第10話 大司教殺害事件3(黒歴史)

2076年5月 クラード王国


「これは剣に限らず……フッ!…近接戦闘全てにおいて通ずることなんだけど……よッと……間合いの管理は絶対だ。間合いをしっかり把握して戦えば攻撃が当たることもない。」

「……すごい…!」


 春は王都のすぐ側の森で秋に戦い方を教わっていた。戦い方を説明しながら襲いかかって来る魔物を斬り伏せる秋の剣技は並のものではなかった。

 一切の淀みがなく靭やか、それでいて剣の使い方が理に適っている。要するに無駄がないのだ。

 だからこそ春は素直に感嘆の声を漏らし剣技に魅入っていた。


「さて……俺の弟子になる気になったかな?」

「………はい。」


 若干悔しさと渋々感が出ているが今の剣を見て断るという選択肢は彼女になかった。


「それじゃあこれからよろしくね。」


 そう言って秋は手を差し伸べてきた。春が握り返すと秋はにっこりと微笑んだ。


――――――――――


「うえぇッ!?…この鬼畜ぅ!!」

「うるせぇ…!こんのガキがよぉ!」


 秋と名乗る男の弟子になった私だが早速後悔し始めていた。

 秋という男、見た目はいい。黒髪赤目で顔立ちも整っている。ちょっと長めの髪をかき上げて後ろに流しているのも色気を出している。服装もおしゃれでカッコいい。

 だがそれ以上に性格が終わっていた。鬼畜という他ないのだ。出会った最初の時と口調全然違うし。

 先程から戦いの基本と言える間合いを掴むためという名目で剣もなしに魔物と対峙させられている。

 私は避ける。意外とすばしっこいヤツもいて大変だけど。頑張って避け続けた。

 しかしこの男はもっと近づけとかぬかしやがった。一応手本を見せてくれたがホントにスレスレなのだ。怖すぎるのよ。たまにキモいのもいて精神イカれそう。


「げぇっ!?キモいー!!ヤダァー!!」

「そんな騒いでたらどんどん魔物くるぞー」


 コイツは木の上で寝そべりながら私が苦しむ姿を眺めていた。ふざけんな。

 てか避けても魔物を倒せないからどんどん増え続けてるんですけど?どうすんのこれ!?うげ、囲まれるって!!


「そろそろ潮時かな……よし、剣使っていいよー」

「遅い!…セヤッ!……セイッ!」


 ホント遅すぎる!でもなんとなく意図は伝わった。これだけの数に囲まれても避けることができれば一方的に攻撃できる。

 あ、でも攻撃したら避ける動作が……


「ギャー!ちょっと待って、あっ…!そこはだめ…!」


 たまに噛みつかれながらも何とか捌き切った。攻撃と避ける動作のテンポを合わせることが出来ればなんてことない。他にも単純に攻撃の動きのムダを無くしたり、避ける動きを最小限にして攻撃の動作に繋げたり………

 そこまで考えて分かった。あの変態クソ野郎が課したこの訓練の意図が。自然と戦いの中で動きを修正したり、立ち回りを考えたり、これまでただ目の前にいた敵を斬ってた時とは全然違う景色。

 これが戦うということ……!

 ………ただアイツがニヤニヤしながら私が噛まれているところを見ていたのは普通にムカつく。


 結局私がログアウトするまで同じようなことを何回も繰り返すだけで今日の訓練は終わった。

 最後までアイツは私の動きを見ているだけの変態野郎だったけど。


――――――――――


 いやー彼女いいね。名前なんだっけ?あんま興味なくて忘れたけどまぁいいか。

 彼女は思っていた何倍も才能があった。これまでは考えて戦うということをしたことがなかったのだろう。


 だから俺が最初にしたことは戦う時の恐怖心を取り除くことだった。間合いがどうとか適当にそれっぽいこと言って襲いかかってくる魔物をただただ避けさせた。もちろん避けさせるだけだから魔物は増え続ける。でも避け続けるためにはどこに移動すればいいのか、どこだったら魔物の攻撃を避けられるか、しっかり周りを見て考えるだろ?だからそれは攻撃する時にもしっかり通じるってわけ。

 ただそれを一発で掴むとは思っていなかった。思っていたよりも動きが良かったしテンポも良かった。すぐに動きを修正して考えていた。


 ただ、なんか俺を見る目がゴミを見る目だったんだよな。なんで?


 まぁでも謎の強者&師匠ポジを確立できたのはポイントが高い。そういう意味でも彼女の才能は計り知れない。いいね、主人公感すごいよ。明日からも似たような感じでやろーっと。

 俺は宿に泊まりログアウトするのであった。


――――――――――

クラード王国王都 什造工房


”カンッ…カンッ…カンッ”


 一定のリズムで金槌を叩く音が熱気に包まれた工房の中で響く。

 つい先程知り合いのプレイヤー、フォールから骨龍ノ大剣のメンテナンスを頼まれたが、什造はその前から打ち続けていた剣の製作にのめり込んでいる。

 その姿は剣に全てを捧げた刀匠そのもの。

 実際に彼はこのEPOを始めてからずっと剣と向き合ってきた。本当の刀匠には遠く及ばないのはもちろんだがゲームならではのシステム補正、毎日のように鉄を叩くことの出来る環境、この2つで什造はあり得ない速さで鍛冶の技術を習得し成長していった。

 今では知る人ぞ知る名匠としてフロンティアで名を馳せている。


「ふぅ………うん、いい剣だ。」


 ようやく完成したのだろう剣はその光沢と焼入れによって生み出される刃文がその美しさを現していた。


「とはいえ銘を入れるほどじゃないか……」


 並の刀匠であれば必ず銘を入れる程の出来栄えでありながら彼は満足していない。この底抜けの向上心こそ彼を爆発的な成長を遂げさせた要因の1つなのだろう。


「さて……まったく。フォールの依頼とはいえこれの相手はあまりしたくないのだが……」


 そう言って什造が目を向けたのは骨龍ノ大剣だ。彼がこれを作り上げたとは言え鉱石とは勝手の違う骨。しかもスケルトンドラゴンの魔力がその加工を邪魔してくる。

 なぜフォールはこんなにも使い勝手の悪そうな剣を使えるのか謎でしかない。

 とはいえ金銭のやり取りが発生している依頼だ。やらなければ職人として終わり。


「……やるか。」


 彼は剣を手にとって観察するところから始めた。刃毀れはあるか、剣のバランスは崩れていないか、チェックするところは多いにある。

 ちょっとした刃毀れぐらいしか問題がないことを確認した什造は骨龍ノ大剣を研ぎ始めた。


”シュッ…シュッ…シュッ…”


 テンポよく研ぎ剣の声を聞きながら角度を力加減を調節していく。

 ある程度研ぎ終わると冷水で流して刀身を綺麗にする。


 それからも作業を繰り返す什造の集中力は目を見張るものがある。

 EPOが生み出した天才鍛冶師『名匠』什造。彼の鍛冶の道はまだ始まったばかりだ。

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