第7話 計画
ネフィスの砦『パイドパイパー』に所属する事が決まったアーキタイプの
木のテーブルに出されたグラスに注がれた水で喉を潤すと、茶碗に並々に満たされた雑炊を、
食事を用意してくれたネフィスの
また、1年前に近海にて座礁したフォーミュラのクルーザー内に残っていた食材を回収した事で、比較的様々な味の変化を楽しむ事も出来ると言う。
神父はドイツ出身のロゼ=ロザリオという名で、
「なるほど、澄川は俺たちと同じ延命治療を受けに来たネフィスで、アーキタイプの
神父と同じく、
「はい、その通りです。……あの、
食事を終えた
「何だろう?」
「まず、この島はどこの島なんですか? 日本ですか?」
「おそらく、日本だ」
「おそらく……?」
煮え切らない回答に
「この島にある廃墟は日本のものだ。残っている資料や物資も全て日本語で書かれていた。だが、この島の近海50kmの範囲には大陸はもちろん、小島さえ見当たらない。だからどこの国の領海内にある島なのかも分からない。確実に言えるのは、この島が80年以上前に放棄された島のようだ、という事だけだ」
「近海50kmの範囲に何もないってどうして分かったんですか? まるで実際に見てきたみたいな言い方ですけど」
「『
「そんな能力者もいるんですね。でも……それじゃあ救助を呼ぶ事も出来ないし、脱出しようとしても、どの方角に進めばいいか分からないですね……」
「周りが海じゃなかったら、あたしがビューっとひとっ走りして助けを呼びに行くんだけどね。さすがに海の上は走れない」
静かに隣で雑炊を食べていたカンナも、その深刻な状況に手にスプーンを持ったまま固まっている。
「あ、あの……」
固まっていたカンナが神妙な顔付きで口を開いたので、全員の視線がカンナへと向いた。
「皆さんもネフィスでしたら同じ気持ちかと思うんですけど、フォーミュラの発表では、ネフィスの寿命は30代前半。その延命治療の為にフォーミュラのクルーザーに乗ったのに、事故でこの島に漂着した。皆さんもそうなんですよね?」
「ああ、そうだな」
「なら、一刻も早くこの島から脱出して、フォーミュラに抗議しなくちゃいけないと思うんです。それに、ここには凶暴な怪物がいると聞きました。それなのに、失礼ながら、皆さんあまり……その危機感がないというか……普通に生活しているようなので……」
意を決して意見を述べたカンナは、
すると、神父のロザリオが立ち上がった。
「澄川さん。貴女の疑問はごもっともです。しかし、ネフィスの彼らもしっかりと計画を立て
、この島から脱出する為に組織的に動いているんですよ。ね、
ロゼは
「ええ、まあその計画は神父様が立案してくださったもの。神父様がいなければ、このパイドパイパーを作る事もなかった」
「そうですよ、神父様がいなければ今頃ノクタルスにやられてたかもしれないし、私達が
カフェテリアのキッチンの奥から、調理器具を片付け終わって出て来た
そのまま
それを見て、ロザリオが話を続ける。
「これは主の導きです。僕は主の導きの通りにあなた方に助言をしただけです」
「その脱出計画というのは?」
興味深そうに
「そもそも僕がこの島に漂着したのは、フォーミュラとは何の関係もない船の事故が原因でした。その時たまたま僕は大型のクルーザーを見付けました。僕はそれを使って島を脱出しようとしましたが、残念な事に燃料が空だったのです。その後、この島にいた
「なるほど、脱出用のクルーザーがあるんですね」
「そうなんですよ、
「だからこの島に漂着していたネフィスの皆さんを集めパイドパイパーを作り、そのメンバーで燃料や食料などの物資を探す班を組織し、交代で島を探索しているのです」
「つまり、燃料さえ見つけられれば、この島から脱出できる、って事か。なら俺も協力します! 探索は1人でも多い方がいいでしょう」
しかし、
「いや、
「どういう事ですか?
「探索班は7人1組。それが2班あり、ここから東回りと西回りの2つのルートを探索している。だが、俺たちまでこのパイドパイパーを留守にすると、ノクタルスの襲撃を許し、安住の場所と、せっかく備蓄した食料を失う事になる。だから、探索班は2組、その他の者は留守番組としてチーム分けをしているんだよ」
「そうだぞ、
「あ、いや、そんなつもりで言ったんじゃ……」
「あれー? カンナははっきり言ってたじゃん?
『危機感ない』って」
テーブルから身を乗り出してカンナの顔を覗き込む
「ははっ! 可愛いじゃん、カンナ。まるであたしと出会ったばかりの頃の
「え? そ、そうなんですか?」
突然話題に上げられた
「とにかく、
「探索班に協力してくれるなら、次回の探索班交代の時に班に編成するから、それまでにここにいるメンバーとコミュニケーション取っといてくれよ。今ここに残ってるネフィスの連中と班を組む事になるからな。それと、ノクタルスの事も知ってるなら、自分の身は自分で守れるように武器とか揃えとけ。そんな棒切れは役に立たない」
「は、はい! 分かりました! ちなみに、次回の班編成っていつ頃でしょう?」
「分からない。明日かもしれないし、1ヶ月後かもしれない。とりあえず、今日のところはゆっくりするといい。
「はい! お任せください!
「それでは、
ロザリオも立ち上がり、
「それではお2人共、早いところ居住スペースでお
新しく仲間が増えた事が嬉しいのか、
「よし! 行こう! カンナ行くぞ!」
「うん」
「ん? 何?」
「え? あ、いや、何でも」
「あたしに見惚れるって事は、さてはお前貧乳好きだな?
「いやいやいや! ノーコメント! てか、別に見惚れてません!」
「
「そうなんだ……」
カンナはそんなやり取りを安定のポーカーフェイスで無言のまま
寿命が僅かしかないとは思えない前向きで明るい
もしかすると、パイドパイパーのネフィス達は皆前向きに状況を打開しようとしているのかもしれない。
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