第16話 吐露
カンナは秘密のモーニングルーティンを済ませると、
裏庭にある古びた物置の中から、タライと洗濯板と洗濯用の水の入ったポリタンク、そして粉洗剤を取り出した。
「こんな
カンナはタライに洗濯物を放り込むと、その中にポリタンクから大量の水を入れて、粉の洗剤を入れた。
口頭で教わっただけだが、難しい事はない。ただ洗濯物を洗濯板に擦り付けて汚れを落とすだけだ。
2人分の服と下着、バスローブを洗濯し終えると、一度泡を地面に流し、再び綺麗な水をポリタンクから注ぐと、泡を綺麗に落とした。
そして水気を絞ると、手製の物干し竿に手早く干した。隣の竿には、
カンナはショートパンツのポケットからバッテリー残量9%のスマートフォンを取り出し時間を確認した。
「10:30か……」
カンナは目を閉じ、辺りに氣を放った。
「カフェテリアか……ちょうどお腹も減ってきたし」
目当ての人物を見付けると、カンナはそのままカフェテリアへと向かった。
♢
「はぁ……痛い。あの女、この私の綺麗な顔を殴りやがって……絶対仕返ししてやる」
「
「今は近くにいないから大丈夫だよ。あの女の神眼はどこからでも監視はできるけど、声までは聞こえないからね」
カフェテリアで
「おはようございます。
不意に部屋に入って来た澄川カンナだった。
「何しに来たの?」
「朝ごはんをいただきに」
「あー……あんたの名前なんか覚えてないけどさ」
「澄川カンナです。よろしくお願いします」
「私たちを笑いに来たんじゃないの? このボコボコの顔をさ」
「いいえ」
冷蔵庫の中身を物色するのに夢中で、
「
カンナは冷蔵庫の扉に掛かっている食材管理表を見ると、中からお茶漬けとご飯のパックを1つずつ取り出した。
そして、カンナはキッチンでお湯の入った鍋が置いてあるカセットコンロを見付けた。どうやらまだ湯気が立っているので
「
「知らない」
「そうですか、それじゃあ使いまーす」
非協力的な
「何なの? あの女。めっちゃ気に入らないんだけど」
「ですね」
カンナはもう1つのカセットコンロを見付け、中にカセットボンベが入っているのを確認すると、棚のヤカンを取り出し、ポリタンクから水を注いで火をかけた。
鍋にはご飯のパックを入れ、ご飯を温める。ヤカンの水はご飯に注ぐ用だ。
しばらくして湯が沸くと、カンナはお茶漬けを手際良く完成させた。
「よいしょ」
カンナは
「いただきます」
と、礼儀正しく手を合わせた。
「わざわざあたし達の視界に入るところに座んなよ……あ〜あ、貴重な食料がぁ〜」
「ねぇ、言いたい事があるならハッキリ言えば!?」
カンナのクールな対応に腹を立てた
「言いたいこと? そうですね。
しかし、
「寝言は寝てから言ってよ? こんなあからさまに嫌いですって態度で接してる奴と仲良くしたいと思うわけないじゃん? ねぇ? 光希」
「う、うん」
「何が気に入らないでしょうか?」
「全部だよ! お前のそのスカした態度! エクセルヒュームっていうチートを使うところも!
仲良く男と一緒に来たことも! 全部気に入らないんだよ!!」
「態度は……ごめんなさい。貴女を不快にさせるつもりはなかった。貴女との闘いに氣の力を使ったことも、謝ります。でも、
「そうやって口答えしてくんのもムカつくの!
同じネフィスだとか言ってたけどさ、同じじゃないからね! あたしとお前は!」
「何でよ、同じでしょ?」
「違うよ!! 同じだったらそんな冷静にしてられるはずない!! ここの奴らはみんなそうだ!! フォーミュラに嵌められて島に閉じ込められたっていうのに、何で前向きに頑張れるの!? たとえ島から脱出できたとしても、延命治療が存在しないなら何の意味もないじゃない!! あたしはあと10年もしたら死ぬんだ!! まだやりたいことだってたくさんあるのに……なのに、何でみんな平然としていられるんだよ!! みんなおかしいんだよ!! 仲間なんかじゃない……みんな嘘つきだ!!」
「
泣きじゃくる
どうやらカンナだけが気に入らなかったわけではなさそうだ。同じネフィスでも、他のパイドパイパーのメンバーは
嗚咽を漏らし咽び泣く
カンナはその様子を見て、掛ける言葉を選んでいると、
「
しかし、カンナが予想していた言葉は続かなかった。
「ここにいる人たちは、みんな話なんか聞いてくれなかった」
「アイツと口利かなくていいよ!
2人が去り、静寂に包まれるカフェテリア。2人の氣は少し離れたところで止まった。
カンナはそれだけ確認すると、また静かにお茶漬けを啜った。
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