。だって君たちは魔王の存在を許さないのだから。


「貴様は………『血の魔王』だな?………聖神教会コルネリア帝国支部聖騎士団副団長アリエルが貴様を討ち取る……ッ!」

「ククッ……君に出来るのかな?」


 副団長だったのか。通りで雰囲気がある。それに俺の挑発的なセリフも映えるし、最高かよ(2回目)


 戦いの始まりは敵さんの魔法からだった。ただしそれは攻撃でもバフ、デバフでもなかった。


「総員……ッ!連環障壁ッ!!」

「「「ハッ!」」」


 それは不思議な魔法だった。聖騎士全員の魔力がアリエルを中心に纏まったかと思うと、分配されるように魔力障壁が聖騎士たちを覆った。

 ………これはちょっと面倒くさそうだな。


「ま、それはそれでいっか………」


 俺に対して陣形を組む聖騎士たちも見て俺は頬を吊り上げ笑いながら剣を鞘から抜いた。


「ククッ……行くぞ…?」

”ギャッキン!!”

「ぬおッ!?」


 俺は取り敢えず目の前の聖騎士に様子見の一撃を放った。

 まず最初に例の魔力障壁について探らないと面倒なことこの上ないからだ。

 ただその一撃は様子見とは言え力任せの大雑把なもの。要は強度が測れればいい。

 結果、奴らは一切の無傷。つまり俺は障壁を破れなかった。


「フンッ……無駄だ。貴様にこの障壁は破れん。さっさと諦めろ。」


 どうやら様子見の一撃を耐えた程度で俺の剣を受け止めた聖騎士は勝ちを確信したらしい。

 とはいえ実際のところ障壁の性質はかなり面倒だ。時間はかかるかもなと思いながら俺は剣を持ち直す。


「フハッ…!馬鹿かお前?大体の性質は分かった。どうやら俺のことをなんにも知らねぇらしいな?」


 今度はちゃんとした剣技を見せる。まともに戦うなんて久しぶりなんだ。すぐに終わらないでくれよ?


 俺は愛剣に魔力を流しながら霧化を行う。

 この霧化というのは吸血鬼の代表的な能力で詳しいことは知らんけど魔力で出来てる肉体を微分子レベルで体積を広げて魔力の操作で何とかするみたいな。よく分からんしなんとなくでも出来てるし便利だからいいよね。

 そんなわけで俺は聖騎士たちの背後に現れて斬りつける。奴らが衝撃でバランスを崩したらすぐに霧化。死角から攻撃する。

 とにかく俺は一方的に攻撃し続ける。霧化をしてる時は風魔法とかで吹き飛ばされると不味いけど、俺は霧化状態を短い時間だけ使用することで防いでいる。今は密集してるから死角が取れればそれでいい。


 そうやって何回も斬りつけるけど奴らは無傷のまま立ち上がる。聖騎士たちの顔なんてニチャっててキモいしな。

 まぁでもそろそろ終いかな。


「はぁ……まったく寝坊助で困る。」

”ドクンッ…ドクンッ…ドクンッ…”


 この空間に何かの心音が聞こえ始める。

 それと同時に俺の持っている骨龍ノ大剣に黒い靄がかかり始める。


「な、なんだ……!?その剣は……!?」


 アリエルさんもびっくりしてるじゃん。聖騎士たちの視線を集める俺の愛剣、骨龍ノ大剣はスケルトンドラゴンの死骸から作られたものだ。それを最高峰の技術を持つ什造によって鍛えられ、俺と共に戦い血を吸っていくうちにその剣は生を宿した。

 俺の魔力を吸うことで本来の力が目覚める。骨龍ノ大剣の真価はその斬れ味でも頑丈さでもない。斬った相手の魔力の吸収と操作の妨害。

 つまりこれから奴らはこの剣を避け続けなければならない。なぜなら斬られた時点で障壁は維持できない上に魔力がみるみる減っていくからだ。

 それは聖騎士たちにとって負けを意味する。この霧化と剣技を組み合わせた戦いについていけてない時点でお察しだろう?


