第19話 ポーターのお仕事

(本日は2本更新します。一本目)


 朝食を食べると僕らはすぐにダンジョン前の広場へ行った。

 今日は僕もポーターの仕事を見つけるつもりである。

 ほら、マッサージを必要とするのは疲れて帰ってきた人たちだからね。

 夕方前はそういう人は見つからないだろうと踏んだのだ。


 広場までやってくるとあちらこちらからポーターを募集する声が聞こえてきた。


「地下三層までの日帰り仕事で3000ミルトだ! あと二人! 誰かいないか?」

「地下二層までだ。1500ミルトだが昼飯がつくぞ!」


 リゲータは知り合いの冒険者チームとの約束がありそちらに行くことになっている。

 だから、僕は僕で雇い主を探す必要があった。


「なるべく条件がいいところを選んでね。ただし、よすぎるところは危ないから気をつけて」

「わかった。僕ははじめてだから深層にいかないチームについていくよ」


 リゲータと別れて仕事を探し出したけど、のんびりとしている暇はなかった。

 いい条件の仕事はどんどん決まってしまうからだ。

 こうなったら給金にこだわらず、浅い階層にいくチームについていこう。

 そうやって割り切ると仕事を探すのはずっと簡単になった。


「ポーターを募集だ。地下二層での周回で一日1900!」


 巨大な剣を担いだ大柄なお姉さんが叫んでいる。

 お姉さんもワイルドでかっこいいし、ここがよさそうだ。


「やります!」


 僕は元気さをアピールするために走ってお姉さんのところまで行った。

 お姉さんは値踏みするようにさっと僕の体に視線を走らせた。


「荷物は重いけど平気かい?」

「体力には自信があります」


 先日は鬼女の村からコボンまで走り続けたのだ。

 マッサージの力があったとはいえなかなかできることではない。

 荷物持ちくらいなら何とかなるだろう。


「力はなさそうだけど、若さはあるか。よし、ついてきな」


 短い面接だったけど、僕は合格になったようだ。

 だけど、いざ仕事が決まったら不安になってきたぞ。

 うまくやれるかな? 

 ドキドキしながらついていくと、そこには七人の冒険者と二人のポーターがいた。

 僕を入れた総勢十人が今日のチームということのようだ。


「お前はこの荷物を持つんだ」


 割り当てられた革のリュックはやたらと重く、15キロくらいはありそうだった。

 こんなのを持って歩き続けるのか? 

 やばい、少し舐めていたかも。

 同じポーターの目つきが鋭い男が僕にささやく。


「それがいちばん重い荷物だぜ。最後に来たから貧乏くじを引いたな」


 そうだったのか。

 どうせ「うんのよさ」はマイナス2だ。

 いまさらくよくよしても仕方がない。


「ほら、杖を持て」


 僕はゴツゴツした杖を渡された。

 先っぽにはクリスタルのような透明な石がついている。

 よくみると誰もかれもが同じような杖を持っているな。


「それじゃあ出発するよ」


 先ほどのお姉さんの掛け声で僕らはダンジョンに向かって歩き出した。


 ダンジョンの入り口というのは見れば見るほど学習旅行で行った古墳に似ていた。

 ただ少し違うのはここから地下に広大な空間が広がっていることだろうか。

 このダンジョンは地下十層まで確認されているそうだ。

 そんな深くまで潜って酸素は供給されるのだろうか? 

 照明はどうなっているの? 

 疑問は尽きなかったけど、僕は人々について緩やかな傾斜をくだっていった。

 照明についてはすぐに判明した。

 先ほど渡された杖のクリスタル部分がLEDのように光ったからだ。

 ダンジョンに潜る人たちは誰もがこれを携帯していて、そのおかげで内部はかなり明るかった。


「手持ち式のフラッシュライトみたいなものか……」

「おい、なにをぶつぶつ言ってるんだ?」


 先ほどの目つきが鋭い男が話しかけてきた。


「僕、ダンジョンに潜るのは初めてだからいろいろとめずらしくてさ」

「ほーん。俺はコーツってんだ。おめえは?」

「カンタだよ」

「まっ、わかんないことがあったら俺に聞けよ。ダンジョンの先輩として教えてやっからさ」


 なんだかチャラチャラした奴だけど、どことなく憎めない相手だった。

 コーツは僕より年上の二十四歳。

 十五歳のころからこうしてダンジョンに潜っているそうだ。


「ま、いまはポーターだけどよ、そのうち一山当ててやるぜ」

「どうやって?」

「そりゃあダンジョンでお宝をめっけるのさ」

「そんなこと言ってもコーツはポーターでしょう? 分け前なんてもらえるはずないよ」

「バーカ、普段の俺は冒険者なの」

「だったらどうしていまはポーターをしているの?」

「ちょっと事情があってな……」

「ケガでもした?」


 膝に矢を受けて以前のように動けなくなったとか?


