第15話 決意
所々ダンボールで補修されている見栄えの悪い窓から、朝日が燦々と降り注ぎ始めると、
「良く寝たー……」
朝日のおかげで気持ちのいい起床だ。
カンナは結局、
同じく、紺色のバスローブ姿の
すやすやと気持ち良さそうに枕を抱いて眠っている。ただ、可愛らしいのはそこだけで、下は酷い有様だ。
毛布は足もとに蹴飛ばされているし、青いバスローブの腰の辺りがはだけ、カンナの綺麗な生脚が片方だけくの字に曲がって飛び出している。バスローブの布が少しズレれば尻まで見えそうな程に危うい状態だ。
昨日風呂に入った時に脱いだ服やら下着やらは、カンナの足もとに蹴飛ばされた毛布の脇に散らかっているので、彼女が下着を着けていないだろう事は容易に想像がつく。
カンナが寝ている隙に、
「カンナ、おはよう。朝飯食いに行く?」
深い眠りに落ちているであろうカンナに声が届くとは思えないが、一応声は掛けてみる。
「朝ごはんは、まだいいかな」
「え? 起きてたの?」
今まで寝ていたとは思えないほどのしっかりとしたカンナの受け答えに、
「ううん。今起きたよ。
話しながら、カンナは薄目を開けて
どうやら起きるつもりはないようだ。
「カンナさぁ、俺たちはお世話になってる身なんだからさ、初日からダラダラするのは良くないよ。今日は一緒にミモザちゃんの知り合いの子に弓習いに行くんでしょ?」
「行くよ」
「なら早く起きようぜー。俺はもう準備できただぞ」
「やる事はやるよ。でもごめん、朝は弱いんだよ。低血圧でね」
「常に健康体のネフィスに低血圧とかないっしょ。あんまりわがまま言ってると、襲っちゃうぞ〜」
「ははは、
「何だよ、その反応は」
カンナが声を出して笑うのを見るのは初めてだ。ただ呆れて笑ったのか、そういう話題が好きなのかは分からない。
「だって……
「それはそれは、大層俺の事を信頼してくれているみたいで。光栄だな」
「後で必ず合流するから、ご飯は先に食べに行ってて。私には1人の時間が必要なの。モーニングルーティンをこなさないと調子でなくて……」
「モーニングルーティン?」
「モーニングルーティン……」
ルーティンの内容については語らず、枕を抱いたまま意味深に微笑むカンナ。その色っぽい表情に、
「分かったよ。じゃあ、俺は
「ありがとう。行ってらっしゃーい」
カンナはまた薄目を開けて
♢
朝日が窓から差し込んでいるので、この時間は蝋燭もランタンも必要ないくらいに明るい。
業務用冷蔵庫の扉に付いている、食材利用表に記録を付けた際に、冷蔵庫の中を覗いてみたが、そこにあったのは開封されたダンボールが数箱あるだけ。現在パイドパイパーにいる15人が
「食料だけどさ、このレトルト食品の在庫、そこにあるだけなんでしょ? 足りなくない?」
食事を終え、箸と茶碗を置いた
「はい……もう足りないです。探索班が食料を見つけて来てくれない限り、私たちは狩猟生活になりますね。つかささんの班とは別の班が、もうそろそろ戻る時期なので、その持ち帰った食料の量によっては、食事制限しないといけなくなります」
「だよな……まあ、そうなったら俺も協力するよ。貴重な食料分けてもらったしね」
「はぁ……早くお
ミモザは
「ミモザちゃん。それはみんな同じなんだから言わない約束でしょ?」
「ごめんなさい……」
「帰りたいよな。そうだよ。みんな帰りたいんだ。よし! 俺も今日からパイドパイパーのみんなに全面的に協力する! 次回、探索班に入った時役に立てるよう頑張る!」
「
黄色いボブヘアーを揺らし、目を輝かせて拍手するミモザ。頬を赤く染めて喜んでいるのが可愛らしい。
「ミモザちゃんが俺を初めて見た時って、俺、裸だったよね……カッコついてないんだよなぁ。忘れてくれない?」
「忘れませんよ。めちゃくちゃレアじゃないですか、男の人の裸なんて」
「いや……そんな事はないと思うぞ」
男の裸に崇高な何かを感じている様子の幼女ミモザは、ニコニコしながら
しかし、笑顔のミモザとは対照的に、
「
「危険なのはみんな同じでしょ? 食料を見つけなければ生きていけない。燃料を見つけなければ島から脱出できない。みんなが危険を冒してまで必要な物資を探してるってのに、俺だけじっとしてられないだろ?」
「でも……」
その戦闘能力の格差の件も踏まえて、
「
「あー、そうだったね。今のところ全部カンナが代わりに戦ってくれたから」
「なら、こうしましょう!
「ちょっと待って!
「あ、ご安心を。エクセルヒュームの能力は使わないし、
「
「あ、この刀の名前です。
「なるほどな、OK! そのルールでいこう! 弓の稽古は夕方からだし、全然時間あるな」
「え? 今すぐやるつもりですか?」
「もちろん! 俺はすぐにでも……あ、でも、棒なんて持ってないわ。さすがに、初日に拾ったこのボロスコップの柄なんかで戦えるとは思えないしな……」
「ん? ちょっと待って。棒で勝負するのはいいけど、パイドパイパーに槍なんてあるの?」
「ありますよ。私もここに来た時は不思議だったんですけど、何故か廃墟の中の至る所に武器が置かれてて、それを
「へー……そうなんだ。不思議だね。武器って、銃とかもあるの?」
「それはありません。あるのは刀剣類と棒とか槍とか矛のような長柄の武器、そして弓矢のような原始的な武器だけです。ここが日本国内の島なら、銃が無いのも納得ですけどね……」
武術が世界的に発達し始めたのは、ネフィスが誕生してからの事で、せいぜい30年前だ。何でもソツなくこなすネフィスとスポーツや武術は親和性が高く、武術はスポーツ市場と同格にまで発展していた。この島は80年以上前に放棄されているという情報から考えると、武術で使用する原始的な武器が大量に残っているのは不自然だ。フォーミュラが意図的にそのような武器だけ残し、ネフィスたちと未知の生命体『ノクタルス』と戦わせようとしているのではないか、と考えたが、口には出さなかった。
「じゃあ、ご飯も食べたし、武器を探しに行きましょうか」
「そうしよう!」
「私も一緒に行きまーす! 多分
「ありがとう! ミモザちゃん!」
ミモザは
「よし! ミモザちゃんの応援のお陰で俄然やる気が出てきたぞ! 早く行こう!」
「分かりました! じゃあ、行きましょうか。その前に、みんなでお片付けしてから、ですよ?」
「すぐ終わるから
「ゆっくりしててください!」
すっかり
やる事がなくなった
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