第11話 大司教殺害事件4(黒歴史)

2076年5月 クラード王国王都


「入るぞー!」


 俺がEPOにログインすると什造からチャットが来ていた。

 内容は剣のメンテナンスが終わったから取りに来いというもの。

 それで相も変わらず寂れた見た目の工房へやってきたのだがどうやら先客がいるらしい。中から話し声が聞こえるのだ。

 だがしかし!そんな関係ねぇそんな関係ねぇ…はい、おっぱっぴー!


「あ、もう来たんだ。すみません、ちょっと席外します。」


 何の躊躇いもなく入った俺の姿を確認した什造は先客に断りを入れて奥に引っ込んだ。

 さてこの先客なのだがどこかで見たことのある顔だ。うーん、と悩んでいると向こうから話しかけてきた。


「なっ、なっ、なぜここに貴様がいる!?」

「うーん…??誰だっけ……」


 やっぱり思い出せない。誰だっけ?


「貴様……ッ!覚えてないのか……!」

「うん。誰お前。」


 一応思い出す努力はしてるんだよ?

 というわけで格好を改めて観察しよう。

 コイツはパッと見て若い貴族という印象を受ける。髪型は紺色の髪を最近の流行のものでまとめたオシャレなやつ。服装も流行りに乗っかって意外と質素だが、よく見ればかなりのブランド物だし装飾も細かい。これだけでも貴族か裕福な商家ぐらいなものと絞れる。

 プレイヤーという可能性はあるが什造の工房を知ってるやつとなると限られる。それに反応的にも違う気がする。プレイヤーならもっとわぁー!とかキャー!って黄色い悲鳴が飛び交うはず(自意識過剰)。

 種族はたぶん普人族だが見た目はぶっちゃけ参考にならん。俺みたいに普通にしてれば普人族となんら変わらない種族もいるわけだし。

 うーむ余計に分からんくなった。


「うん、やっぱ知らない人だね。はじめまして、よろしくね。」

「はぁ……!?お前……!忘れたとは言わせないぞ!」

「忘れたも何も初対面だろ?」

「違うわッ!!俺は……いや、俺達はお前らに……ッ!」

「お前ら………?」


 お前らって言うのは………確実に魔王関係だな。俺の顔はほとんどのプレイヤーが知ってるし、現地人は知らんけど騎士とかになってるやつならたぶん知ってるはず。


「そうだ………俺達は、『ワンダーランド』は………お前ら魔王に挑んで敗れた…ッ!あの日以降アリスは表で戦うことはめっきり減った……!他のギルドメンバーもお前らを目の敵にしている……!」

「………あー、思い出した。懐かしいなぁ、アリスっていやぁ『鏡の女王』よな?てことはお前……ジャバウォックか?」


 そう、かつて………って言うほど時間は経っていないが俺達に挑んできた馬鹿たちがいた。俺達にかけられた懸賞金はもちろん、日本サーバー最強の名を欲しいままにしていた魔王に挑み、勝利するのは当時のプレイヤーたちの目標になっていたのだ。

 そうして挑んできた中にプレイヤーの集団、ギルドの中で最強と目されていた『ワンダーランド』があった。

 ギルドマスターのアリスを中心に強力なメンバーが集まり、ついには最強種ドラゴンを討ち取る快挙を成したギルドだ。

 そんな彼女らでさえ魔王にはまるで敵わなかった。ギルドマスターのアリスは『血の魔王』フォールに副マスターのジャバウォックは『鬼神』キングにその他のメンバーは『禁忌の悪魔』パンドラに蹴散らされた。

 戦いは決闘という正式なものでペナルティなどはなくアイテムなどに制限があった。それでも数では圧倒的に有利だし、長い時間を一緒に戦ってきた仲間というだけあってその連携は研ぎ澄まされていた。

 それでも一方的に戦いは進み、もれなくワンダーランドの面々は酷いトラウマを植え付けられた。

 そんな苦い思い出があるからこそジャバウォックは自分たちのことをまるで覚えていないフォールに腹がたったのだ。


「チッ……やっと思い出したのか。そんだけ俺達の印象って薄いのか……?」

「いや……アリスは中々に強かった。俺のメイドたち相手なら余裕で勝てるレベルで。ただ、他のヤツは印象にさえ残っていない。お前はキングの相手だったから覚えているだけだ。」

「………アリスのは褒めてんのか…?」

「一応な。」

「まぁいい。今日は什造さんに剣の製作を依頼しに来ただけだ。もう帰る。」

「そうか。」


 そう言ってジャバウォックは什造の工房から出ていった。その後ろ姿は前に見た時より少しはマシになっている………気がした。


「あれ?ジャバ君帰るの?」


 これまでの雰囲気全部を台無しにする什造の声がなければ完璧だったな。


――――――――――


 ジャバくんもといジャバウォックと一悶着あったが俺は什造から無事に骨龍ノ大剣を受け取った。


「うん、相変わらず綺麗な仕上がりだね。ブレも一切ない。手の馴染みも問題なし。さすが什造だ。」


 本当にアイツに任せると完璧な仕事をしてくれる。まぁこれからたくさんの人間を斬るって考えると少し申し訳ない。

 なんてね。俺はウキウキ笑顔で刀身を撫でる。


「ふふふ……俺の相手はどんなやつかなぁ?」


 おっと、気持ち悪い笑いが出てしまった。よく言われるんだよね。戦いの前の俺の笑いは気持ち悪いって。酷いよね?


 確か約束の日は明日だから1回屋敷に戻ってメイドたちを帝国に連れてって、名前覚えてないけど弟子にしばらく用事があるって伝えて、そっからー……あっ、高級レストランに集合だったな。

 うひひひ、楽しみだぁ…!


――――――――――

コルネリア帝国首都バーベル


「全員……準備はいい?」


 数日前にも密会が行われた件のレストラン。だが様子がどうにもおかしい。

 綺麗に装飾されていた壁には血痕が散見される。所々にレストランの従業員と思われる死体が乱雑に放置されている。

 その代わりにそれぞれの魔王が引き連れてきた配下たちが闊歩していた。

 そしてあの時の密会の場で魔王達が会食を行っていた。その部屋だけは異様に綺麗で清潔感が保たれていた。

 テーブルに肘を付き顔の前で手を組んでいるパンドラが各々自由に食事を取っている魔王達に話しかける。その声はどこか挑発的にも聞こえた。


「誰に言っているんだ?」


 金箔で繊細な装飾を施された高級グラスに注がれたワインを飲み干しながら『鬼神』キングが答える。

 ニィと頬を釣り上げるキングはその風貌をより凶悪に見せた。


「フフッ……そう言ってくれると思っていたよ。」


 パンドラはそう言って全員の顔を見渡した。そこには愚問だとでもいうような表情でパンドラの顔を見返している4人の魔王がいた。


「それじゃあ戦いの前祝いだ。乾杯しよう。」


 それに合わせて魔王達は席を立ち、ワインの注がれているグラスを片手に持った。


「我らの勝利に……」

「「「「乾杯」」」」

”カチャン”


 グラスの突き合わせる音と中身を飲み干す音が部屋を支配していた。

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