第9話 大司教殺害事件2(黒歴史)

2076年5月 クラード王国王都


「やぁ、来てたんだ………メンテナンスかな……?」


 30分以上待ってようやく出てきたのはドワーフの少年だった。ファンタジーとかで出てくるドワーフよりも細いし髭もない。それでもEPOで鍛え上げた鍛冶の腕は現地人NPCのドワーフをも上回る。


「久しぶりだね、什造………今日はメンテナンスだよ。これから久しぶりにまともな戦いだからね。」

「なるほど……何をするのかは聞かないけど程々にね。」

「うん。」


 もちろん大暴れする。

 俺から白い刀身の剣『骨龍ノ大剣』を受け取るとすぐさま工房へ引っ込んで行った。

 いつものことなので俺も代金をカウンターに置いて店を出る。

 終わったらどうせチャットで連絡が来るのでそれまではしばらくプラプラしておこうと思う。


――――――――――


 クラード王国の王都に来るのは久々だ。それこそ襲撃をかけた時ぐらいじゃなかろうか。まぁあんま覚えてない。

 そんなわけで人が多い場所に向かう。そこは露天商や店舗を構える商店などが並んでいる大路地で大勢のプレイヤーと現地人NPCが行き交っていた。

 気になった物を適当に覗いちゃいるが大体が初心者向けの物だ。かなりやり込んでいる俺からすると珍しくはあるが琴線には触れないと言った感じか。


 そうやって歩いていると1つの建物が目についた。

 そこには大きな看板で『冒険者ギルド』、そう書かれていた。

 このEPOにログインして人類側で初めた場合大体のプレイヤーがこの冒険者ギルドに加入する。俺みたいな中二病の憧れの地というのも理由として大きいが、1番はここが手っ取り早くお金を稼げる場所だからだ。

 人類側の初期装備なんて服とバックと職業に適した武器か道具、ちょっとしたお金ぐらいなものだ。魔物?武器か道具しかねぇよ、ちくしょう。

 ともかく人類側のプレイヤー特に戦闘系の職業に就いている奴は必ず冒険者ギルドに加入している。だからこそ毎日賑わっているらしいのだが、ここも例外ではないらしい。

 特に用はないのだが冒険者ギルドに入るとむさ苦しい空気が歓迎してくれた。めちゃくちゃガヤガヤしてるし俺を見て誰だコイツみたいな顔してる。

 冒険者ギルドは真正面に進むとカウンターがありそこで登録、依頼の受注、達成報告、報酬受け取り、依頼の相談などなど行うらしい。こんだけの人数捌くギルド職員さんに合掌やな。

 右手側には隣の建物と併設されているようで酒場になっている。仕事終わりに1杯やるのがルーティーンのヤツとか絶対いるよ。もはやそれが礼儀だろ。

 2階もあるのだがここからはよく見えないしそこまで興味ないからいいや。

 大した用もない俺は取り敢えず設置されている椅子に座って冒険者たちを観察する。ほら、よくファンタジー物の作品でじっと座って有望な冒険者がいないか探したりしてる謎の強者いるじゃん。あれみたいな感じでよくない?


 そんな風に中二病爆発させていたらたまたま、本当にたまたま1人の少女に目が止まった。

 彼女は俺とは向かい側にあるテーブルのほうでパーティーのメンバーと思しき人たちと話していた。だがどうにも様子がおかしい。その少女以外のヤツがその少女を責め立てているようなのだ。

 俺はもしやこれは……!と胸を躍らせながら事の顛末を見ていた。

 そしてその時はやってきた。少女が涙流したと思ったら、ダッと椅子から立ち上がりギルドの外へ走り出していった。その様子をパーティーは眺めるだけであった。

 つまりこれはそうゆうことだろう?全世界の中二病が夢に見たパーティーからの追放イベント!お決まりはその後自力で這い上がるかめちゃ強力な師匠に鍛えられて成り上がる。この2つだと思う。

 そして後者は………俺がやってしまっても構わないのだろう?

 俺はそんな下心を隠しながらギルドをスッと出ていった。


――――――――――


「うぅ……グスッ…どうして…うぅ……」


 裏路地を歩きながら泣き続ける少女がいた。彼女は春という名でEPOを初めたばかりの初心者であった。

 リアルで友人がいないというデバフを抱えており、ソロで活動していたのだがすぐに限界が来てしまったのだ。

 そのためメンバーを募集しているパーティーに加わってEPOを楽しんでいた………が、先程実力不足を理由にパーティーを辞めるように言われてしまった。確かに自分はそこまで実力は高くない。それでもパーティーとして仲良くやってきたじゃない、そんな思いから彼女は涙を流し悲しみにくれた。


 腰に差してある彼女のメイン武器である刀を撫でながら何の目的もなく歩いていく。

 ふと自身の影に被さるように大きな影が現れた。


「だれ……?」


 掠れた声で呟きながら後ろを振り向く。

 そこにはまるで貴族のような衣装と目元まで被ったハットを身にまとった若い男が立っていた。


「……大丈夫ですか?」


 その男はただ純粋に心配する声を春にかけた。

 だが今の春にはあんまり響かなかった。


「大丈夫に……見えますか?」

「……こりゃ失礼。実は先程ギルドで貴方のことを見かけまして………」


 なるほど、と春は自身の頭の中で納得した。この男は私に同情して追いかけてきてあわよくばを狙っている変態野郎だと。

 即座に逃げられるようにちょっと距離を取ろうとしたがその前に男が口を開いた。


「貴方は刀を使うんですよね?私が戦い方を教えましょうか?」

「………?目的はなに?」

「ハハハ……そこまで警戒しなくても………ただの暇つぶしですよ。対価も求めませんし、貴方がソロで活動できるだけの実力ぐらいならつくように鍛えますよ?」


 そこまで言われても春の顔は怪訝だった。怪しすぎる。そもそも人のことを信用していない春にとってこんな怪しい提案を信じろという方が無理があった。

 だがそれと同時に男の提案には魅力があった。春はこれからソロで活動するかパーティーを新しく探すかの2択があるわけだが、パーティーは今回のことであんまり好ましくない。かと言ってソロで活動するにしてもすぐに行き詰まるのは必定であった。


「……………」

「……ふむ。そう言えば名前聞いてなかったですね。俺は……取り敢えず秋と呼んでください。」


 春が何て返答しようか悩んでいると見かねた男が名前を聞いてきた。


「私は……春、です。」

「春さん……ちょっと森のほうに行きませんか?」

「なん……で…?」

「うーん、ちょっとだけ俺の戦いを見てもらおうかな……と。」


 それで戦いを教えてもらうかどうか決めて欲しい。そうゆうことなのだろうと春は理解した。

 それから裏路地を抜け出し森の方へと歩いていった。その間は少しだけ話をしていたが時々無言の時間が支配していた。

 傷心中の春にとってはどこか心地の良い時間だった。

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