第2話 プロフィールと手紙

2076年8月 フロンティア 深月の森


 ここは異世界『フロンティア』。全世界で爆発的に人気なっているフルダイブVRMMORPG『Endress Possibiliteis Onlne』の世界だ。

 制作陣の公表しているコンセプトは剣と魔法の異世界、全員に等しく無限の可能性を与えるゲームらしい。実際、現実では叶えられなかった夢をEPOで叶えたという人は多い。そうでなくとも自由に暴れたり、街の人から英雄と呼ばれてちやほやされたり各々楽しんでいる。

 かくいう俺もそうだ。物騒な二つ名で呼ばれていようと自由に楽しんでいる。結構共感性羞恥を刺激されるとか思っているけど楽しんではいるのだ。

 それはさておきこの頃周辺の魔物狩ったり、襲撃者の相手したりしていたがプロフィールを見ていないことに気がついた。プロフィールというのは自分の名前や種族、職業、レベル、特性などが書かれているものだ。

 このEPOではメニュー画面から見ることができる。

 そんなわけで俺は右手を軽く振るう。この動作とメニューを開くという意思がキーになるらしい。どうゆう技術なんだよ。

 メニューには半透明の青色の板にプロフィール、フレンド、チャット、掲示板、設定、ログアウトの項目が円状に配置されていた。

 今回は目的のプロフィールをポチッと押す。普段は結構チャットとかで知り合いとやり取りすることが多い。


『プロフィール』

・個体名 フォール

・種族 紅血の吸血鬼

・職業 虐殺者

・レベル Lv.17

・職業レベル Lv.10

・特性[闇の住人][剛力][夜の住人][魅惑][支配者][相剋][血魔]

・技能[剣の心得][剣術][秘剣一文字][豪剣][修羅][殺人術][業]

・魔法特性

 ︰火魔法 3

 ︰水魔法 4

 ︰風魔法 4

 ︰土魔法 4

 ︰光魔法 1

 ︰闇魔法 10

 ︰無魔法 9

・称号[渡界人][殺人者][虐殺者][人類の大敵][魔王][神敵][暗殺者][血の美食家]


 うーん、この物騒。あ、でも前よりレベル1つ上がってる。種族も職業も既に6回進化、転職しているためレベルが低くても全然上がらない。

 これでも結構頑張ってる方だと思うんだが、知り合いは同じ回数進化と転職してレベル50越えてたはず。どんだけやってんのかね。


 プロフィールの確認を終えた俺は自分が拠点にしている屋敷を軽く散歩することにした。

 この屋敷は最初にスポーンする大陸の中央部にある魔境『深月の森』と呼ばれてる場所に建てられている。

 深月の森はかなりの高難易度フィールドで、生息しているのは強力な毒を持った生物か何回も進化を重ねた魔物ぐらいだ。ここに挑むのは一部の猛者ぐらいで中級者以下のプレイヤーや現地人NPCはまず近寄らない。

 そんな危険な場所に拠点を構えるのは正気の沙汰じゃないように思われるが、俺自身はこの森の魔物相手でも軽く屠れるし吸血鬼の能力で眷属にした配下たちも普通に戦える。つまり屋敷の戦力的には何ら問題ない。

 まぁ彼女たちの仕事を魔物の襲撃で潰すわけにもいかないから、拠点周りに魔物除けのアイテムを設置しているけどね。

 そんな超危険地帯に建てられたそこそこ豪華な俺の屋敷は深月の森になぞらえて『深月の館』なんて呼ばれている。なかなかいい呼び名よな。


――――――――――


 のんびり屋敷を見回っていると1人のメイドが近寄ってきた。

 彼女はゲーム内で3年前、現実で1年前俺の眷属になった吸血鬼の1人でナタリアという名前だ。

 なかなかの働き者だしかなりの時間を一緒に過ごしてきただけに彼女への信頼は厚い。眷属になったばかりの頃は人生終了みたいな絶望の表情だったのに、今ではにこにこしながらメイド長として屋敷の管理に勤しんでくれている。


「やぁ、ナタリア。仕事は順調?」


 吸血鬼になった影響で白くなった髪を笑顔で揺らしながらこちらを見つめるナタリアに声を掛ける。


「フォール様…!はい、順調です!…ところで今日はどのような御用で………?」

「ならよかったよ。今日はただの散歩かな。ついでに皆の顔でも見ようかなって。」


 吸血鬼なのに太陽のように眩しい笑顔で答えてくれるナタリアにこっちもほっこりしながら答える。現実に彼女持ってこれない?まじで癒やし枠で欲しいよ。まぁこんな純粋無垢みたいな彼女だけど戦闘になったらマジでえげつない。狂ったように笑いながら剣を刺し続けるのだ。軽くホラーだった。この話をするとこうなったのは貴方のせいですとか言って迫ってくるのもセットでね。


「そうなのですね…!そういえば先ほど手紙が届いていました。見たところ渡界人の者からです。また『勇者』みたいなのは勘弁です………」

「?……珍しいね。ここまで手紙を届けるなんて。一体どんな伝手を使ったのやら……」


 先日の勇者は確かに面倒くさかった。でもそんな果し状みたいのは来ないと思うぞ?

 そんなことはともかくまずは屋敷に届いたとかいう手紙だ。家に手紙を届けられるのは正直見知った奴らしかいない。てことは人外プレイヤーか、魔王関係かな。

 あ、そうそうこのゲームではチャットを行うには掲示板を利用するかフレンドになるしかない。ちなみに俺は掲示板に興味ないため利用してない。フレンドはフレンドで直接会って互いの合意の上で申請しなきゃいけない。結構面倒くさいのだ。

 俺にチャットではなく手紙を送るとなると俺の拠点まで来れる伝手を持った人外プレイヤーかこのEPO内でプレイヤーNPC関係なく知力と武力を兼ね備えた魔物の長、魔王関係しかあり得ない。ちなみに俺も魔王認定されている。二つ名『血の魔王』だし。

 というわけで早速手紙を読んでみよー。俺は封をしている蝋を割り中身を取り出した。ナタリアも興味深そうに覗き込んでくる。


「拝啓 『血の魔王』フォール様


 初めましてフォール様。

 私、Vtuber事務所『Novis』所属Vtuberの風泣ふうな まいと申します。

 この度はフォール様にインタビューとその様子を配信をさせていただきたく連絡いたしました。

 もしこの件を了承してくださる場合は『人魔』♱堕天♱様に日付、時間、場所をお伝えください。

 何卒よろしくお願いいたします。


 敬具  Novis 風泣 舞 」


「なにこれ?」


 予想外すぎた手紙の内容に俺の呟きが溢れる。ナタリアも固まっている。


 その日は取り敢えず返事を厨二感満載の名前の奴にチャットで知らせて散歩に戻った。

 気のせいかもしれないけど屋敷の皆がいつもより優しかった。

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