第6話 拠点
島にいたネフィスの
初めに
かつてスコップだった木製の長い棒を片手に、
あまりの空腹で口数も少なく、
「
そんな中、口を開いたのが
「何? 何でも聞いていいよ、
機嫌が良さそうに
「
「ああこれ?」
「確かに、あたしにはこの島にいる獣如きに武器なんて必要ないわな。時速200kmの速度から放つ蹴りに耐えられる自然界の動物なんて存在しないからね」
先程蹴散らした狼の群れにはきっと手加減したのだろう。でなければあの廃墟の街のど真ん中には20頭近い狼の死骸が転がっていた筈だ。
「ですよね? そんな大昔の戦で使うような刀……鹿とか猪の
「この刀はねー……と、言ってる間に到着したよ」
3人は森を抜けて新たな街のアスファルトを踏んだ。
「え、ここが、砦? 廃墟じゃないっすか?」
砦と称された場所を近くで目の当たりにした
「何言ってんだよ、ほら、街の一部を高いバリケードと有刺鉄線で囲んであるだろ? 苦労したんだぞ。お前の幼馴染のつかさも頑張ってくれてさ、普通4人がかりで運ぶ鉄板をあいつは1人で運んでた」
「はは、つかさの怪力は健在か」
確かに建物と建物の間は3m程の鉄板の仕切りで塞がれ、その鉄板の上には有刺鉄線が螺旋状に巻かれ延々と張り巡らされている。野生動物の侵入を阻害するだけにしては些か大掛かりな防壁である事は、
「まさかとは思うんですけど……」
ずっと口を噤んでいたカンナが、不意に口を開いた。
「この島、自然界の動物『以外のもの』がいるって事……ですか?」
「え……」
カンナのあまりに恐ろしい予想を聞いて、
「この島で恐ろしいのは熊でも狼でもない。得体の知れない邪悪な見た目の化け物だ」
「化け物……!?」
「そう。奴らは大型の猿ほどの体躯を持ち、身体を覆う爬虫類のような黒い外殻は刀を弾き、鋭い爪は獲物の肉を抉る。最大の特徴である異様に長い舌で獲物を絞め殺し、その体液を啜る……。そんな化け物がこの島には何十匹いや、何百匹と存在する。幸い、陽の光が苦手なのか昼間は見かけないが、日が落ち、辺りが暗くなると奴らはどこからともなく湧いてきて集団で獲物を探し始めるんだ。あたし達はその化け物を“ノクタルス”と呼んでる」
まるで怪談話を語るようなおどろおどろしい雰囲気で得体の知れない怪物の生態を説明する
「ま、人間が餌食になった事は今の所ないけどね」
「な、何だ、それなら良かった」
「島の至る所で野生動物が引き裂かれたり、絞め殺されて干からびている死骸を見掛けるから、普段はそうやって動物を襲って生きてるんだろうな。肉は食わずに体液だけを啜ってな。でも安心するなよ。ノクタルス共が実際にあたし達を襲って来た事があるから、こうして防壁を作って砦に籠って生活してるんだからな。いつ奴らがあたし達を殺してもおかしくはない状況なんだよ」
「そ、それなら、ここに籠るよるり、島から脱出した方がいいですよ……」
不安そうに胸の前で拳を握り、カンナは
「そんな事、分かってんだよ。あたし達だってさ」
「あ、そうですよね、すみません。出しゃばったことを……」
申し訳なさそうに俯くカンナを見て、
「あー、ここで長話はやめよう。詳しい話は中に入ってからな。メシ食ってからにしよう」
「
「お帰りなさい、
所々錆びた緑色の扉から出て来たのは、華奢なブロンドの髪の女の子だった。
左耳の上に髪を団子のように纏めており、瞳はカンナと同じ綺麗な水色。黒いミニスカートに
しかし、その刀よりも
「客じゃないよ。新しい仲間だ」
「本当? こんにちは! 初めまして、私は
「こっちの女が
「
「素敵な名前です! とっても綺麗じゃないですか! お2人共、穏やかで澄んだ小川の景色を想像させてくれます!」
「あーそーだ。フーケーか。セセラギフーケー。
「どう? って、何がですか!
相変わらず無礼極まりない態度の
「あー、大丈夫、まだ出会って間もないけどそれは分かってるから。な、カンナ」
「うん」
相変わらず口数の少なくないカンナ。元々クールで静かだが、
「とにかく、
「パイドパイパー?」
「この砦の名前だよ。いいから来い。大丈夫だと思うけど、ここのリーダーに加入許可を貰いに行くぞ」
♢
鉄の扉の中は、野生動物と戦闘になった廃墟の街と見た目は変わらない。朽ちた建物が緑の蔦に覆われ、現実の世界から隔離された不思議な雰囲気を纏っている。
ネフィスがいるという話だが人の気配はまるでない。
そんな静寂の中の廃墟のボロボロのアスファルトを、4人は進む。先導する
「ここは中心のあの大きな大学の研究棟から半径およそ200mの地点の道路を全てバリケードで封鎖して囲った簡易な砦になっています。出入口はさっき入って来た南側の入口の他に北と東と西に1つずつ、合計4箇所あって全ての扉は中からしか開きません。中は結構広くて、パイドパイパーの皆が大学近辺の居住スペースにある建物をそれぞれ自分のお
「へぇ、なるほどね……」
一方、隣を歩くカンナは、時々チラチラと何かを見付けたかのように視線を動かすが、その視線を追っても
「
「え!? そうなんですか?? あー、でも、つかささんは今はここにいません。あの人は探索班の任務で昨日ここを出たばかりで……長ければ1ヶ月は戻りません」
「マジで!? 何だよー、一足遅かったかー」
そそくさと先頭を歩いていた
「悪い、
「いや、大丈夫ですよ、
「そうだな、収穫があればもっと早く帰って来る」
「なら全然問題ないです! 俺がクルーザーに乗った目的は、つかさの無事をこの目で確認する事だったわけだし」
そう言って
隣を無言で歩くカンナが心配そうに横目で
「探索班は2班あって、7人ずつで構成されているので、現在パイドパイパーにいるのは私たち含めて……えっと」
「15人ですね」
「え!?? 何で分かったんですか?? パイドパイパーの合計所属人数って私まだ言ってなかった気が……」
カンナの発言に驚いた
「あぁ……えっと……それはですね……」
相変わらず、
「
興奮する
いつの間にか先程見えていた大学の敷地内に入っていたようで、このオープンテラスはその大学のカフェテリアのようだ。そして、そこには確かに2人の男性が腰掛けており、
「見かけない顔だな。またフォーミュラのお客様ですか?
「哀れな2匹の子羊に神のご加護を」
椅子に座っている2人の男性。1人はアイドルグループにいそうな整った顔立ちの茶髪のイケメンで、もう1人は神父のような黒い装束を纏って
「
「アーキタイプ……」
「
「神父様だってアーキタイプなんでしょ? て事は、パイドパイパーにアーキタイプが入れないって決まりはない。それでもギャーギャー騒ぐ奴はあたしが責任持って何とかする」
「確かに、僕がここにいるのにアーキタイプは入れないというのは筋が通りませんね。元より人種で差別をする事は
柔和な物言いで神父の男が口添えをすると、
「
「そうと決まればさっそくおもてなしの食事を」
「あー! 神父様! お食事は私が用意しますからのんびりしていてください!」
「さ、リーダー
その瞬間、
「お腹空いたね」
隣に座ったカンナだけがそれに気付き、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます