第9話 肉を食べて魔力を回復させる


 ラジャーナさんのお姫様抱っこで牢屋に運ばれた。

 僕の体重は63キロあるのだけど軽々と持ち上げているな。

 やはり、鬼女の腕力は相当なもののようだ。

 戦って勝てる気はまったくしない。


「しばらくやすんでな。夜になったらまた働いてもらうからね」


 いまはじっとして回復に努めるしかないか。

 チョコレートをひとかけらだけかじって、僕はベッドで横になった。


 しばらく寝ていたら少し元気がでてきた。

 起き上がってもめまいはしなくなっている。

 ずいぶんとお腹が空いてきたなあ。

 これも魔力を大量に消費したせいだろうか?

 鬼女の村で働いていれば、ご飯は食べさせてもらえるとラジャーナさんは言っていた。

 たぶん、なにがしかはもらえるだろう。

 そわそわしながら待っているとラジャーナさんが食事を載せたお盆を運んできた。


「ほら、飯だぞ。たくさん食べて、たくさん働け」


 食事の内容は考えていたよりずっと豪華だった。

 大きなパンが一つ。

 どんぶりのようなスープボウルには野菜と肉の煮込みがたっぷりと入っている。

 ゴロゴロの大ぶりな肉が二個もだ。

 さらにデザートにはリンゴまでついていた。

 この世界での料理は塩味の煮豆しか知らないので、やたらと立派に見える。


「ずいぶんいいものを食べさせてもらえるんですね」

「あんたは特別だよ。今夜もマッサージを頑張ってもらわないといけないからね」

「はあ……」


 期待値が高ければ高いほど失敗したときの失望も大きいそうだ。

 予想よりマッサージが気持ちよくなければ、僕はやっぱり殺されてしまうかもしれない。

 しっかり食べて魔力の回復に努めるとしよう。

 だけど、あることに気がついた僕はスプーンを動かす手を止めた。


「ラジャーナさん、このスープはまさか……」

「ん? ああ、そういうことかい。安心しな、それは人間のスープじゃないよ」

「本当ですか?」


 クンクンとにおいをかいでみたけど、特に臭みは感じなかった。


「そいつは魔力回復に効果があるクマの肉さ」

「クマ肉……」

「食べるのははじめてかい?」


 シカやクマの肉をだす店があるのは知っていたけど、食べたことはない。

 たしか、日本では高級品だったな。

 ずいぶんと脂肪の層が厚いけど、どうなのだろう?


「さっさと食べちまいな」


 ラジャーナさんにせかされて僕はこわごわクマ肉に口をつけた。


「美味しい」


 お世辞じゃなくて本当に美味しいや。

 肉はトロトロに煮込んであり野菜のうまみと調和しながら口の中でほどけていく。


「この村の者はみんな料理上手なのさ」


 ここでは各家庭で料理を作るのではなく、全員のぶんを数人が交代制で作るそうだ。

 人間がいるときは人間にも手伝わせるとのことだった。


「じゃあ、明日から僕も料理を手伝うんですね?」

「いや、カンタはマッサージ専門だ」


 雑用をしている暇があるのならマッサージをしていろ、ということのようだ。


「それじゃあ、後でまた来るからね」


 ラジャーナさんは扉の鍵をしっかりとかけて出ていってしまった。


 お腹が減っていた僕は食事を残さず食べた。

 少しは残しておくことも考えたけど、どうせ三日間はこの村にいなければならないのだ。

 今は完食してもかまわないだろう。

 食事が終わると再びベッドに寝転んだ。

 魔力の回復にとってはそれがいちばんよさそうだったからだ。

 再びステータス画面を開いて確認する。


 なまえ:モガミ・カンタ(レベル1)

 ジョブ:美容魔法師

 ちから:2 すばやさ:3 たいりょく:2 かしこさ:4 

 うんのよさ:マイナス3

 スキル:マッサージ(レベル1):気持ちの良いマッサージ。疲労をわずかに軽減する。


 ここではHPとMPは表示されない。

 だけど、僕の魔力は鬼女四人をマッサージすると尽きてしまうようだ。

 レベルが上がれば保有魔力量も上がるのだろうか? 

 それともマッサージのレベルが上がればいいのかな?

 ユーザーに優しくない設計のステータス画面ではよくわからなかった。


 夜のとばりがおり、牢屋の中は真っ暗になった。

 鉄格子越しに眺めてみると鬼女たちの家々には明かりが灯っている。

 リゲータの家のように燃料を節約するということはないようだ。

 きっと、鬼女たちの暮らしは豊かなのだろう。

 そうやってしばらく待っているとラジャーナさんが僕を迎えに来た。


「仕事だよ」


 魔力はすでに回復していた。

 時間あたりどれくらいの量が回復するのかは不明だけど、ご飯をしっかり食べて二時間も寝ていれば満杯になるようだ。

 いまのところは……。


「夜も四人分のマッサージをするんだよ」


 いちおう僕の魔力保有量を考えてみてくれたみたいだ。

 まあ、限界まで働かせるのだからブラックであることに変わりはないか。

 僕は村の集会場みたいなところへ連れてこられた。

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