第3話 Vtuberにインタビューされる1

2076年8月 深月の森


 なんか気づいたらVtuberにインタビューされる件。

 あの手紙が届いてからYourtubeをちょっくら見てみたのだが、めちゃくちゃ大物だった。

 まずVtuber事務所『Novis』。すでに業界に進出してから40年以上経っているが新たな人材の発掘、放送事故と言えることさえもコンテンツに昇華、事務所スタッフによる手厚いサポートなどなどのおかげで現在も高い人気を誇る。ライバーの中にはチャンネル登録者が100万超えがごろごろ。界隈一とまで呼ばれている神楽かぐら ユートともなると450万である。公式チャンネルでさえも200万を超えている超大手事務所なのだ。

 そんなNovisに所属しており、EPO配信で一気に成長したVtuber『風泣ふうな まい』。風をモチーフにしているためか緑を基調に、寒色で纏められている侍の装いをした美少女だ。

 そんな彼女のEPOでのプレイだが、まず圧倒的にPSが高い。当然ながらEPOで配信をしている配信者、Vtuberは多数いる。その中でも彼女は郡を抜いて上手いと言えるだろう。例えばソロでカーナダンジョンに挑んでみたとかの動画を見ても危なげない戦い方と魔物の気配を敏感に感じ取るセンスが光っている。彼女の場合はそれだけでなくトークも上手い。魔物と戦っていない間の繋ぎの会話も面白く視聴者を飽きさせないのだ。


 さてこうなると1つ疑問が浮かび上がる。なぜ俺にインタビューするのか。

 まぁ俺はそれなりにEPO内では知名度は高い。そのわりに俺に関する情報は結構少ない。情報が欲しいとか単純に気になるとかいうプレイヤーの視聴者も多いのだろう。

 それでも俺はPKだ。話を引き受けて暴れ散らかすとかも考えられるんじゃないか?そこら辺の危機感がないのか、それともそれはそれで美味しいとか思ってるのか。


(はぁ……考えるだけ無駄か………)


 結局俺は思考を放棄して当日までのんびり屋敷に引きこもることに決めた。


――――――――――


2076年8月 深月の森浅層

【突撃!?】噂の魔王様とおしゃべりするよ!!【インタビュー!】

#EPO#Novis#風泣 舞#インタビュー#血の魔王 

接続人数 53874人


「こんまい〜!風っ子の皆元気してるー?」


 既に危険地帯の入口にいるのに明るい声と表情で、宙に浮いている小型のカメラとコメントが流れるウィンドウに向かって喋る少女の姿があった。


『コメント』

︰こんまい〜

︰こんまい!

︰こんまい〜

︰今日もかわいい

︰元気だよ!

︰元気!

︰あれ?ここって……

︰こんまい〜


 配信開始早々、凄まじい速度でコメントが流れる。既に接続人数は5万人を超えており今回の配信の注目度が高いことが窺える。

 コメントの一部には現在の居場所に察しがついている者も見かけられる。


「おっ!何人か気づいてるみたいだね。ここはあの魔境として有名な『深月の森』の入口です!」


『コメント』

︰めっちゃ危険地帯じゃん

︰大丈夫?

︰ヤバすぎw

︰前挑んだけど普通にボコされた

︰舞ちゃん大丈夫?

︰草


 コメントでは風泣ふうな まいを心配する声が目立つ。それだけでもこの深月の森の危険度がわかるだろう。


「みんな心配してくれてありがとっ!でも大丈夫だよ!今日は助っ人が来てくれてるからね!」


『コメント』

︰助っ人?

︰助っ人?

︰誰?

︰男はやめて

︰深月平気なのトッププレイヤーだけじゃね?

︰めっちゃ豪華説

︰誰なの?


 一部ユニコーンが散見されるが大体の視聴者が助っ人の正体を不思議に思う。

 そんな疑問に答えるように風泣ふうな まいは画面外にいる助っ人に手招きをした。


「今回、目的の血の魔王様の下まで案内してくださる助っ人はこの方です!どうぞ!」

「はーい、呼ばれてきたよ。」


 気怠げな返事と共に出てきたのは1人の少女だった。全体的に黒いという印象だが、透明感のある白い肌や艶やかな髪に白のメッシュが入ってることでカッコよさも感じられる。それでもどこか残念さが漂っているのは本人の気質のせいだろうか。


『コメント』

:あぇ!?

:ゲェッ!?

:人魔ーー!!!???

:まじかよ……

:よりによって人魔かよ

:wwwwwwwwwwww

:これは事故かな?

:人魔はやばすぎw

:((((;´・ω・`)))ガクガクブルブル


「……?コメントちょっと荒れてるけど………先日仲良くなりました『人魔』こと♱堕天♱ちゃんです!」

「いぇーい。見てるぅー?みんな大好き『人魔』の♱堕天♱ちゃんだぞー」


 画面に映るやいなや抑揚のない声で煽るように♱堕天♱は自己紹介し始めた。

 『人魔』こと♱堕天♱というプレイヤーはかなりの有名人であった。それもかなり悪いほうで。

 もともとは普人族のPKで当時から強烈な言動とPSで有名だったが、ある時血の魔王らが首謀した大都市アルゲンハート襲撃事件で魔物側プレイヤーと共謀したことにより神敵認定、教会と国から多額の懸賞金をかけられるようになった。他にも彼女が起こした事件はあるが今は割愛。

 まぁそんな問題児が皆のアイドルとも言うべき風泣ふうな まいの助っ人としているのだから視聴者の驚きは当然だろう。


「は、ははは。まぁとにかくこの深月の森にあの血の魔王様の拠点があるんですよね?」

「そうだよー……魔物も結構強いから気をつけてね。」


『コメント』

︰くそっ人魔め

︰顔はいいのにな

︰残念美人w

︰舞ちゃんも苦笑いじゃねーか

︰草

︰てか血の魔王なんでこんな激やばなとこに拠点構えてんの?

︰うっ、トラウマが……

︰ここまじでヤベェからなぁ

︰毒と化け物しかいない


 コメントで散々なことを言われてる♱堕天♱にはあえて触れず、風泣ふうな まいは企画の説明を始めることにした。


「じゃあ早速なんですけど今回何をするのか説明していきたいと思います!」

「おぉー」

「今回は事前に♱堕天♱ちゃん経由で血の魔王様ことフォールさんに許可をいただきましたので、直接会ってインタビューを行おうと思います!」

「私、がんばった。」


 一々気の抜ける合いの手を挟む♱堕天♱に顔が引き攣らないように笑顔で話し続ける風泣ふうな まいのプロ根性は流石である。

 それに対するコメント欄はお察しだろう。彼女の配信にしては荒れ気味の原因は♱堕天♱ではないと信じてあげたい。

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