第7話 Vtuberにインタビューされる5

2076年8月 深月の森

【突撃!?】噂の魔王様とおしゃべりするよ!!【インタビュー!】

#EPO#Novis#風泣 舞#インタビュー#血の魔王 

接続人数 125806人


 風泣ふうなさんからの質問に固まったまま口も開かない俺と♱堕天♱に不安げな顔で彼女は話しかけた。


「あの、もしかしてあんまり聞かないほうがいい話ですか……?」


 その言葉でようやくフリーズが溶けた俺たちは慌てて否定した。


「いやいやそうじゃなくて単純に恥ずかしいだけだよ。」

「そーそー、あの時の私たちはどこか頭のネジが外れてたからね。」

「お前は今でも外れてるだろ。………まぁそんなどうでもいいことは置いといてだな。」

「どうでもよくな……」

「黙れ。……ともかく風泣ふうなさん、その……大司教殺害事件についてですけど……」


 隣のヤツがうるさいけどとりあえず黙らせる。

 しかし本題の大司教殺害事件については正直なところあまり思い出したくないものだ。

 簡単に説明して次に移ろうってもらおうかな。


「………簡単に説明しますね。大司教殺害事件はあんまりいい思い出ではないので。」

「ありがとうございます!……そんなに黒歴史なのかな。」


 ボソッと呟いても聞こえてるぞ。まぁ事実だけど。

 隣に座ってる♱堕天♱なんて恥ずかしくて明後日の方向眺めてるし。


「はぁ………まぁ事の発端は魔王の1人、『禁忌の悪魔』パンドラからの招集でした。」

「禁忌の悪魔……!めちゃくちゃやばいで有名な?」


 どんな知られ方してんだアイツ。

 実際のところアイツの性格は鬼畜だし人間性終わってるから仕方ない。

 人類の街攻めた時は必ず血の雨降らしてるし、戦い方も非道そのもの。基本的に外道なんだよね。


「そうそう。俺達も大概って自覚あるけどアイツが1番人間性ないから。……まぁそんなヤツからの招集、これから何を行うんだとワクワク………じゃなかった。どんな地獄が広げられるのか戦々恐々してたわけ。」

「隠せてな……」

「黙ろうか。………そしたらヤツから告げられたのはコルネリア帝国の首都にある大聖堂で保管されている、とあるアイテムの奪取計画だった。」

「とあるアイテム……ですか?」

「あぁ……たぶん聞いたことはあると思うが、『聖神』の神器『聖謐の剣』だな。一応言っておくが勇者が所有する『聖剣』とは全くの別物。格も圧倒的に『聖謐の剣』の方が上だ。」

「確かに聞いたことあります。最近紛失されたって噂も聞きました。………えっ?まさか……」


 ギョッとした顔で風泣ふうなさんはこちらを見た。しかしながら絵面やばいな。顔面崩壊してるよなんて言えるわけもないので放置。

 それにしてもあの時は正気を疑ったよね。まさか神器の強奪とはって。パンドラの顔見て馬鹿かって言っちゃったし。


「まぁそうです。俺達が強奪しました。ちなみにその背景には現地人NPCの魔王がいました。そちらもこれまた有名な『因果の悪魔』ラプラスです。」

「なっ!?『因果の悪魔』……ッ!!イベントでも出てくる魔王じゃないですか!?」


  風泣ふうなさんの驚きも当然だろう。『因果の悪魔』と言えばEPOでラスボスと謳われている化け物中の化け物。過去に行われたイベントでは『因果の悪魔』が黒幕として登場したり、『フロンティア』で起こったきな臭い出来事の裏側には因果の悪魔の存在が仄めかされたりとか有名になる要素が多いのだ。

 ちなみにラプラスとはまだ戦ったことはない。ていうか直接会ったことがあるのは俺達魔王の中ではパンドラだけだ。


「まぁその『因果の悪魔』から面識のあるパンドラに命令という形で神器の強奪をお願いされたらしいんですよ。」

「ほぇー……クエストみたいな感じですね。」

「そう捉えても問題ないと思います。失敗したら死、成功しても報酬なしのクソクエですけどね」

「えぇ…?何その地獄。」

「そんな理不尽がまかり通る存在なんですよ………」


 たぶん俺の顔は物凄く疲れていることだろう。あれはホントにクソだった。パンドラから聞いても納得出来なかったし。

 でも結局計画自体は面白そうだったから乗ったけど。


「それで俺達は神器の強奪の計画を知らされてから実際に行動に起こしたんですけど………その時に戦った聖騎士団相手に魔王ロールプレイをノリノリでやってしまって………」

「うわぁ………」


 そんな聞いてるこっちが恥ずかしいみたいな顔しないで。隣の♱堕天♱なんて死人みたいに動かないぞ?

 今思い返してもあれは酷かった。誰も見ていないことをいいことに全員がやったんだから。我は血の魔王、貴様らの血はどんな味だ?なんて感じで厨二全開だった。それもその場のノリみたいな感じでやったのに全員がやるとは思わなかったっていうのもポイントが高い。やっぱ魔王になる奴は中二病極めてるよ。


「……?あれ?でも大司教殺害は…?」


 お、いいとこに気づいたな。さすが風泣ふうなさん。

 なんて頭の中で称賛してるけど実際はめちゃくちゃしょうもない。


「大司教はパンドラについでで殺されただけだね。教会は神器を強奪されたことを秘匿するために大司教殺害事件のほうを噂程度だけど流したんだ。」

「つ、ついで……命が軽すぎる。」

「虐殺系魔王にそんなこと言わんでくれ。」


 ゲームだからというのもあるだろうけど、俺達は根本的にどこかおかしい。そしてその歪みを自覚している側の人間だ。

 とはいえ現実でそんなことはしない。例え殺したくなる程ムカつくことがあったとしても俺はちゃんと感情を殺す。もしかしたらグーで殴るかもしれんけど基本的には抑え込む。こことは違って現実では力がないから、あっさり捕まってブタ箱の中だ。

 そんなわけで現実では普通の皮を被った狂人もとい中二病を極めし者の集まりが俺達魔王である。よって力を持ったEPOでは誰かを殺めることに抵抗なぞないのは自然なことなのだ。



 どうやら大司教殺害事件に関しての質問が最後だったようで風泣ふうなさんは挨拶をして♱堕天♱と一緒に帰って行った。

 彼女の反応的にインタビューは成功と言ってもいいだろう。思っていたよりも楽しめたしWin-Winである。

 ただ俺の黒歴史の一部が配信という形で世に出てしまうというのはかなり不服だ。それに関しては喋った自分が悪いのだが、つまらん奴だと叩かれるのはもっと嫌だ。必要経費と思って割り切ろう。


 色々あったけどVtuber襲来事件はこれにて終了って感じでいいよね?

 俺は屋敷のメイドたちとお菓子を食べながら風泣ふうな まいの配信を見返すのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る