「いや、ちょいと事情があって装備を売っちまったんだ。まあ、助けてやりたい女がいてよぉ……」

「そうなんだ」


 人にはそれぞれいろんな事情があるんだなあ。

 冒険者が商売道具ともいえる大切な装備を売るなんて、よっぽど大切な人なのだろう。

 チャラチャラした第一印象だったけど、なんだかコーツがかっこよく見えてきたぞ。

 そんな話をしていると前方が騒がしくなった。


「魔物が出現したな。カンタ、荷物を置いて杖を高く掲げるんだ」


 冒険者たちの戦闘中は、ポーターにとってやすみ時間だ。

 荷物を降ろせるチャンスだからである。

 だが、ぼうっとしていることは許されない。

 明かりを掲げてダンジョン内を照らし、戦闘を補助しなければならないのだ。


「いいか、戦闘からは目を離すなよ。冒険者がやられれば次に襲われるのはポーターだ。いざというときは手助けするか、それとも逃げ出すかの判断を素早くおこなうんだぞ」

「なるほど」


 さすがは現役の冒険者だけあって言っていることは的確だ。

 出現したのはたいした魔物ではなかったようで、戦闘はすぐに終了した。


「さて、ここからがポーターの仕事だ」

「なにをすればいいの?」

「解体だよ」


 魔物というのは利用価値の高い生物である。

 各魔物からはさまざまな素材がとれ、冒険者たちはそれを売って生計を立てている。

 僕らの目の前には巨大なカタツムリの死骸が横たわっていた。

 殻の直径はなんと90センチはありそうだ。


「ヒュージマイマイが二匹か。まずは魔結晶を取り出しちまうか」


 コーツはナイフを魔物の眉間に突き刺した。


「魔結晶はそこにあるの?」

「たいていは眉間のあたりにある。たまに違う魔物もいるけどな。ほれ、見えてきたぞ」


 ナイフで抉り出すと緑色の宝石のような結晶が床に落ちた。


「次は殻を分離するぞ。カンタ、お前の荷物の中にのこぎりが入っているから取ってくれ」


 僕らは協力して魔物から殻を外した。

 この殻は防具に利用したり、薄く磨いて窓材にもなったりするそうだ。

 うわぁ、手や服が魔物の体液でべちゃべちゃになってしまったぞ。

 気持ちが悪いなあ。

 さっさと洗い流してしまうとしよう。

 僕は洗浄水を使って手を洗った。

 洗浄水は普通の水と違って純水なので汚れが落ちやすいのだ。

 ふぅ、さっぱりするなあ。


「おい、カンタ……」

「どうしたの、コーツ?」

「お前、水魔法が使えるのか?」


 コーツが目を見開いて驚いている。


「うーん、水魔法とはちょっと違うかな。これは洗浄水っていって僕のジョブスキルなんだ」


 アクアボールみたいな攻撃魔法が使えればかっこいいのになあ。

 でも、僕の発言でコーツの興奮はさらに高まってしまった。


「カンタはジョブ持ちなのか?」

「まあ……、美容魔法師って言うんだけどね」

「それはいったいどういう?」

「うーんとね、コーツは肩がこってる?」

「肩? そりゃあ重い荷物を運んだから」

「どれどれ」


 僕は清潔になった手でコーツの肩をつかんだ。

 お、いまはポーターをしているとはいえ、さすがは現役の冒険者だ。

 僕の魔力をはじき返してくるぞ。

 これはレベル2からはじめないとマッサージは効かなさそうだ。


「これも僕のスキルだよ」


 僕は魔力を込めてコーツの張った筋肉をマッサージしていく。

 疲労物質を分解して対外に排出させるのだ。


「おお……」


 うん、効いているみたいだな。


「治癒魔法に似ていなくもないけど、僕ができるのは疲労の軽減だけなんだ」

「いや、それでもじゅうぶんすげえぞ」

「そうかな?」

「よし、リーダーに紹介してやるからこっちこい」

「え? ええっ?」


 コーツは僕の手を引っ張り強引にリーダーのところへ連れて行った。

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