第12話 大司教殺害事件5(黒歴史)

2076年5月 コルネリア帝国首都バーベル


 部屋から出た魔王達の姿を確認するとその場にいた者たちは皆跪いた。

 今でこそ主として崇めているが元々は魔王らが力で屈服させ支配したことから始まっている。ここにいる者たちに魔王の実力を疑う者などいない。それと同時に機嫌を損ねたらどうなるのか、理解していない者もいない。


「行くぞ………皆の活躍を期待している。」


 今回の首謀者パンドラが魔王を代表して配下たちに号令した。

 それに応じて静かに立ち上がりまるで影のように消えていった。

 それぞれの役割は理解している。彼らはあくまで脇役。舞台を整える装置だ。

 主役は遅れてやってくる。そうだろう?


 それからしばらく5人で雑談をしていた。

 内容は今回の計画についてだったり終わった後のことだったり………とにかく色々話していた。

 そしてついに計画の時がやってくる。


「私たちも移動しよう。………武運を祈る。」


 パンドラはそう言って天井を突き破った。


「次に会う時は酒だな。」


 キングはそう言って扉を開けた。


「ひ、ひひ……そ、それじゃあ、ぼ、僕も行って、く、く、来るよ。ひひ、ひひひ。」


 グリムは不気味に笑いながらパンドラの開けた天井目掛けて宙に浮いた。


「まー、私たちに失敗ないだろうけど、一応……ね?武運を祈る。………じゃあねー」


 ♱堕天♱は少し恥ずかしい気に扉を破壊していった。


「皆意外といいヤツなのかね……?」


 そして俺、フォールは最後のワインを飲み干して霧のように消えた。


――――――――――

首都バーベル 聖神教大聖堂


 少し前からコルネリア帝国首都バーベルにあるこの大聖堂は慌ただしくなっていた。

 というのもある筋からの情報でここの大聖堂に密かに保管されている聖神の神器『聖謐の剣』を強奪する動きがあることが判明されたからだ。

 どうやら強奪を企てているのは渡界人の魔王達らしく、ついに今日強奪計画を実行に移すとのこと。


 しかし聖神教会側も何の対策を行っていないというわけではない。

 狙われているモノがモノだけに大々的な行動は起こせないが教会の誇る最大戦力、聖騎士団が神器の守護に来てくれた。

 聖騎士団は一人一人が正義の心を持つ世界有数の強者というだけでなく騎士団内での競争よって高い質と連携の完成度を誇っている。中でも帝国に在中している聖騎士団は対魔物戦最強とまで言わしめ、大陸に存在する聖騎士団の中でも上位に入る強さを持つ。


 ただ相手があの悪名高い魔王らが本当に来た場合聖騎士団で足りるのか?という懸念が少しではあるが存在している。

 そろそろ自身の頭部が寂しくなり始めてきているバーベルの大聖堂を管理しているグウェル大司教は自身の不安が杞憂で終わることを祈りながら、応援に来てくれた聖騎士団の団長の下に往く。


「お久しぶりです。ノースマン団長。本日はこちらの応援に来てくださり誠にありがとうございます。」

「いえいえ、こちらこそお久しぶりです。グウェル様。」

「………魔王共の襲撃は防げそうですかな?」

「魔王がどれほどの強者であっても我らが必ず守り抜きましょう……!部下たちは既に配置に付かせています。我らも神器の下へ向かいましょう。」

「なんとも心強い…!えぇ、奴らの悔やむ顔が早く見たいですな。」


 聖神教会コルネリア帝国支部聖騎士団団長のノースマンはその甘いフェイスを自身の強さで輝かせながらグウェル大司教と会話する。もしかしたら光り始めているグウェル大司教の頭部が輝かせているのやもしれないが。

 グウェル大司がハゲという話はどうでもよくて彼、ノースマンという人物はかなり異色な経歴を持っている。

 本名ノースマン・コールと言い、コルネリア帝国ではなく東の島国の出身だ。東の島国では武芸、知略共に優れていたがさらなる力を求め国を出たらしい。その時まだ17歳だたという。それから武者修行の旅を続け帝国に居座るようになるとその名を聞きつけた聖騎士団に勧誘され入団。そしてわずか5年で団長の座まで上り詰めた。

 未だ20代という若さで聖騎士団を牽引し経験が少ないにもかかわらず、その知力と人を惹きつけるカリスマでカバーしてきたまさに偉人。見た目も良いため民衆からの人気も高い。

 そんな彼は部下たちを伴って大司教共に大聖堂の奥へと消えていった。


――――――――――


「あー……暇だ。」


 俺はコルネリア帝国騎士団に最近入団したばかりの騎士見習いアークだ。

 騎士団に入団してからというもの、ずっとこのバーベルの名所となっている大聖堂での警備ばかり。

 そして今日もいつも通り警備………というわけじゃないが基本的には変わらない。なんでも渡界人の魔王が襲撃してくるらしい。


 渡界人っていやぁ、あの勇者様とか剣帝様とかだろ?魔王なんているんだなとか思ってたら周りは皆知ってた。

 一応説明してもらったんだが、渡界人の魔王は5人いて時折こうしてどこかに襲撃をかけるらしい。

 ある時は大都市。またある時は教会。はたまた国そのもの。


 毎回甚大な被害が出す凶悪な奴らとのことだけど………やばくね?それが今日来るんでしょ?

 あ、俺達みたいな下っ端は後方支援?よかったー!まだ死にたくないもんな。


 そんなわけで魔王が襲撃してくるまでは普段の警備と変わらない。つまり暇。


「ふっ…はぁ~……眠いなぁ……」


 軽い伸びと欠伸をしてじっとしていると周りがなんだが静かになった気がした。


「……?さっきまで話し声とか聞こえてたはずなのに………」


 何か違和感を覚えた俺は他の騎士たちがいたほうを壁に隠れながら覗いた。

 そこには剣を持ったメイド姿の女たちが騎士を惨殺し死体から血を吸っているところだった。そのメイドたちは全員見目が良いだけでなく、妖しい光りを放つ赤い瞳と口元から鋭い犬歯が覗き込んでいる。


 乱雑にバラバラにされた死体の中にはつい先程まで話してた奴もいた事実に俺は目眩と吐き気に襲われたが、今すぐに上官に報告しなければならない。

 既に俺のいた部隊は全滅しているのだ。たかが見習いの俺に勝てるわけがない。例え魅了されてしまいな程に艶めかしい女相手であったとしてもあれはヤバすぎる。


「……ッ!…………ウッ!」


 そうやって俺が報告に行くために静かに気配を消して移動しようとした時、うなじ辺りに強い衝撃を感じると同時に気を失った。


 意識が無くなる直前にぼやける視界に映っていたのは美しい黒髪赤目の女だった。

 

「こんないい女……囲ってるんのかよ…魔王……は………」


 それが俺の最後の言葉となり意識が戻ることはなかった。

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