「さて……君たちの血はぁ………どんな味なんだぁぁ!??」


 ハイになったように斬りかかる俺の斬撃を機能を失った障壁が防げるはずもなく、ニチャってた雑魚共の首を刈っていく。

 噴水のように血を溢れさせる聖騎士たちは生きてた時よりも綺麗だった。


「フフッ……血は、不味いな…やっぱり若い女か?」


 血の噴水を頭からかぶった俺はぺろりと舌舐めずりし、感想を言う。控えめに言って不味い。脂クセェ。イメージはなんだろう?不摂生の味がする。これで若い女の子だったらヘルシーで健康的、めちゃおいしいってなるのに。

 あ、でもこの場に1人だけいるな。副団長のアリエルさん♪


 そんな俺の視線と言葉に身震いをするアリエルは全滅した聖騎士たちの死体から目線を切って俺に剣を向けた。


「ふぅ……!ふぅ……!貴様、よくも……!」

「へぇ?まだ喋る元気はあるんだ?」

「クッ…!貴様ぁ!!」

”ギンッ…!キンッ……!”


 彼女は俺に斬りかかるけど、精神的にブレブレの剣が届くわけがない。


「君の本来の実力ならもうちょっとマシだと思うんだけどなぁ?」

”ガンッ…!”

「ウグッ……!」


 俺の一撃はアリエルの華奢な体を弾き飛ばす。痛みで蹲る彼女にゆっくり歩いて近づく。


「さて……抵抗する気は失せたかな?」

「……まだ、だ…!」

「ふーん……」


 俺は剣を鞘にしまい剣を杖代わりに立ち上がったアリエルの腹にボディブローを一発いれる。


”ドスッ!”

「グハァッ……!ウゥ……」


 アリエルの口から空気が漏れお腹を抑える。それでも俺は容赦なく頭を足で押さえつける。


”グリグリッ…!”

「アアアァァァア!!!」


 骨がミシミシと嫌な音を立てている。彼女の叫びを聞いてようやく足を退かした。

 そして脇腹目掛けてつま先で蹴りを入れる。


”バキッ!”

「アガッ…!ぐはッ……!はぁ……はぁ……」


 それでも彼女の目はまだ死んでいなかった。まだ諦めていない。そんな表情をしていたのだ。


「君……結構いいね。何が君をそんなに支えてるんだろうか?」


 聖騎士らしく神様とか?それとも絶対の信頼を置いている聖騎士団長だろうか?それとも……


「ま、いいか。そんなどうでもいいことなんて。」


 そう言って俺は彼女の首筋辺りを服から出し、恍惚な笑みを浮かべながら思いっきり噛みついた。


「あ……ッ!んぅ……うぁ…」


 チュウチュウ血を吸い上げる度に艶めかしい嬌声を上げる彼女のことはガン無視して極上の血を味わう。

 しっかり鍛えられたことで脂肪分が少なくさっぱりしている。それでいて旨味はしっかり残っているのだ。例えるならばささみのようなヘルシーさ。だが味はフルーティーでくどくない。

 うん、やっぱり彼女も眷属にしよう。俺が眷属にしてるヤツは皆血が美味いからな。皆味わいは違うのだがそれも個性があって最高なのだ。


 俺に血を吸われポーっとしているアリエルの口を開かせる。そして俺は小さな刃物を取り出し手首を切った。

 ポタポタと血が垂れ始めているが、その血を彼女の口に注ぐ。すると彼女に俺の魔力が広がり、それに反応して発熱し始めた。具合悪そうにぐったりしている。

 これで眷属にする儀式は完了。後は吸血鬼に変化するのを待つだけだが彼女はメイドたちに任せよう。ちなみにプレイヤーの場合は相手の同意がないと眷属にできないはず。たしか創世神の加護がどうとかこうとか。よく分からん。

 新たな眷属となるアリエルをお姫様抱っこで抱えると、自分のメイドたちがいるはずのところへ歩き始めた。


 俺の仕事は終わったし帰ってもいいかな?なんて思ってるけどパンドラからの合図があるまではのんびりしとこう。

 顔を紅潮させてぐったりしているアリエルの顔を眺めながら俺はそんな適当な思考をしているのだった。

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